裕子がクルーズダイニングルームの入口に 近づいたらもうスズキムタクは待っていた。二人でメインテーブルに入っていった。スズキムタクはキョロキョロ眺めて
「今日は自由席だそうですね、どこにします」
といった。
「じゃあここに」
と裕子はすぐそばのテーブルにした。
「そうしましょう」
二人で向き合って座りかかると途端に近づいてくる二人の女性がいた。一人が
「よろしいですか?」
という。突然の言葉なので
「ハイ」
と答えてしまった裕子。言葉には出さなかったけどスズキムタクに「いい?」と目で聞いていた。スズキムタクは愛想よく「どうぞ」と答えた。空いている四人テーブルは他にもあったけどだからって断るほどもなかったからだ。
食事しながら四人の会話はこんな風だった。近づいてきた二人はどうやら姉妹だそうで上がサクラコ下がウメコ。ウメコの方がよく喋る。見た目はあまり変わらないけれど名前のせいで下の子の方がひがんでいたのか自分を主張してきたのかずっと喋っている。裕子はそんな気がした。桜と梅じゃね。梅は花というより梅干しだ。シワシワでオバァさん。裕子がそう眺めていたら当然ウメコは言い出した。
「ご夫婦で世界一周羨ましいです」
裕子は「えっ!」と息を止めるようにして
「違うんです。さっきお知り合いになったばかりで」
「妹は余計なことを言う子なんです。すいません」
やっぱり桜が付いた名前だから余裕を持って生きてるなぁと裕子は思っていた。結局最後のウメコの話は梅干し。
「身体にいいの」
で終わった。
メインテーブルを裕子とスズキムタクは出ながら笑っていた。
「笑いが止まりませんでした」
「私は上手に話せない方なんで裕子さんにどう話したらいいか悩んでました」
「私もです。桜と梅のおかげですね」
と言って別れた。
メインテーブルでサクラコとウメコはまだコーヒーを飲んでいた。ウメコは
「夫婦じゃなくてよかったわ」
「ウメコ好み」
「それより持ってるかしら? 名前聞いとけばよかった」
「真っ赤な糸がつながってたら、また会えるわよ」
「ホントお姉さんは。楽天家」
呆れ顔になる。