2022-04-10 16:43:41 | 未来記
5.めげないで!
キラシャ達が、何匹か動物の捕獲に成功した後、パパがもういいよと言ってくれたので、今度はオパールおばさんの会社の栄養ドリンク配りを手伝うことにした。
まだボックスが完全に復旧していないので、従業員の人達から受け取った栄養ドリンクを居住区域に戻って来た子供達に配るのが仕事だ。
パールも、オパールおばさんに頼まれた仕事とあって、誇らしげに働いている。マイクも、ドリンクを受け取った子がうれしそうにしているので、ゴキゲンだ。
ただ、スクールの知ってる子と出会って、無事だったことを喜び合えた一方で、パールに向かってナンで帰って来たの? と詰め寄る子もいた。
パールを歓迎する集会が、ニュースで流れたこともあって、パールはずっとアフカ・エリアにいると思っていたようだ。
それに、突然の大地震でひどい揺れに遭い、ケガをして、大変な思いをしていたのに、他のエリアでテレビに出て、世界的に有名になった子がいることに対するヤッカミも感じた。
そばにいるマイクやケンがオチャラケなことを言って、笑いでごまかそうとするが、そんなときのパールの顔は、かわいそうなくらい青白くなっていた。
キラシャは思った。
『パールだって、毎日のように近くで銃声や爆弾の音がして、危険な毎日を過ごしてたンだ。あたしも経験してみてわかったけど、みんなもその怖さ、わかってほしいな。
それに、パールがココに帰って来たのには、理由があるンだ。
パールがアフカに帰っても、安全に暮らせるには、どうしたらいいンだろうってことも、いっしょに考えて欲しい。
あーっ! でも、あたしには、うまく説明できそうにないよっ!
こんな時、タケルがいたらな~ 』
今思うと、タケルがいるだけで、キラシャは一番強い盾になってもらっていたような気がする。
ケンも、強い上級生に目をつけられて、出会うたびにからかわれ、仲間も次々にイジメやいたずらに加担するので、部屋から出られなくなったことがあった。
幼いころから仲の良かったキラシャが、Mフォンで説得しながら、ケンをスクールへ連れ出そうとすると、同じイジメを受けた。
それを助けてくれたのが、タケルだった。
強い相手ほど、タケルは必死に立ち向かってくれた。
相手にケンカで殴られて、ひどいケガをしたのに、タケルは先に暴力をふるったと相手に訴えられて、裁判で負けても、黙って罰を受けていた。
相手が根負けして、イジメを止めるまで、そんなことが何度も続いた。
今度は、あたしがタケルのように、自分がどんな目に遭っても、パールをしっかり守ってあげないと…
タケルほど頼りがいはないけれど、ケンもマイクも、必死でパールを守ってくれる気がする。何があっても、パールが無事に家族と会える日を迎えられるようにしてあげなくちゃ!
パールがイヤな言葉をかけられて、暗い顔をするたびに、キラシャは『めげないでね!』と心の中で応援しながら、肩をポンっとたたいて、次の訪問先へと急いだ。