未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第19章 試練を乗り越えて ⑥

2021-03-19 16:39:33 | 未来記

2013-01-26

6.キラシャの運命

 

「アタシの言うこと、まだ信じられない?

 

まぁ、いいさ。

 

じっとしてても、時間は過ぎちゃうんンだ。

 

もし、アンタさえ、自分の運命変えたいと思ったら

 

いつでもいいよ。

 

アタシは、地球に行ってみたいだけなンだ。

 

アタシの知らない星だからね…」

 

 

キララは、そう言いながら、少し遠い目をして、何かを思い返していたようだ。

 

しばらく沈黙が続いた。

 

「それじゃ、教えるよ。タケル、覚悟しな!

 

アンタのかわいいあの子が、どうなるのか。

 

これを見れば、わかるさ…」

 

キララは、タケルの目の前に手を広げ、3Dホログラムを浮かべた。

 

その映像には、たくさんの民族衣装をまとった人々が、

 

華やかな音楽に乗せて、夢中に踊っている姿が見えた。

 

 

見ていると、自分も踊りたくなるような、熱気と楽しそうな笑顔が映っている。

 

その中に、少し違和感のある小さな集団が見えた。

 

民族衣装ではなく、タケルの見慣れたMFiエリアの服装だ。

 

『何だよ! ケンと、マイクじゃないか。それとキラシャだ!!

 

アイツら、いったい何やってんだ!

 

今は休暇中で、ケンはオリンの大会に出るとかって、ヒロは言ってた気がする…。

 

アッ、キラシャが、ケンを突っついた!

 

アイツら、アンナに仲良かったっけ…? 

 

クソ~っ、2人ともヘンな踊りしやがって~~~』

 

 

タケルは、まるで目の前で起こっている出来事のように、自分を忘れて映像の世界へ入り込んでいた。

 

音楽の調子が変わると、人々は踊るのをやめ、中央の映像に目を向けた。

 

その映像には、自然の風景が写されていたが、やがて1人の老人が映し出され、共通語で話し始めた。

 

共通語の苦手なタケルには、ほとんどその内容はわからなかったが、その姿を見つめながら涙を流している人達を見て、その老人はとても偉い人なのだと想像した。

 

そして、スポットがキラシャの近くにいる知らない女の子を照らし、人々が歓喜の声をあげた。

 

とても、きれいな女の子だったが、タケルはキラシャの方が気になって、もっとキラシャを映してくれないかと、キララに目で催促した。

 

キララは、ニタリと笑って「これからだよ!」と言った。

 

その時、映像は真っ暗闇に包まれてしまった。

 

音だけが、状況を物語り始めた。長く続く銃撃戦。

 

タケルは、なにが起きたのかわからず、キララをジッと見つめた。

 

「アンタのかわいい子は、これで死ンじゃうのさ…」

 

タケルは茫然と、キララを見つめた。

 

「まだ、良くわかってないみたいだけど

 

今なら、間に合うンだよ、タケル。

 

あの子は、まだ生きてるンだ。

 

アンタがあの子をホンキで助けたかったらね。

 

しかも、その事件がきっかけで、地球規模の戦争につながっちゃうかもしれないンだ…」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第19章 試練を乗り越えて ⑦

2021-03-17 16:42:33 | 未来記

 2013-01-28

7.老兵からのメッセージ

 

その広場に集まった人達の熱気が、音楽と踊りで最高潮に達したころ。

 

太鼓の音が、だんだんと場外へと離れていった。

 

笛や他の打・弦楽器を鳴らしている人は、広場の中央に集まってきた。

 

太鼓の音が遠ざかり、やがて消えてゆくと、アフカ・エリアでもっとも親しまれている曲が流れはじめ、静かで美しい音色に変わった。

 

広場のお祭りの様子を映していた画面も、アフカ・エリアのドーム外の自然を映し始めた。

 

人々は、踊りをやめ、静かにその風景を目で追った。

 

祖先から代々に受け継がれた自然。

 

自然は、すべての生き物を包み込み、命を育む場所と教えられてきたアフカの民族。

 

ドームの世界は、とても便利で、快適な日常生活を送ることができる。

 

しかし、ドームで必要なエネルギーや食料は、ドームの管理者達によって配給される。

 

ドームを利用する人達には、自分達で採ってきた自然のものをドームに持ち込んで食べることも許されなかった。

 

その不満が、民族間の紛争に拍車をかけてしまい、戦争が勃発したのだ。

 

人々は、あらためて自然の映像の美しさに引き込まれていった。

 

地球の自然を守ろうと戦っていたアフカの民族にとって、自然の風景を眺めることが、何よりも心を潤す原点なのかもしれない。

 

和やかな雰囲気に包まれ、ひとりの老人が映像に登場した。

 

老人は、人々に語り始めた。

 

「皆さん。

 

私を覚えておられるだろうか?

 

地球に向かって、大流星群が襲ってきたときのことを…。

 

私は防衛軍の一員として、皆さんと共に愛する地球を守るために戦った、

 

エリック・マグナーです」

 

集まっていた人々は、オーっと歓声を上げた。

 

ドーム社会を推進する人達には、エリック・マグナーが、大流星群襲来による混乱を十分に抑えられなかった、最悪の軍人という評価しかなかった。

 

しかし、アフカ・エリアでは、今も同じエリアの英雄として、あこがれの存在だ。

 

あの時、混乱したアフカ・エリアに、エリックの指示による防衛軍の助けがなかったら、隕石の衝突で、大切な自然を子孫へつなぐこともできなかったと思う人は多い。

 

もう死んでしまったというのが通説だったので、生きていたことにびっくりする人もいた。

 

地球を守ろうというエリックの力強い言葉に、勇気をもらって苦難を乗り越え、生き延びた人達。

 

彼の老いてしまった姿をあらためて見守りながら、静かに涙を流した。

 

 

「このような素晴らしい祭典の場に

 

みすぼらしい老人が出てきたことを、不満に思われる方もおられるだろう。

 

せっかくの楽しいひとときを邪魔して

 

たいへん申し訳なく思っています…」

 

 

この言葉に、「そうだよ」と不満そうにブーイングする若者もいたが、

 

多くの人はエリックに対して、温かい拍手と好意的な声援を送った。

 

 

「だが、戦争が一時的でも中断し、

 

その中で、危険を押してこの広場に集まってくださった皆さんに

 

これ以上の争いから、1日も早く解放されることを願って、

 

もう一度、11年前の地球の危機を救ってくれた、勇士達からのメッセージを伝えたく、

 

命果てる前に、お話をする決意をいたしました。

 

 

長引く戦争のさなかに、身体の大部分をやけどした少女が、

 

わがアフカ・エリアのドームの街づくりにも貢献してくれている

 

MFiエリアの医療で、無事に完治したという話を聞き、

 

その子の帰郷を待って、その元気な姿を皆さんにも紹介したいと思ったからです」

 

 

眩しいライトが、いきなりパールを包み、映像にも映し出された。

 

パールはびっくりして、思わず泣きそうな顔をしたが、パールのお母さんが後ろから、

 

「パール。あなたの回復を応援してくれた人が、たくさんいるのよ。

 

お礼の気持ちで、笑顔でごあいさつしてね」

 

 

と声をかけられ、神妙な顔をして、アフカ・エリアの言葉で

 

「皆さん、ありがとう…」と言った。

 

その姿を映像で見守っていた人々も、歓喜の声をあげた。

 

 

「パール。突然のことで、びっくりさせてしまったようだね。

 

だが、君が再びこのアフカの地で、笑顔を取り戻すことを私は願っているよ。

 

きっと、自らを犠牲にして、地球を救ってくれたあの勇者達も

 

君の笑顔を見守ることだろう。

 

 

どうか、ここにお集まりの皆さんも、

 

これまでの戦争の苦しみに、心くじけることなく、

 

若い人は、戦争をせずに暮らせる日々を目標にして、

 

この戦いの日々を、無事に生きて乗り越えて欲しい。

 

みんなが平和に暮らす日々のために。

 

それが、自分の幸せを棒に振ってでも、あなた達の生きる地球を守り通した

 

勇者達からの伝言でもあるのです…」

 

 

その時、広場は真っ暗闇に包まれた…。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第20章 運命は変えられる! ①

2021-03-15 16:16:47 | 未来記

2013-02-17

1.アニキの正体

 

「ちょっと聞いていい?」

 

少年の1人がキララに尋ねた。

 

「何だい? アンタらは、元いた所に戻りゃいいンだろ?

 

アタシはタケルに話してるンだよ! 」

 

「…だから、オレらのことじゃなくてさ。

 

さっきの映像で、すっごいきれいな女の子が映ってたじゃないか。

 

あの子も、あの時に犠牲になっちゃうのか、聞きたかったンだけど…」

 

キララは、プチっと切れて怒鳴り始めた。

 

「アッタリまえじゃないか! みんな、銃で倒れてンだ!

 

あの場所で生きてた奴なンていないさ!

 

それとも、何かい?

 

アンタ達がこれからあそこへ行って、奴らを助けてやるっていうのかい?」

 

少年も負けずに、言い返した。

 

「でもさ。タケルには助ける気があるのかって言うけど

 

じゃぁ、ウェンディはどうやったら助けてやれるっていうの? 」

 

キララ(ウェンディ)は、また何か思いを巡らせているようだ。

 

「…う~ん。残念だけど、もう終わってる。

 

心配しなくていいさ。あの子達は無事だよ…」

 

その時、タケル達が縛られている部屋の戸が開いて、防衛軍の制服を着た人が入ってきた。

 

顔を見ると、タケル達とさっきまで一緒にいたアニキだった。

 

アニキはキララに向かって言った。

 

「情報提供に感謝するよ。

 

君のおかげで、起こるはずのアフカの乱射事件を未然に防ぐことができた。

 

君が宇宙ステーションに時々現れる幽霊ではなく、

 

防衛軍に協力的な、予知能力のある人間であることは、

 

我々も保証するよ」

 

そして、少年たちに向かってこんなことを言い始めた。

 

「今まで黙っていて悪かったが、私は防衛軍の兵士だ。

 

やぁ、タケル。

 

君には、技術者として接していたけど、私は防衛軍の一員でもある。

 

実は、君がキララと呼んでいた女の子と出会うのではと、見張っていたんだ。

 

防衛軍にもいろいろあってね。こんなひ弱な技術者でも、役に立つことがあるらしい。

 

もうすぐ、防衛軍の宇宙船が到着する。

 

これから、あの宇宙船の乗組員を逮捕して、ラミネス宇宙ステーションに戻ることになる。

 

君達と一緒にね…」

 

タケルは、信じていた人に急に裏切られた気がした。

 

アニキは、なぜ最初から防衛軍の兵士だと言わなかったのだろう。

 

キララは、宇宙ステーションに戻ると聞いて、アニキにかみついた。

 

「言っとくけどさ。

 

アタシは、アンタがあのMフォンの使い方教えてくれたから、お礼に教えてやったのさ!

 

アンな大きな事件を予知したこと、言っても信じないと思ったからさ。

 

まぁね。アタシの言うこと、信じてもらえたってことは良かったよ。

 

だって、宇宙ステーションじゃ、言っても誰も信じてくれなかったからね。

 

…でもさ…

 

防衛軍にだって、助けてもらえなかった人がいっぱいいたンだ!

 

アタシの家族もだよ!

 

11年前に、隕石が地球にぶつかるから、宇宙船に乗って逃げたンだ。

 

ソンときゃ、アタシにも、ママとパパがいたンだよ!

 

だけど、細かい石が数えきれないくらい当たって、宇宙船に穴が開いたンだ。

 

赤ン坊だったアタシだけ、丈夫で安全な場所に閉じ込めて…

 

みんな宇宙のちりになっちまった…」

 

 

キララの声は、不思議とタケルの心に届いていた。

 

キララの目から、初めて涙があふれ出たのを、タケルは妙な気持ちで見ていた。

 

キララは泣きながら、叫んだ。

 

「もし、あンとき、防衛軍が来て助けてくれたら、アタシの家族だって今も生きてるンだ!

 

アタシだって、普通の女の子みたいに、きれいな服着て、親に甘えてみたいさ。

 

できることならね!

 

アタシが生まれたってとこの、地球にも行ってみたいさ…」

 

ここまで言うと、キララの表情が、また小悪魔のように変わった。

 

「それにさ、アノ事件はなくなったかもしれないけど、

 

タケルの好きなアノ女の子は、これからまたキケンなグループに捕まるンだよ。

 

アンタの男友達と一緒にね。

 

いくら防衛軍がいたって、助からないかもしれない。

 

アタシの家族みたいに…。

 

 

このまま宇宙ステーションに戻ったって、アタシは消えるだけだよ。

 

防衛軍の相手なンて、してらンないさ。

 

でも…もし、地球に行ってイインだったら…

 

アタシにできることで、役に立つことがあるかもね…」

 

 

防衛軍の若い男は、キララの言いたいことを黙って聞いた後、こう言った。

 

「わかった。君のことを隊長に伝えておくよ。

 

相談してみるから、しばらく待ってくれないか」

 

と言い残し、タケルをちらりと見て、部屋のドアを閉めて立ち去った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第20章 運命は変えられる! ②

2021-03-13 16:18:01 | 未来記

2013-03-07

2.華やかさの影に…

 

エリック・マグナーの声が途切れ、広場は一瞬真っ暗になった。

 

大きな広場が、シーンと静まり返った。人々は、これから何が始まるのかと、息を呑んだ。

 

 

しばらくすると、色鮮やかなライトがパッと上空を照らし、

 

華やかな音楽とともに、空中に控えていたサーカス団が、

 

待っていたように自分達の得意の演技を始めた。

 

 

天井からぶら下がった、空中ブランコを揺らしながら移動する人達や、

 

高い所に張られた縄を伝わって、手に持った棒を支えにしながら慎重に歩く人達もいる。

 

 

下からその演技を眺める人々は、自分の上に落ちてくるのではと、手に汗を握りながら、

 

その演技の美しさや、度胸のよさに感嘆の声をあげ、見守った。

 

 

ときどき、わざと下に落ちそうなふりをして、おどけるピエロもいたが、

 

音楽もそれに合わせて、拍子のぬけた音を出し、見る人の笑いを誘った。

 

 

地上でも、ディズニーランドのようなパレードが始まった。

 

 

飾られた車に乗って、アフカのさまざまな民俗衣装を着た人達が、

 

笑顔を振り撒きながら、手を振った。

 

それを見守る人達も、後を追いながら、踊りの輪に入って行った。

 

 

長い旅の終わりを祝福してくれるような、賑やかなパレードに、

 

キラシャやパールも、顔を紅潮させながら、手を振ったり、踊ったりした。

 

上空ではたくさんの花火のような光線が輝き、集まった人達の顔を照らした。

 

 

ポンポンポ~ンと効果音が鳴り響き、

 

音が静まると、

 

集会の主催者が、集まってきた大勢の人達に、お礼の言葉とともに

 

パレードの終わりを告げ、広場は元の明るさに戻った。

 

 

人々は、現実に戻って、名残惜しそうに広場を立ち去り始めた。

 

 

キラシャ一行は、全員がいることを確認して、ホテルに向かった。

 

子供達は、ようやくベッドで寝られるとあって、少し安心した表情になったが、

 

パールはこれから元の生活に戻ることと、友達に会うことに不安を感じていた。

 

それに、パパとお兄さん達のこともどうなっているのだろう…

 

 

パールがあまりの不安に、自分の手を胸に当てて苦しそうにしているのを見たキラシャは、

 

パールを抱きしめて、そっとつぶやいた。

 

「大丈夫だよ。 パールには、あたしがツイてるンだから…」

 

 

一方、人々が去ってゆく広場を映している映像を、ベッドで眺めながら、

 

エリック・マグナーは、そばで見守っている兵士達に言った。

 

 

「防衛軍の諸君は、実にりっぱな任務を成し遂げた。

 

戦争で、心の底まで生きる希望を失いそうな人達に、

 

ホンのひとときでも、お祭りの楽しさを味わってもらえたことだろう。

 

…今回の集まりに関する、軍の犠牲者は…?」

 

 

「はっ。パールの父親を移送する部隊で、負傷者3名。

 

広場周辺の取り締まりで、武装者を発見した際に5名の犠牲が出ました。

 

負傷者、重傷者を含めると50名を超えますが、

 

連行した武装者は、怪しい者も含めて、100名を超える人数でした。

 

何より、広場に集まった多くの人に、ひとりの犠牲も出なかったことに、

 

今回は大きな収穫があったと思われます…」

 

 

「…そうか。ご苦労なことだった。

 

犠牲となった兵士には、哀悼の意を表しないとな。

 

生きていれば、一緒にパレードを楽しむことができたのだが…。

 

…私も、もうすぐ犠牲となった兵士のいる場所へ行く。

 

あの世でお詫びの旅を、果てしなく続けなくてはならない。

 

本当に、有能で志のある人物を、我々はどのくらい失っただろう。

 

生きていれば、世界の平和を築くために、

 

その才能を惜しむことなく使っていただろうに…」

 

 

「殉職した者のうち、2名はパールと同じ民族出身のものです。

 

2名とも、自分の民族に誇りを持っておりました…」

 

 

「そうか。それから、パールの父親は…?」

 

「残念ながら、移送の途中で生体反応がなくなったので、安置所に移送したとのことです…」

 

 

「…本当に、残念なことだ。

 

燃える娘を助けるために、自分も火の中に飛び込んで、

 

愛する娘を抱きしめて、火を消したと聞いている。

 

子供を持つ親として、実に立派な行いを示してくれた人物だ。

 

家族に、事情を丁重に伝えてもらいたい。

 

 

…今日の防衛軍の働きに感謝している。

 

後のことは、頼むぞ。

 

もう、私の役割は果たした…」

 

エリック・マグナーは、静かに目を閉じた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第20章 運命は変えられる! ③

2021-03-11 16:20:46 | 未来記

2013-03-21

3.どうすればいい?

 

アニキが立ち去った後の部屋は、しばらくシーンとしていた。

 

子供達は、何をどうすれば、この状況が変わるのかわからなかったが、

 

いずれこの部屋のドアが開けば、元の現実に戻らなければならないことは、わかっていた。

 

大多数の少年達は、宇宙ステーションに戻って、自分の家族に会えるかもしれないことに、安堵の気持ちもあった。

 

 

しかし、タケルには自分の行き先がどこなのか、その先が見えていなかった。

 

このまま宇宙ステーションに帰っても、自分のしたいことが見つかるかどうかわからない。

 

キララの言うように、地球へ行くことも選択肢のひとつにはあるのだが、

 

今帰っても、自分の耳が聞こえなくなるという状況は、変わっていない。

 

「これから、どうしようか?」

 

 

思わずタケルがつぶやいた時、少年のひとりがキララに向かって言った。

 

「ねぇ。タケルの友達が、危険なグループに捕まるって言ったよね。

 

その子達って、どうなるの?」

 

 

キララは、平然として答えた。

 

「死んじゃうンだよ。

 

こことちょっと時間が違うらしいから、いつかはわからない。

 

でも、アタシには、そういうホログラムが見えたよ。

 

タケルがあの子を助けたいって言うンなら、一緒に行ってもいいけど…

 

無理だろ? 」

 

キララは、タケルをちらっと見て、首をすくめた。

 

 

タケルにも、キララの言葉は心に伝わったが、タケルはキララの言うことが信じられなかった。

 

というより、キララにまただまされるような気がして、イヤな気持ちでいっぱいだった。

 

キラシャが死ぬなんてことも、絶対にウソだと思う。

 

キラシャは、何でもタケルに報告してくれたし、誰よりタケルのことを心配してくれた。

 

何かあれば、必ずメールしてくれるはずだ。

 

あのお祭りのホログラムだって、ホントかどうか、Mフォンで確かめたら…。

 

 

でも、よく考えたら、Mフォンはキララが持っている。

 

悪魔のようなキララが、簡単にMフォンをタケルに渡してくれるわけがない。

 

しかも、今は宇宙のどこかわからない。

 

タケルのMフォンは、確か宇宙ステーション用に設定されていたので、今は使えないはずだ。

 

『困ったな~』

 

タケルは、心の中でつぶやいて、キララを見やった。

 

キララは、何かたくらんでいるように、にやりと笑っていた。

 

「アタシには、わかってるよ。

 

アンタが、このMフォンを取り返したがってるってね。

 

それより、もっとおもしろいことがあるよ。

 

そうだね~

 

アンタの友達を紹介してもらおうか。

 

このMフォン作った人。

 

アタシも、会ってみたいンだ。

 

これで、地球に行けるかもしれない。

 

その、やり方ってやつを教えてもらわないとね…」

 

 

タケルは、キララの言い方にムッとしながら、言った。

 

「でも、今はそいつと連絡できないンだ。

 

宇宙ステーションに戻れば、何とか連絡がつくと思うけど…」

 

 

「だけどさ。

 

そこに着くまでに、アンタの好きな子、死ンじゃうかもよ!

 

さっきも言ったけど、いくら防衛軍がそばにいたって、敵の数は何倍っているンだよ。

 

アンタが助けに行ったって、無理だと思うけどさ、アタシが行けば、隠してはやれるからさ。

 

タケル!

 

アンタを助けようと思って、言ってやってるのにさ。

 

アタシのこと、まだ信じないンだね? 」

 

タケルは、この言葉をどう受け止めていいのか迷った。

 

『ホントに、どうしたらいい…?』

 

タケルの頭に、またあの憎たらしいヒロの、人を小馬鹿にした笑いが浮かんだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする