2021-09-23 22:49:00 | 未来記
16.タケルの迷い
タケルは、無許可で宇宙から転送したルール違反には問われるが、他の少年のような犯罪に手を染めるようなことはしていなかった。
宇宙ステーションでは、裁判所に被害者として出廷していたのに、ひょんなことから、キララに巻き込まれて、ここに来ただけなのだ。
防衛軍の上官が、口をはっきりと動かしてゆっくり話すので、タケルは声が聞き取れなくても、だいたいどんなことを言っているのかはわかった。
武道の技や相手の仕留め方など、どこで習得したのかと、根掘り葉掘り聞かれたが、タケルはネットで見て、真似をしていただけと答えた。
耳の聞こえないタケルは、火星に行くと決まってから、何か危ないことに遭遇した時に、自分の身は自分で守れるよう、普段から襲ってくる相手を倒す訓練をしていた。
火星へ行く宇宙船の中では、それが過剰反応になって、襲われてもいないのに、相手を倒すことで自分を守りたいという本能が働き、乱闘騒ぎになってしまった。
『このままじゃ、ちょっとしたことで身体が反応して、暴力ふるってしまうかも…
MFiエリアに戻ったとしても、前みたいな生活はできそうにないなぁ… 』
タケルは、上官の話を口の動きで理解しながら、自分はこれからどうしたらいいのか、真剣に悩んだ。
キララは、あれから一度も姿を現していない。少年達がこれからどうするのか、どこかで見ているのだろう。
少年達の処遇は、次の日に決まるようだ。
タケルは、少年達とともに、手錠をはめられたまま、倉庫のような所に移され、足にも錠をはめられ、寝袋を敷いて、そこでひと晩を過ごすことになった。