チェリンは行きつけのバーでサンヒョクを待ちながら、ロックを何杯も飲んでいた。すっかり酔っ払って頭がぼんやりとしてきたのに、一向に涙は止まらなかった。ミニョンが交通事故に遭って昏睡状態に陥ってから、心が千々に乱れていた。わたしの恋人として韓国にやってきたミニョンが、なぜユジンのために交通事故に遭うのか、その事実をどうしても受け入れられなかったのだ。
チェリンは遠い昔、初めてチュンサンを見た時のことを思い出していた。はっきり言ってひとめぼれだった。彼が教室に入ってきたときから、その知的な横顔や低くて心にしみるような声や、少しぶっきらぼうで冷たいしぐさや、すらっとした学生服姿に目を奪われていた。あの日、私になら心を開いてくれるに違いないと、「カンジュンサンは私がもらった」とユジンたちに宣言した。そしてカンジュンサンの席にあいさつに行き、「オチェリンよ。よろしくね」と言っても、チュンサンは冷たい目でぎろりとにらむだけだった。それでも、チュンサンは照れてわざと自分に冷たくしているのだと思い、気にしないふりをしていた。
またあるときは、チュンサンが体育の時間に、バレーボールで大活躍をしていた。彼はなぜか同じチームのサンヒョクの邪魔ばかりしていたけれど、わたしはチュンサンさえ活躍できれば、サンヒョクやチームがどうなろうとどうでもよかった。その点でも私たちは性格が似ていたと思う。それなのに、ユジンたら、心配そうな顔でチュンサンとサンヒョクの顔を交互に見ていたっけ。あのとき、チンスクは「チュンサンすごいね。やっぱり男の子って力だね」って興奮してたから、私は言ってやった。「そうかしら。男ってのはね、三つが重要なのよ。一つは知性、それから野生、、、、最後に感性!」その時、私のところにボールが転がってきて、チュンサンに渡した。その時の彼の眼差しは、今思い出してもドキドキする。
その日の放課後だった。チュンサンと私が一緒に帰っていた時に、前にユジンとサンヒョクが手をつないだり、くすぐったりしてイチャイチャして帰っているのが見えた。それをぼんやり眺めているチュンサンの顔が浮かなくて、少しドキッとした。「あの二人、あれで隠してるつもりなのかしら?絶対付き合ってるわよね。でもわたしは正直な方が好き。あなた、私のこと好きでしょ?あなたって自分から好きって言えないタイプなんでしょ?よくわかってるから。いいわ、付き合ってあげる。」わたしは自信満々で言った。チュンサンたらなんだこいつという顔で「お前っておもしろいな。その想像力を他に使えば?」と言われてしまった。あれも私への照れ隠しだと思いたかったけど、ちょっと傷ついたな。
あれからずいぶんたつけれど、今だに二人が惹かれあった理由が分からない。なぜわたしじゃなくてユジンなんだろう。もし、チュンサンがユジンを選ばすに私を選んでいたら、死ななかっただろうにと、当時の私はユジンをずいぶんと恨んだことを思い出した。
そして、ミニョンとして彼に会ったとき、今度こそ実らなかったチュンサンとの初恋をやり直せると思った。ミニョンはわたしを愛してくれたし、わたしに見せてくれた優しい眼差しは本物だったはずだ。それなのに、またユジンが現れて、今度はミニョンを奪っていった。あんなに明るくて社交的で洗練された自信家のミニョンが、あっという間に変わってしまった。時に弱々しくて、思い悩む平凡な1人の男に変わっていった。そしてわたしをとても冷たい目で見るようになった。これも全てチョンユジンのせいなのだ。ミニョンを愛しているのに、今となっては、昏睡状態の彼のそばにいることもできない。チェリンは悲しくて悲しくてたまらなかった。
サンヒョクはバーに入ってすぐ、チェリンを見てため息をついた。チェリンはぐでんぐでんに酔っぱらっていたのだ。身なりはいつもと変わらなかったが、目は泣きはらして真っ赤だし、明らかに絡まれそうだった。ただでさえ、ユジンのチュンサンへの愛を見せつけられたばかりなのに、今日はそれを許せるような気分ではなかった。それでもサンヒョクはチェリンの横にそっと座った。
「キムサンヒョク!待ってたわ。お仲間さん」
サンヒョクはチェリンを冷たい目で見つめた。
「なによ、失恋した者同士で飲みましょう。あんたも飲みたいでしょ?」
チェリンは酒を進めながら独り言のように話し続けた。
「わたし、心配で心配で昨日も今日もミニョンさんのところに行きたかったのよ。でもいけない。だって、彼のそばはユジンの居場所なのよ。チェリンが、このおチェリンがよ、何にもしないままユジンに負けちゃった。」そういうと号泣しながら、再び水割りを飲み始めた。
「なんで、なんであたしたちが、チュンサンとユジンのせいでみじめにならなくちゃならないの」
サンヒョクは慌てて水割りのグラスを奪った。これ以上飲ませたらだめだ。
するとチェリンは上目遣いで話し始めた。
「ねぇ、サンヒョク。わたしたち付き合っちゃえばいいじゃない。お互いに失恋の傷をいやそうよ。ねぇ、いいでしょう?」
サンヒョクが返事をせずにいると、チェリンは絡み始めた。
「どうしてよ?私が嫌いなの?ユジン以外は女じゃないんだ。どいつもこいつもユジンユジンてなんでわたしじゃないのよ!ミニョンさんもチュンサンも、あんただってユジンばっかり。チュンサンはわたしにとって初恋だったのよ!」そう叫ぶと、サンヒョクの手を振りほどいて、よろけながらバーを出ていった。サンヒョクは、会計を済ませると慌ててチェリンを追った。
チェリンは横断歩道の中ほどまでくると、「死んでやるわよ」と言いながら、サンヒョクにしがみついて泣き崩れた。二人は赤になった信号のせいで、広い道路の真ん中の中間帯のところでとどまる羽目になった。チェリンは泣き崩れたまま座り続けている。その横を全速力で走る車たちが、次々とクラクションを鳴らして通った。サンヒョクは静かにチェリンの前にしゃがみこんだ。チェリンは涙を流して話し始めた。
「ねぇ、サンヒョク。ミニョンさんのそばで看病したいのに、出来ないの。なぜ私の愛する人は、いつも私を愛してくれないのかな?なんでわたしは好きな人のそばにいられないのかな、、、。」