2013-02-17
1.アニキの正体
「ちょっと聞いていい?」
少年の1人がキララに尋ねた。
「何だい? アンタらは、元いた所に戻りゃいいンだろ?
アタシはタケルに話してるンだよ! 」
「…だから、オレらのことじゃなくてさ。
さっきの映像で、すっごいきれいな女の子が映ってたじゃないか。
あの子も、あの時に犠牲になっちゃうのか、聞きたかったンだけど…」
キララは、プチっと切れて怒鳴り始めた。
「アッタリまえじゃないか! みんな、銃で倒れてンだ!
あの場所で生きてた奴なンていないさ!
それとも、何かい?
アンタ達がこれからあそこへ行って、奴らを助けてやるっていうのかい?」
少年も負けずに、言い返した。
「でもさ。タケルには助ける気があるのかって言うけど
じゃぁ、ウェンディはどうやったら助けてやれるっていうの? 」
キララ(ウェンディ)は、また何か思いを巡らせているようだ。
「…う~ん。残念だけど、もう終わってる。
心配しなくていいさ。あの子達は無事だよ…」
その時、タケル達が縛られている部屋の戸が開いて、防衛軍の制服を着た人が入ってきた。
顔を見ると、タケル達とさっきまで一緒にいたアニキだった。
アニキはキララに向かって言った。
「情報提供に感謝するよ。
君のおかげで、起こるはずのアフカの乱射事件を未然に防ぐことができた。
君が宇宙ステーションに時々現れる幽霊ではなく、
防衛軍に協力的な、予知能力のある人間であることは、
我々も保証するよ」
そして、少年たちに向かってこんなことを言い始めた。
「今まで黙っていて悪かったが、私は防衛軍の兵士だ。
やぁ、タケル。
君には、技術者として接していたけど、私は防衛軍の一員でもある。
実は、君がキララと呼んでいた女の子と出会うのではと、見張っていたんだ。
防衛軍にもいろいろあってね。こんなひ弱な技術者でも、役に立つことがあるらしい。
もうすぐ、防衛軍の宇宙船が到着する。
これから、あの宇宙船の乗組員を逮捕して、ラミネス宇宙ステーションに戻ることになる。
君達と一緒にね…」
タケルは、信じていた人に急に裏切られた気がした。
アニキは、なぜ最初から防衛軍の兵士だと言わなかったのだろう。
キララは、宇宙ステーションに戻ると聞いて、アニキにかみついた。
「言っとくけどさ。
アタシは、アンタがあのMフォンの使い方教えてくれたから、お礼に教えてやったのさ!
アンな大きな事件を予知したこと、言っても信じないと思ったからさ。
まぁね。アタシの言うこと、信じてもらえたってことは良かったよ。
だって、宇宙ステーションじゃ、言っても誰も信じてくれなかったからね。
…でもさ…
防衛軍にだって、助けてもらえなかった人がいっぱいいたンだ!
アタシの家族もだよ!
11年前に、隕石が地球にぶつかるから、宇宙船に乗って逃げたンだ。
ソンときゃ、アタシにも、ママとパパがいたンだよ!
だけど、細かい石が数えきれないくらい当たって、宇宙船に穴が開いたンだ。
赤ン坊だったアタシだけ、丈夫で安全な場所に閉じ込めて…
みんな宇宙のちりになっちまった…」
キララの声は、不思議とタケルの心に届いていた。
キララの目から、初めて涙があふれ出たのを、タケルは妙な気持ちで見ていた。
キララは泣きながら、叫んだ。
「もし、あンとき、防衛軍が来て助けてくれたら、アタシの家族だって今も生きてるンだ!
アタシだって、普通の女の子みたいに、きれいな服着て、親に甘えてみたいさ。
できることならね!
アタシが生まれたってとこの、地球にも行ってみたいさ…」
ここまで言うと、キララの表情が、また小悪魔のように変わった。
「それにさ、アノ事件はなくなったかもしれないけど、
タケルの好きなアノ女の子は、これからまたキケンなグループに捕まるンだよ。
アンタの男友達と一緒にね。
いくら防衛軍がいたって、助からないかもしれない。
アタシの家族みたいに…。
このまま宇宙ステーションに戻ったって、アタシは消えるだけだよ。
防衛軍の相手なンて、してらンないさ。
でも…もし、地球に行ってイインだったら…
アタシにできることで、役に立つことがあるかもね…」
防衛軍の若い男は、キララの言いたいことを黙って聞いた後、こう言った。
「わかった。君のことを隊長に伝えておくよ。
相談してみるから、しばらく待ってくれないか」
と言い残し、タケルをちらりと見て、部屋のドアを閉めて立ち去った。