「お母さん、私チュンサンがいいの。彼じゃなきゃダメなの。」
すると、ギョンヒはユジンをきっとした目でにらみつけた。
「なんでよりによって彼なのよ?これ以上つらい目に遭いたいの?」
ユジンはギョンヒの手を握りしめて言った。
「彼とならつらい目に遭ったってかまわない。だからお願いだから許して。彼とならどこにだって行けるから。」
「たとえ私が許さなくても?」
ユジンは雷に打たれたようにびくっとした。
「お母さん!」
するとギョンヒは涙を流しながら話し始めた。
そういうと、ギョンヒは1枚の写真をユジンに見せてくれた。それは遠い昔から父のアルバムにある1枚の写真だった。若くて美しい女性の左右に二人の男性、独りはサンヒョクの父のジヌ、もう一人はユジンの父のヒョンスが写っている。昔からこのきれいな女性はパパの元カノかしら?と冗談を言っていたのだが、それは紛れもなくカンミヒだった。なぜ今まで気が付かなかったのだろう。
「婚約?」
「そう、私と出会って結婚するまでは、二人は婚約をするほど親しい間柄だったの。でもね、彼女の執着がお父さんと私をどれだけ苦しめたことか、、、。結局彼女は私たちが結婚したことで自殺未遂をして、それを機に私たちの縁は切れてしまった。そして入水自殺を図った彼女を助けたのがサンヒョクの父のジヌさんだったの。それで何とか収まったんだけど、私は彼女に大きな罪悪感を抱いてるのよ。だから彼女が嫌とかダメというならどうすることもできない、、、。だって死ぬほどつらい思いをした彼女が、一生私たちを恨み続けると言って故郷を去った人があなたの義母になるのよ。それなのに、彼女があなたを受け入れるわけないじゃない。絶対にダメよ。この結婚は絶対にダメ。」
そういうと、あとはギョンヒは狂ったように泣くばかりで、話にならなかった。ユジンはそんなギョンヒをなだめて布団に入れた。そして、いつまでも自室でアルバムの写真を見続けた。思いもよらない両親の過去を知ってしまい、頭は混乱するばかりだったのだ。
そのころミニョンはドラゴンバレースキー場に戻ってキム次長を訪ねた。実はキム次長には、ユジンにプロポーズをあらためてするために、オープン前のレストランに電気系統などを通して環境を整えてもらうように依頼してあったのだった。キム次長はミニョンを見るとにやりと笑った。
「なんだ、独りで帰ってきたのか?ユジンさんは?」
「明日戻るそうです。明日までに間に合いそうですか?」
「あのな、間に合わなかったら蛍でも飛ばせばいいじゃなか。全くもう。成功報酬がスーツ1着じゃ割に合わないな。」
すると、奥からチョンアもふくれっ面で現れて言った。
「ほんと、服だけじゃ割に合いません。選んでおいた服を取りにソウルまで往復させるなんて信じられない。」
「このご恩は一生忘れませんから」
ミニョンは神妙な面持ちで言うのだった。
「ところで結婚の挨拶はうまくいったのか?」
「そうですね、きっと大丈夫だと思います。」
ミニョンは明るい笑顔でそう言ったが、その顔はどこか引きつっていた。なんとなく冷たい空気のままミニョンは笑顔で去っていった。そんなミニョンを二人は不思議そうに見送るのだった。
その夜ミニョンは全く眠れない一夜を過ごした。顔を洗ってすっきりさせてみたり、ソファに横になったり、何をしても落ち着かなかった。ユジンの母親の様子がただ事ではなさ過ぎて、不安が渦巻くばかりだった。
次の日の夜、ユジンは春川から帰ってきた。バスを降りて歩くユジンの表情はどこまでも暗かった。ミニョンにいったいどこまで話せばいいのか、どのように説明したらよいのか、いくら考えてもよい考えは思いつかなかった。両親とミヒの暗い秘密はおいそれと口に出せるものではなかった。ユジンはロビーに座っているチョンアとキム次長にミニョンの居場所を尋ねた。すると、ふたりは明るい顔でミニョンが仕事場のレストランにいると教えてくれた。ユジンは二人のにこにこ顔にも気が付かずに、言われたとおりにレストランに向かった。キム次長とチョンアは「これで二人はラブラブね。任務完了。うらやましいわ。」と満足顔だったが、二人の未来に暗雲が立ち込めているなど、つゆほども気が付いていないのであった。