2021-10-07 21:34:47 | 未来記
1.パパからのメール
地下のドームは、どこも薄暗く時間がわかりにくいが、もう子供達を起こしても良いと判断して、デビッドおじさんが声をかけてきた。
「キラシャ…、ケン…。起きなさい。君達の住むドームの近くで、大地震が起きたようだ。
君達の家族や保護者に、連絡がつくといいのだが… 」
いろんなことが重なって、疲れがマックスにたまり、銃声や爆発音で何度も目が覚めたこともあって、子供達はボーっとした顔のまま、デビッドおじさんを見た。
「キラシャ、大丈夫か? 寝られなくて、目がはれてしまったようだね」
キラシャは、タケルとの夢の出会いの後、しばらく涙が止まらなかったので、おじさんに見えないように、恥ずかしそうに枕にしていたタオルで顔を隠した。
キラシャとケンは、近くの火山の噴火やプレートの移動で、小さい地震は何度も経験しているが、実際の大地震に出くわしたことはない。
デビッドおじさんに、どう答えて良いのかもわからず、ケンがMフォンでニュースを見ると、確かにMFiエリアの大地震のことが出ていた。
震源も、自分達のいるドームに近い所だ。
キラシャも、メールを確認してみたが、パパやママからの地震が起こったというメールはない。
大きな地震が起きた後は、しばらく通信できないと授業で学んだことを思い出した。
『どうしよう。パパもママも無事かな…? 』
ケンは、ヒロに連絡しようとしたらしいが、つながらないようだ。
ただ、ケンはムッとした顔をして、ヒロから来ていたメールを読みながら言った。
「ヒロは、Mフォンの不正使用で、警察から取り調べを受けることになったって。
まだ、地震が起きる前だったンだろうな。
その後は、わからない。
ヒロがもっとさ、転送先で何が起こるのか、説明してくれりゃさ。
キラシャをあんな目に遭わせずに済んだのに…
オレ達のことをちっとも考えずに、勝手に転送するからだよ!
まったく、ひどい奴だ! 」
キラシャも、ヒロに対しては、ケンと同じような気持ちでいる。
だけど、タケルもあの危険なトコで、武器を持った怖いおじさん達と戦おうとしていた。
だから、ヒロが黙っていたことは、何となくわかる気もした。
ひょっとして、夜中の出来事が夢でなかったら、タケルはまだこの近くにいるかも…。
タケルは、MFiエリアに帰るとは言わなかった。
これから、どこで、何をして生きてゆくのだろう?
…ヒロなら、知っているのかもしれない。
その時、キラシャのメールに着信音が鳴った。パパからの伝言メールだ。
キラシャは、パパが送って来た声を、デビッドおじさんにも聞こえるように音量を上げた。
≪キラシャ、そっちはどうだ?
おなかをこわしてないか?
今朝、こっちで大地震が起きた。
電話がつながらないから、伝言メールにした。
ネットがつながれば届くから、届いたら知らせてくれ。
今、パパは動物園だ。ママも大丈夫。
でも、小動物が逃げてしまった。
飼育係みんなで探してるが、なかなか見つからない。
キラシャと遊んでたクーやポンタ、他にもたくさんいる。
おまえが声をかければ、戻って来るかもしれない。
頼むから、一日も早く帰って来てほしい。
パパもママも連絡を待ってるよ≫
「わかった。おじさんは、MFiエリアへ向かうレスキュー隊がいつ、どこから出動するか、防衛軍の知人に聞いてくる。
ひょっとしたら、その便に入れてもらえるかもしれない。
ホテルから別の場所へ移動するよう言われたら、おじさんもそこへ行くからね 」
デビッドおじさんは、そう言って、その場を離れた。