男性と女性、どちらのほうが、自惚れが強いか。
女友達とそんな話をしていた時、絶対に男性だと、2人の意見が一致した。外見上のナルシストという面では、女性のほうだけれど。
友達のS子は、自惚れの強い男性に会った体験を話してくれた。
その男性に誘われて、レストラン・バーで待ち合わせした。
熟年紳士の彼は、ショルダーバッグの他に、紙がビッシリ詰まっている下げ袋を、テーブルの横に置いていた。
仕事の資料か何かかと、S子は最初、思ったらしい。
料理を選び、ワインで乾杯。久しぶりに会ったので、2人はなつかしい気分で言葉を交わした。
注文した料理の皿が次々運ばれてきて、味わい始めて5分もたたないころだった。
彼はテーブルの横に置いた下げ袋の中から、数枚の紙を取り出し、
「最近、書いた作品なんだ」
と、誇らしげな顔でS子に渡したのである。
それは、詩だった。彼が、趣味で詩を書いているとは、聞いていた。
差し出された紙にワープロの文字でプリントしてある詩を、S子は興味半分に読み始めた。
特に素晴らしい詩とは思わなかったが、
「いい詩ですね」
そう言って、原稿を返した。お世辞というより、礼儀である。その詩の感想や批評を聞いて彼がプロの詩人になる決意をするというわけではなく、あくまでも趣味なのだから、いい趣味という意味で褒めたのである。
料理を、さらに一口、二口味わった時、
「これは、3か月前の作品」
またしても彼は、数枚の詩の原稿を、T子に渡した。
それが何と、6回も繰り返されたのである。
6編めの詩を読まされたS子は、もうお世辞も言わず、読んだという顔つきだけで原稿を彼に返した。
すると彼は、不満そうな顔をした後、ある有名詩人の名前をあげ、自分の作品を褒めてくれたと誇らしげに語るのだった。
S子は、詩のことはよくわからないが、饒舌なお喋りふうの文章ばかりで、詩と言えるのかどうか、というのが率直な感想だった。
その日、ワインつき食事を奢るより、自分では素晴らしいと思い込んでいる詩の原稿を、レストラン・バーのような場所で読ませる彼の神経と自惚れに、S子は呆れて、彼と会うのを最後にしたと言う。
ところで、飲食を共にした後、ホテルへ行こうと誘う男性の自惚れも、
(ええッ!! このあたしが、そんな誘いに応じると思い込んで、今まで飲んだり食べたりしてたわけ?!)
と、女性にとっては驚愕させられることが多いようである。
ただし、そんな時のS子は、
(あたしみたいな魅力的な女が、あなたみたいな男性とベッドを共にするはずないでしょう。鏡の前に全裸で立って、よお~く、ご自分を知ってから、そんなセリフを口にできるかどうか判断して欲しいわ)
なんて、残酷な言葉を内心、呟くらしい。
相手の女性が、ホテルの誘いに応じるのは当然、と思い込んでいる男性の自惚れは、男性特有の自惚れであり、
──あたしみたいな魅力的な女が──
と、S子のように内心、呟く女性の自惚れは、女性特有の自惚れであり、結局、どちらもどちらということになるのかも──。
女友達とそんな話をしていた時、絶対に男性だと、2人の意見が一致した。外見上のナルシストという面では、女性のほうだけれど。
友達のS子は、自惚れの強い男性に会った体験を話してくれた。
その男性に誘われて、レストラン・バーで待ち合わせした。
熟年紳士の彼は、ショルダーバッグの他に、紙がビッシリ詰まっている下げ袋を、テーブルの横に置いていた。
仕事の資料か何かかと、S子は最初、思ったらしい。
料理を選び、ワインで乾杯。久しぶりに会ったので、2人はなつかしい気分で言葉を交わした。
注文した料理の皿が次々運ばれてきて、味わい始めて5分もたたないころだった。
彼はテーブルの横に置いた下げ袋の中から、数枚の紙を取り出し、
「最近、書いた作品なんだ」
と、誇らしげな顔でS子に渡したのである。
それは、詩だった。彼が、趣味で詩を書いているとは、聞いていた。
差し出された紙にワープロの文字でプリントしてある詩を、S子は興味半分に読み始めた。
特に素晴らしい詩とは思わなかったが、
「いい詩ですね」
そう言って、原稿を返した。お世辞というより、礼儀である。その詩の感想や批評を聞いて彼がプロの詩人になる決意をするというわけではなく、あくまでも趣味なのだから、いい趣味という意味で褒めたのである。
料理を、さらに一口、二口味わった時、
「これは、3か月前の作品」
またしても彼は、数枚の詩の原稿を、T子に渡した。
それが何と、6回も繰り返されたのである。
6編めの詩を読まされたS子は、もうお世辞も言わず、読んだという顔つきだけで原稿を彼に返した。
すると彼は、不満そうな顔をした後、ある有名詩人の名前をあげ、自分の作品を褒めてくれたと誇らしげに語るのだった。
S子は、詩のことはよくわからないが、饒舌なお喋りふうの文章ばかりで、詩と言えるのかどうか、というのが率直な感想だった。
その日、ワインつき食事を奢るより、自分では素晴らしいと思い込んでいる詩の原稿を、レストラン・バーのような場所で読ませる彼の神経と自惚れに、S子は呆れて、彼と会うのを最後にしたと言う。
ところで、飲食を共にした後、ホテルへ行こうと誘う男性の自惚れも、
(ええッ!! このあたしが、そんな誘いに応じると思い込んで、今まで飲んだり食べたりしてたわけ?!)
と、女性にとっては驚愕させられることが多いようである。
ただし、そんな時のS子は、
(あたしみたいな魅力的な女が、あなたみたいな男性とベッドを共にするはずないでしょう。鏡の前に全裸で立って、よお~く、ご自分を知ってから、そんなセリフを口にできるかどうか判断して欲しいわ)
なんて、残酷な言葉を内心、呟くらしい。
相手の女性が、ホテルの誘いに応じるのは当然、と思い込んでいる男性の自惚れは、男性特有の自惚れであり、
──あたしみたいな魅力的な女が──
と、S子のように内心、呟く女性の自惚れは、女性特有の自惚れであり、結局、どちらもどちらということになるのかも──。