2012-12-04
5.にぎやかなお祭り
それまで映画を流していた広場で、あちこちから太鼓の音が鳴り響き始めた。
最初はバラバラに鳴っていたが、だんだん音が重なると、それに笛の音が加わり、他のいろんな楽器の音も一斉に鳴り響いた。
アフカ・エリア独特の、民謡音楽の演奏とお祭りが始まったのだ。
広場に集まった人達は、音楽に合わせながら、思い思いに自分の手足を動かし、自分の民族の踊りを始めた。
何台かのカメラが人々を撮り始め、大きなスクリーンに、楽しそうに踊り始めた人々が映し出された。
キラシャは、アフカ人の動きの早さにびっくりして、最初はじっとその様子を見ているだけしかできなかった。
キラシャの生まれ育ったエリアで、音楽に合わせて踊るのは、ダンスの授業と、誕生日会でのカラオケの時くらいだったから。
独特な音楽の調子に合わせてうまく踊れるほど、キラシャは踊りが得意じゃなかった。
気がつくと、パールは兄弟達と一緒に、見たことがないくらい、はしゃぎながら踊っていた。
マイクも、上機嫌でパールを見つめながら、大きな身体を揺さぶっていた。
ケンは照れくさそうに、踊っていいのか、どうしようかと迷っている感じだ。
キラシャは、ちょっとホッとして、ケンに苦笑いをしてみせた。
それでも、響き渡る太鼓と音楽、周りの人達の踊りや叫び声で、熱気がムンムンしてくる。
キラシャも、ケンをつつきながら、少しだけ軽く身体を動かしたりして、雰囲気に慣れようと努力してみた。
車いすのオパールおばさんも、元気に踊る子供達と、その姿を見守りながら、軽く身体を動かすルビーおばさんを見つめた。
ルビーおばさんは、夫や子供達のことを心配してか、表情は曇りがちだが、久しぶりに見るパールの踊りに、少し心が和んだ様子だ。
オパールおばさんが、車いすの後ろに立っているデビッドおじさんを振り返ると、デビッドおじさんもおばさんが何か話しかけようとしていることに気づき、顔のそばへ耳を寄せた。
それを見かけたキラシャは、デビッドおじさんとオパールおばさんが、とても仲の良いカップルに見えてしまい、
『大人になっても、タケルとずーっと、こんな風にできたら良かったのに…』と思った。
『タケルは、今いったいどこにいるんだろう?
会えるのなら、宇宙の果てにまで飛んで行っても、会って抱きついて
タケルの耳元に話しかけたい…
ホントに会いたかったんだよ~って…』
キラシャは、胸がキュンとするくらい、せつない気持ちでそう願った。