小関順二公式ブログ

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宮崎日大・武田翔太の投球に見惚れた

2011-07-19 07:32:17 | 2011夏の都道府県大会
●九州遠征レポート(ちょっと長いです)

<佐賀編>

 7月15日から17日まで佐賀、鹿児島、宮崎を回ったので、そのレポートを紹介する。

 5時数分の始発電車に乗って羽田空港第二ターミナルに着いたのが6時30分。7時20分のANAに乗り、佐賀空港着が9時10分頃。バス(600円)で佐賀駅バスセンターまで行き、駅4番のりばから10時22分発の市バス(18系統、徳万・久保田行き、420円)に乗って森林公園前に着いたのが11時前。第1試合の佐賀西対鳥栖商は終わったばかりだった(佐賀西が10対2で7回コールド勝ち)。

◇7/15(金)唐津商対北陵(佐賀県営みどりの森球場)

 見たかったのは第2試合のこの試合。唐津商のエース北方悠誠はドラフト候補に挙がる本格派で、この日記録したストレートの最速は149キロ。登板すればこのくらいのスピードはいつも出るようだが、1、2位候補という感じはしない。

 腕の振りが直線的で固い、というのが最大の不満要素。スリークォーターでも岩瀬仁紀(中日)やダルビッシュ有(日本ハム)は柔らかく腕を振れる。“超高校級”と評価され、高い契約金で入団することはほぼ確実なので、そういう部分はしっかり勉強してほしい。

 北方以外では唐津商の2年生ショート、松本晃(右右)がよかった。ゴロに対して正面に入るのが早く、スローイングは地肩の強さ+フォームのよさが目を引いた。

◇7/15白石対佐賀学園

 佐賀学園のエースで3番の山口将太(右左)がよかった。メンバー表に「144キロの直球とキレのあるスライダー」と書かれていたので期待はしていたが、よかったのは打撃のほう。とにかく柔らかい。柔らかさでは3日前に見た地下嘉人(東海大望洋・外野手・右左)が今夏最高と思っていたが、山口も遜色ない。

 あまり気にかけていなかった第1打席、シュッとヘッドが出るスイングを見て目をこすった(鋭い打球の中前打)。目の前で異世界が展開しているような違和感。第2打席は左中間への二塁打で、いい打者だと確信した。第3打席が中前打、第5打席がライトへの二塁打(失策が重なり三進)と、バットは打ち出の小槌と化した。

 捕手寄りのミートポイント、ヘッドが最短で出るスイング軌道など、見どころ満載で遠征の疲れは吹き飛んだ。前の試合が終わってスカウトはすべていなくなっているのでドラフトにはかからないと思うが、大学か社会人で活躍して不実なスカウトを見返してほしい。

<鹿児島編>

 最終試合が終わって16 時すぎの特急、新幹線を乗り継いで約2時間、ようやく鹿児島中央に着いた。駅近くで生ビール、焼酎(水割り)1杯を飲んだら急激に眠たくなり、会計をして予約していたホテルに入った。

 サービスのマッサージチェアが部屋にあり嬉しかった。私は腰痛持ちで、東京では1週間に1回、整体に通って治療している。地獄に仏とはこのことかと、ずっとマッサージチェアに座っていた。朝、揉み返しがあったが快適、快適。路面電車で鴨池まで行き(160円)、降りてすぐの鴨池市民球場に行った。

 球場入口横には中馬庚の銅像がある。この人は一高黄金時代の二塁手で、インブリー事件(明治学院大のアメリカ人教師、インブリーを試合中に一高応援団が殴打した明治23年の事件)があった明治学院大戦にも出場している。と言ってもピンとこない人がいると思う。もっとわかりやすく紹介すると、ベースボールを「野球」と和訳したのが中馬庚である。

「一高時代は名二塁手、東京帝国大学時代はコーチ・監督として活躍するかたわら、日本で最初の専門的解説書『野球』を著し、その後の学生野球発展に尽くした。これらの貢献によって昭和四十五年野球殿堂入りした」

 以上、銅像横の碑文より抜粋した。興味ある人は立ち寄ってほしい。

◇7/16(土曜日)樟南対屋久島(鴨池市民球場)

 樟南の左腕、戸田隆矢(左左)は注目の選手だが、調子はよくなかった。前方のスカウト氏のスピードガンではストレートの最速は141キロ(だったと思う)。トップ時のヒジの立ちが緩く、基本的にコントロールは甘いと思う。それでも6回までヒット1本、三振10個を奪う力投は、さすがドラフト候補だと感心した。

 異変が起こったのは樟南が9対0でリードした7回表。屋久島の2番打者が2本目のヒットを中前に放つと、3番からヒットが4本続き、四球を挟んでさらに三塁打が出て、気がつけばあっという間に5点が入っていた。9番打者に四球を与え降板したのを見届けて隣の県立鴨池球場に移動したのだが、一瞬の油断が大惨事を引き起こす現場を見て気持ちは昂っていた。

◇7/16鹿屋中央対鹿児島南(県立鴨池球場)

 市民球場から歩いて5分くらいで県立球場に着く。第1試合はまだ8回裏で、すぐ目に入ったのが神村学園の2年生右腕、柿澤貴裕(右左)。叩き下ろしのスリークォーターというフォームで、ストレートに勢いがある。あとで偵察隊の学生に聞くと、「今日のMAXは142キロです」とのこと。

 内回りのバックスイングで、右腕は背中のほうまで入るが左肩の早い開きはない。打者近くで小さく沈むシンカーらしき球があり、これがよくキレる。先輩の野上亮磨(西武)はオーバースローだが、ボールのキレには共通するよさがあり、学校の伝統というのは確かにあるなと納得した。来年のドラフト候補である。

 さて、鹿屋中央対鹿児島南戦だが、注目したのは鹿児島南のエース、笛田怜平(右右)。一言で言えば山田秋親(ロッテ)の若い頃に似ている。アゴが上がったフォームで、投げに行くとき首が強く振れる。古い野球ファンには水野雄仁(元巨人)と言ったほうがわかりやすいだろう。

 偵察隊に聞くと、5回終了までのMAXは143キロで、これまでの最速は「146か7です」とのこと。ストレートは速い。変化球は大きな横変化のスライダーがあり、後半には小さい横変化も投げていた。

 フォームから予測できるように右打者への内角球は少ない。コントロールもアバウトで、これは大きい上体の動きを未発達の下半身が受け止め切れていないからだろう。8回に味方のまずい守りもあって3点入れられ、3対4で逆転負け。課題は多いが魅力も多い、鹿児島の勢いを感じさせる大型投手だった。

<宮崎編>

 路面電車で鹿児島中央まで行き、特急に乗り換えて約2時間、20時近くになってようやく宮崎に着いた。01年から10年まで巨人の1位指名選手を取材するため宮崎に来ていたが、今年は澤村拓一の都合で都内での取材になった。

 約1年半ぶりの宮崎入りで、早速一番街の行きつけの店「鳥男」の暖簾をくぐった。「どうしたのよ、来なかったでしょ」と女将さんに言われれば、少しは気にしてもらっていたのかと嬉しくなる。生ビールのあとは焼酎(黒霧島)の水割り、ロックと続き、地鶏の炭火焼に舌鼓を打つ。

 料理を担当する長男はブルースを演奏するバンドマンで、「明日は福岡まで行くのよ。演奏するんじゃないのよ、人のを聴きに行くの」と、母は息子を代弁して嬉しそうだ。

 1時間半くらいで店を出て、ホテルへいくまでの橘通りを歩く。ここがいかにも南国らしい風情で好きだ。ただの好きではない、日本で一番好きと言っても過言ではない。

 この通りは、酔っぱらってフラフラ歩いているので気持ちが緩んでいる。酔っぱらうとやたら女の子に電話をかけたくなって、「好きだ」とか「会いたい」と言いたくなる気持ちはわかってもらえると思う。ここを歩いているときは、だいたいそういう気分のときが多い。

「日本で一番好きな通りだ」と口走るのと、女の子に電話したくなる気持ちは同じだと思い、ぐずぐず夜の宮崎話をした。ふと見上げれば、ある店には今もハッピを着た東国原英夫・元県知事の絵が飾ってある。水原弘のフマキラーとか松山容子のボンカレーと同じだなと口に出し、誰も知らないかと1人でウケる。

◇7/17宮崎日大対日向学院(サンマリンスタジアム)

 第1試合の延岡学園対宮崎大宮戦、第2試合の日南対都城東戦は、時計を忙しく見ながらの観戦になった。台風6号の接近で第1試合の始まる前に雨がザアッと降り、約20分の中断。飛行機は18時20分なので大丈夫だが、試合が押せば宮崎日大戦を最後まで見られない恐れがある。そんなこんなで、試合の進行が少しでも遅れると、アアッと心の中で舌打ちを繰り返した。

 延岡学園の濱田晃成(三塁手・右左)は今日もよかった。今日も、と言うのは、甲子園大会でいいところはたっぷりと見てきたからだ。とくに今日は、バットにボールが吸着したようなおっつけで、左中間、センター方向に三塁打を2本打った。全国を見回してもトップランクの選手だろう。

 都城東では4番の鳥越太雅(外野手・右左)に将来性を感じた。バットが下から出るのはマイナス要素だが、長打力に見るべきものがある。第2、4打席の右中間とライト方向への二塁打でわかるように完全なプルヒッター。現場までこないと印象が残らない選手だろう。

 そして、宮崎日大戦。これを見たさに今回の九州遠征を計画したと言っていい。第一印象は、「何てきれいな投手なんだ」。フォームに悪い個所がまったくない。あえて言えば、変化球(スライダー、カーブ、チェンジアップ)のとき、腕の振りが緩むかな、という程度。今日のストレートのMAXはソフトバンクスカウトのスピードガンで147キロ。ちょっと本気になれば150キロは楽に出るだろうという雰囲気。これは本物だと直感した。

 よく“九州のダルビッシュ”と言われるが、スリークォーターのダルビッシュにくらべて武田は上手なのでタイプが違う。似ているのは巨人で一軍デビューした頃の木田優夫(ヤクルト)である。

 私が見た限りでは今年の高校生ではナンバーワン。2年前の今村猛(清峰→広島)とくらべても武田のほうがいいと思う。是非甲子園に来てほしい選手だ。

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