成田駅修学旅行生置き去り事件と低いドア閉め事故への意識(前編)
2015年06月29日 23時33分14秒
この件に関して複数のニュース記事が発表されましたが、FacebookやtwitterなどのSNSサイト、またyahooニュースなどでは賛否両論のコメントが付くなど話題を集めています。
今回の事件は「ドア閉め事故」に起因するもの。鉄道のドア閉め事故に関しては、私もこのブログの以前の記事で提起しましたが、「現代の鉄道事故」として頻発しているのにも関わらず責任の所在が曖昧になりやすいこともあって、対策が遅れている分野ともいえます。
今回はこの「成田駅修学旅行生置き去り事件」を前編後編の2回に分けて考えていきます
事件の概要等に関しては既に新聞・ニュースサイト等で報じられているので、詳述せず概要のみを紹介します。
http://www.chibanippo.co.jp/news/national/262200
乗車途中ドア閉まる JR成田駅員が勘違い 修学旅行出発の中学生ら乗れず
(千葉日報 ちばとぴ2015-6-17)
http://www.yomiuri.co.jp/national/20150616-OYT1T50172.html?from=tw
乗車する修学旅行生の列の途中、ドア閉まる
(YOMIURI ONLINE 2015-6-17)
http://www.huffingtonpost.jp/hogan-kishida/school-trip_b_7618266.html
修学旅行生置き去り事件-香取市立栗源中学校の行動に疑問-
(ハフィンポストJP・yahooニュース個人にも同様の記事が掲載)
概要としては、
2015年6月10日水曜の朝、千葉県香取市立栗源中学校の修学旅行団体の生徒・引率者の一行39名(以下栗源中一行と略)が、目的地の京都に向かう為に、成田駅より成田エクスプレス4号に乗車しようとしたところ、乗車途中にドアが閉まり25名がホーム上に置き去りに。
取り残された25名は後続の成田エクスプレス6号に乗車して東京駅を目指すものの、横須賀線戸塚駅で発生した信号機故障の影響で42分遅れの10時35分に東京駅に到着。結果として乗車予定の10時23分発の新幹線(複数校合同の修学旅行生貸切)に乗り遅れ。
栗源中の一行は別の新幹線に乗車して京都に向かったものの結果として、予定していた訪問地の一つ「宇治・平等院鳳凰堂」をキャンセルすることになった。
というもの。
この事件に関する報道に対して、乗客の乗車中にドアを閉めたJR側への批判。逆に停車時間中に全員の乗車を完了しなかった栗源中一行への批判、双方賛否両論の意見が出ている状態となっています。(上で紹介した3記事のうちハフィンポストのものは栗源中一行への反省を促す論調)
中学・高校等の修学旅行で新幹線を利用する学校は昔から多く、学校によっては校庭や体育館での事前に乗車訓練を行ったところや、「新幹線(列車)を遅延させたら罰金(百万単位だったり)」などと先生から脅された?経験を持つ人も多い事から、「乗り遅れた栗源中の自己責任。逆ギレ」な感想を持つ人も多いように見受けられます。
ちなみに私も中学時代「遅延させたら罰金」のように脅された覚えがありますが、当時から鉄道ファンだった自分は内心「おいおい大げさな」と思った経験があります。実際のところ「小田原駅からこだま号に乗車」(ひかり号やのぞみ号の通過待ちで停車時間が3分以上ある)だったので全く問題なしだったのを覚えています。
成田エクスプレス号(NEX)
さて今回の栗源中一行が成田駅から東京駅までの移動に利用した成田エクスプレス号(以下NEXと略)
成田エクスプレスといえば、東京周辺から成田空港へのアクセス特急列車というイメージを持つ人も多いでしょう。実際今回の事件の記事のコメントを見ると「中学の修学旅行で成田空港から飛行機で海外??」と誤解した方もいるよう。
NEX号の乗客の主体は空港利用者ですが、空港利用者が少ない時間帯の列車については空席対策の為に、千葉県内で成田駅・佐倉駅・四街道駅・千葉駅などに停車して、これら沿線から千葉や東京方面への通勤・お出かけの足にもなり、これ用の割安な回数券も発売されています。
成田駅に停車するNEX号は上り(東京方面)は朝の2・4・6号の3本、下り(成田空港行)は夕方以降の47・49・51・53号の4本で、他の列車は全て成田駅は通過します。
また逆方向の朝の成田空港行は空港利用者で混雑する時間帯。その折り返しとなるNEX4号も12両という長い編成で運転されています。
東京駅までNEX号を利用。ということで「修学旅行のくせに贅沢だ」という声もあるようですが、成田駅から東京駅まで総武快速で約80分。東京駅9時代という混雑する時間帯であることを考えると、一般の快速列車に40名近い団体で乗車して、結果的に混雑が増して迷惑に思う人もいることを考えると、余裕がある座席指定のNEX号を利用というのは妥当な判断でしょう。
成田エクスプレス(NEX)で使われるE259系車両(品川駅で撮影)
問題の1号車(写真手前の車両)は車両の前後に2つ乗降用のドアがあります。
成田駅の構造と問題の1番線
ここで今回の事件(事故)の舞台となったJR成田駅を訪問して、駅やホームの構造を確認するとします。
JR成田駅は千葉県成田市花崎町に所在。
成田線、千葉方面・銚子方面・成田空港方面・我孫子方面(4方向全て路線名は成田線)が交わる、鉄道の要衝であり、駅から徒歩5分ほど離れた場所には京成電鉄の成田駅もあります。
成田といえば成田空港ですが、成田空港は直線で約7km先。この成田駅は有名な仏閣、成田山新勝寺の最寄駅であり初詣シーズンには多数の団体列車も発着して参拝客で賑わいます。
成田駅内に掲示されている案内図。(左側が成田空港・銚子方面・右側が千葉・東京方面)
今回の事件の舞台となった東京方面の成田エクスプレス号(NEX)は1番線からの発車。
ちなみにホームの長さの関係で、成田駅から東京方面のNEX・総武快速(エアポート成田号)はすべて1番線から発車します。
この図ではかなりデフォルメされていますが、成田駅は橋上駅舎(線路の上に駅事務室・改札などがあるタイプ)で、問題の1番線はホームの成田空港寄りの端に上下エスカレーターを併設した階段・エレベーターがあり、改札からホームへのアクセスルートはここだけ。
1番線ホームは総武快速の15両編成が停車するので、長さは約300m。300m細長い片面ホームの端に階段がある形状。
栗源中一行が乗車しようとした成田エクスプレス4号は12両編成。階段を降りたところが12~11号車の停車位置。栗源中一行が乗車した1号車はここから約200m強、ホームを東京寄りに歩いた場所になります。
(東京寄り先頭車が1号車・成田空港より最後尾が12号車)
(1番線ホーム途中から東京寄りを望む)
1番線ホームは成田エクスプレス号(NEX)の停車位置で4号車付近(総武快速の3号車付近)から東京寄りは緩やかにカーブ(東京に向いて右カーブ)していて、一行が乗車した1号車付近はカーブの途中に停車します。
次に一行が乗車したNEX1号車付近を確認します。
ホーム上の「NEX12」の表示が概ねNEX12両編成の先頭位置
停車中の列車は総武快速15両編成(前から3両目・増3号車)
黄色の点字ブロック脇の白四角の表示がNEX1号車(前より)の乗車位置
NEX号の乗車位置には各ドアに「成田エクスプレス12両編成1号車」のようなマーキングがあるため、事前にそのマークを目印に整列乗車する事が可能です。
またホームがカーブしている為、見通しがかなり悪いことも分かります。
NEX1号車(前より)乗車位置のドアを見るとホームと車両の間に約20cmの隙間を確認できます。
また縦方向にも小さな階段を登るぐらいの高低差があります
(車両は総武快速用E217系)
またNEX1号車(後ろより)の乗車位置付近を見ると、こちらもホームと車両の間にやはり広めの隙間があります。
写真で登場している車両は総武快速用の通勤近郊電車のE217系。ドア幅は一般的な通勤電車の標準1300mm幅。一方で特急形車両であるNEX用のE259系はこれよりも狭いサイズです。
報道記事から、ドアが開いていたのは15秒弱。乗車できたのは14人
一行39名が1号車の前か後ろどちらかのドア(一つのドア)から乗車したのか、2つのドアに分かれて乗車したのか、記事からは判然としませんが、仮に1つのドアから乗車したとして15秒で14人。2つのドアからとして1ドア当り7人。
前述したようにカーブ上でドアとホームの間に広い隙間があること。また宿泊を伴う旅行で荷物も多かったと予想される中で、仮に2つのドアから乗ったとしても「のんびりしていて乗り遅れた」などと非難されるものではないでしょう。
むしろ乗車を急ぐあまり、足を踏み外すなどホームから隙間への転落等の事故が起きれば、「1分2分の運行の遅れ」では済まなくなります。
またドア幅が狭めでデッキのある特急用車両という点からも通勤電車のように2~3列に並んで、2~3人同時に乗車するというのは不可能でしょう。なので「1列で乗車した」というのも理にかなっています。
成田駅1番線の乗降確認とモニター画面
千葉日報の報道記事によれば
同支社によると、成田駅で乗降を確認する駅員が生徒らの乗車の列が途切れたのをモニター画面で見て、乗車が終わったとの合図を車掌に送ったらしい。
との一文があります。
前述したように成田駅1番線は見通しが悪く、肉眼での乗降確認等は不可能。この為に乗降確認用のITVモニターが設置されて、肉眼で見えない部分を補っています
ホーム上、階段付近(後ろから2両目付近)に設置されているモニター画面
ホーム上のカメラ部。
成田駅1番線では4台のカメラを用いて乗降を確認しています。
このような装置は鉄道では曲線ホームの駅など見通しが悪い駅では一般的な設備。地域や会社による差はあるでしょうが、東京近郊では20~30年以上前から割と普及している設備です。またドア閉め時の乗降確認用で防犯目的ではない為、録画されているのかどうかは不明です。
成田駅1番線では階段付近の係員が、このモニターと肉眼で乗降を確認しながら発車メロディを流す。OKならば車掌に合図を送って、車掌が車両のスイッチでドア閉め操作を行う。という手順のよう。
実際に列車が到着して乗降中の様子(列車は総武快速15両編成)
この4つのモニターのうち、今回の栗源中一行の乗車位置、NEX1号車付近を写しているのは左から2つ目の画面
一番左の画面はNEX号が停車しない場所(総武快速15両編成の前から2両目付近)を写しています。
左から2つ目のモニター画面の拡大。
NEX1号車の後ろよりドアはカメラの死角となり確認は不可能
前よりドアは白色の非常停止ボタンの看板の右横辺り。
乗車位置の黄色線より内側の辺りは柱や看板の陰で死角となってしまいます。
1番線に発着する列車の殆どはNEX号ではなく、15両編成(一部11両)の総武快速。カメラ設置位置はNEX号乗車位置とは必ずしもあっていません。
写真はデジカメでズームを使って撮影しているためよく映っていますが、実際のホーム係員は頭上に設置されているモニター3つを見ながら、更には肉眼でホーム上を確認しながら乗車終了を確認する。
ような形になるので、ここまではっきりと視認することは難しく、特にモニター画面端となる、NEX1号車前より辺りは人影が見える程度。が実際ではないかと感じます。
また一行が仮に1号車後ろよりドアからのみ乗車した場合、モニター画面での確認は不可能でしょう。
更にいえばドア閉め時にかなり気を使う「発車直前の駆け込み・ギリギリに到着した列車からの乗換え客」ですが、これも前述したようにホーム最後尾近い係員位置が階段下の場所。
実際にドア閉め操作を行う車掌共々、肉眼でしっかりと分かる場所なので、こういった乗客を挟む可能性は意図的でない限りまずないといえましょう。
これらの点から、「栗源中一行の乗車場所がそもそも確認が難しい場所」であり係員が乗車の列が途切れたように見えたのは一般客の乗車列の可能性があります。
仮にそうだとすれば、一般客の乗車人数は少なく15秒程度で乗車が終わったことで、まだ乗車途中の栗源中一行に気が付かずドアを閉めてしまった。というのも説明は付きます。
また読売新聞の記事での証言
「女子生徒の目の前で突然ドアが閉まった。一歩間違えば事故につながった」
にも合致します。
また停車時間が15秒というのは、特急列車であることを考えるとありえない数値です。
これは当日のNEX4号が始発の成田空港~成田駅間ですでに遅れが発生していたために「成田駅での乗車が終わり次第すぐに発車させた」可能性。(成田空港~成田間は単線の為、対向列車の遅れなどが波及しやすい)
もしくは車掌が秒単位の時刻確認を誤り早めにドアを閉めてしまった可能性があります。(郊外部のJR線は15秒単位で設定。乗客向け時刻表では分単位で公開されているため、00分30秒発を00分05秒にドア閉め。のように分の単位で間違っていなければ、あまり問題にはならないことが多い)
こちら成田駅内に掲出の時刻表では各列車の発車ホームが明示されていますが、1番線から発車する列車は8時28分の成田エクスプレス4号の次は9時5分発の成田エクスプレス6号。
(この時間帯は成田空港行の1番線発車はなし。発着ホームは当日急遽変更される可能性はあります)
当日の急遽の変更がない限り、仮に「ホーム上で整列しているが乗車が途切れた一団」がいたとしても「次列車待ちでこの列車には乗らない人」という判断をする可能性はちょっと考えられないです。
むしろ途切れたならば、転落など何らかの異常が発生した可能性もありえます。
40名近い団体客がよりによって確認が難しいNEX1号車付近から乗車。というのは車掌やホームを確認する係員からすれば、無理ゲーと言いたくなるような不運な事象といえるかもしれません。
栗源中一行は成田駅まで普通列車で来たのか、貸切バスなどで来たのかはわかりません。(一行が仮に香取方面から成田線普通列車で成田駅に来たとすれば、成田駅8時10分着の列車があります)
しかしながら、余裕を持って発車15~20分前からホーム上で40人近い団体客が整列して待機すると考えると、さして幅が広くない成田駅1番線。
階段下やホーム中ほど付近で整列すると、他の一般客がホーム上を移動できなくなってしまい混乱が生じてしまいます。また乗車予定の成田エクスプレス4号の13分前の8時15分には東京方面の総武快速も発車します。
それらを考えると先頭車両1号車の席を確保してそこで待機して乗車してもらう。というのは自然な流れでしょう。
ここまで見てきた部分で言えば、今回の「成田駅修学旅行生置き去り事件(事故)」において、当事者の栗源中の一行には落ち度はなく、前述したように「のんびりしていて乗り遅れた」というものではないでしょう。
また修学旅行団体の場合、学生団体割引を利用するのが一般的であり、その場合は乗車券類も一人ずつ用意する普通のきっぷではなく、専用の「団体乗車券」を使用して、事前にJRの営業担当や駅と乗車列車、行程の打ち合わせをして手配します。
通常よりも割引されている分、予期せぬ団体が現れて混雑による混乱を防ぐ為に乗車列車が決まっていて、更に場合によっては一般の普通列車でも「○号車の○番ドアから○人乗って」というようにJR側から詳細な指示がでることがあるとも聞きます。
団体乗車券を発券した時点で、JR側は栗源中一行が39人が成田エクスプレス4号の1号車に乗車することは分かっていたはずです。
にも関わらず僅か15秒程度で乗車が終了したと誤解してドア閉めを行ってしまった今回の事件。果たしてJR社内で成田駅や車掌に「NEX4号の1号車に団体39人の乗車予定あり」という連絡などは行われていたのでしょうか?
JR東日本社内の情報共有体制などにも疑問符が付きます。
ここまでで長くなってきたので前編として、次回は後編として置き去りが発生した後の対処策や「成田駅修学旅行生置き去り事件」とこの事件の根本的な原因である、JR東日本のドア閉め事故に関する意識などをまとめます。
注意:「総武快速」は狭義には東京~千葉間ですが、内外房線や成田方面からの東京方面への直通快速列車は千葉以南の区間でも「総武快速」と一般的に表現して、成田駅でも「総武快速」と案内されています。
この記事でもそれに従い、成田空港と東京方面を結ぶ一般車両による快速列車「エアポート成田号」は「総武快速」と表現しています。
総武快速の15両編成は、東京寄りから「増1~増4号車」+「1号車~11号車」の15両編成という珍しい号車表示となっています。
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<次回に続く>
成田駅訪問日、2015年6月28日
2015/6/29 23:33(JST)
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