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硫黄島からの手紙

2006-12-10 05:10:29 | 映画2006
 最後に出てくる負傷した米兵はライアン・フィリップではありません。

 『父親たちの星条旗』を復習せず、『硫黄島の砂』(1949)やTVドラマ『硫黄島~戦場の郵便配達』によって理解力を高めました。どれもこれも秀作ばかりなので、このクリント・イーストウッド作品をどう表現していいものかわからなくなるほどなのですが、アメリカ人が硫黄島での戦闘を日本人の視点で描いたこと以外に、現代的な視点を取り入れた人間本来の姿をリアルに表現していたことに驚かされました。

 まずは圧倒的な兵力で攻めてきたアメリカ軍の軍勢に驚いた日本兵西郷(二宮和也)と同じく、戦艦が押し寄せてくるシーンに腰を抜かしてしまいそうになりました。自分だったら糞と一緒に山をころげ落ちるかもしれないな~と思いつつ、その後の艦砲射撃の迫力に体が硬直し、浮遊感さえ味わってしまいました。そして、擂鉢山の頂に星条旗を掲げられた裏の場面で、日本軍が体の一部を蝕まれたかのような感覚に包まれたのです。戦争に負けたことのないアメリカが描く敗戦国日本であるはずなのに、全く違った印象を持ってしまう。これも「勝ち負けを描いたものではない」という境地に達した監督だからこそ為しえたことなのでしょう。

 戦争の醜さ、不条理といったことも日米双方の視点で平等に描かれていることにも気づきます。日本側に「衛生兵を狙え」とか「死んだフリ」とかの卑怯な手口の描写もあれば、投降した兵士を撃ち殺す米兵も描いている。また、軍法会議にもかけないで部下を殺そうとする上官もいれば、玉砕が美徳とされていた当時の精神論に対抗するかのように「命を大切にせよ」と嗜める司令官もいる。そして、「天皇陛下万歳」と士気をあげる一方で、玉砕よりも命が大切、愛国心などよりも家族が大切なのだと栗林や西郷を通して訴えてくるのです。玉砕が美徳じゃないといったことも、手榴弾による自決の映像がグロかったことでわかります。

 戦争の英雄なんていないんだという前作と同様に、栗林中将(渡辺謙)も英雄のようには描かれてなかったし、バロン西(伊原剛)にしても「アメリカ人だって家族を愛する普通の人間なんだ」と訴えているようで、英雄ではありませんでした。また、元憲兵だった清水(加瀬亮)の存在も日本の戦争映画では異色かもしれません。まるで今の北朝鮮のように自由のなかった当時の日本の風潮が一人の新米憲兵の目を通して描かれているのです。

 どちらかというと、人の死によって号泣させる映画ではないのかもしれません。日本軍がとった作戦や戦闘の経過、日本兵たちの様々な思い、手紙を通じて知りえた事実を冷静に受け止め、追悼の念を込めた映画なのです。ずっと流れていた音楽がレクイエムのように聞えてきました・・・

★★★★★

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62 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
順番 (ミチ)
2006-12-10 08:18:04
おはようございます!
ドラマ→映画というのもなかなか良い順番だったのかもしれませんね。
私は金曜日に『父親たちの星条旗』を再び見に行ってきました。
硫黄島が大爆撃に遭ったり摺鉢山に星条旗を立てられた所は身をえぐられるような気持ちになりましたが、一方日本軍が米兵に狙いをつけるところではドクやアイラやマイクやハーロンの姿が見えるようで、どちらにも肩入れできないものを感じました。
バロン西の活躍部分が予想以上に多かったです。
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おひさしぶりです! (hamutaro)
2006-12-10 09:51:16
なかなか新しい映画を劇場で見られないんですが、試写会で見てきました。kossyさんと同じ感想を持ちました。「…星条旗」を見てないのが残念なんですが・・・。TBさせていただきます。
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おはようございます~ (うさぎ)
2006-12-10 10:43:06
TB出来ないんで~(T-T)
承認されるまで~というのはわかってるんですが。。。そこまでいきつかない・・
ので一応コメントを残します~
また、後からTBしにきますね~♪
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ドラマ (kossy)
2006-12-10 12:31:49
>ミチ様
時間が合わなかったのでこの順番になってしまいましたが、予習してから観ると、「ここで5日目か」とか「そろそろ東京大空襲か」などと時系列も把握できたので結果的に良かったです。

どちらにも肩入れできないような作りにしたイーストウッド監督の手腕。たいしたものですね。

>hamutaro様
お久しぶりです。
俺は試写会はずれちゃいました。
硫黄島の位置もサイパンー東京を結ぶ真ん中に位置することが重要ポイントでしたね。俺はグアム、サイパンの位置もよくわかっていませんでした(汗)

>うさぎ様
立て続けにコメントありがとうございました。
12月9日が思わぬ戦争映画デーになってしまいましたけど、貴重な1日を過ごせましたよね。
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硫黄島からの手紙を早く見たい。 (キング)
2006-12-10 13:48:45
ラストサムライを見てから、渡辺兼さんが見たいです。
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英雄 (たいむ)
2006-12-10 14:44:35
Kossyさん、こんにちは。
手榴弾・・・生々しかったです。
どういう教育を受けたらあのような心境になれるのか・・・。愛国心というより現実逃避、死を選ぶほうが楽だから?

私も『硫黄島~戦場の郵便配達』をみました。
映画には出てこなかった、戦うことも捕虜になることもできない少年兵の存在には驚きました。
「お母さん」こちらはカナリ切ない。。
タイミングを合わせた放送も良かったですね。
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愛国心 (kossy)
2006-12-10 15:05:14
>キング様
期末試験もそろそろ終わりなのでしょうか。こういう時期こそ映画鑑賞のチャンス!NANAなんかを見るよりはこちらの映画のほうが絶対にオススメです。

>たいむ様
手榴弾について、戦争体験者の話を聞くと胸が痛みます。「手榴弾だと楽に死ねる」などという生々しくも物悲しい話が心に残りました。
皇国日本が教える愛国心なんて、結局は「国のために死ね」ということなんだから、馬鹿馬鹿しいに決まってます。人の命があってこその愛国心のはずなのに・・・

少年兵は痛々しかったですよね。精神的にも未熟な人間を奴隷のように扱うことなんて許されませんよね。映画を補足してくれて、ほんとにいい企画でした。
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主演は・・・ (しんちゃん)
2006-12-10 18:15:14
 二宮君でしたね(笑)
彼の考え方が今も当時も一般庶民の考え方なのかもしれません。

 中村獅童の描き方も、なかなか「リアル」で面白かったです。あの死体の中は「安全地帯」てことを計算ずくってことでしょうか。

 でも・・・
私はやはりアメリカ軍が上陸するまでのパートが面白かったなぁ。。。
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Unknown (Hitomi)
2006-12-10 19:49:00
kossyさん、こんばんは。
>最後に出てくる負傷した米兵はライアン・フィリップではありません
ジェイミー・ベルかと私は思いました(笑)
>日米双方の視点で平等に描かれていることにも気づきます
そうですね、クリント・イーストウッド監督はどちらに肩入れすると言うのではなく勝った国でも負けた国でも結局は同じなんだよというメッセージを送っているように思いました。

終戦当時小学生だった私の母親は玉音放送を聴いてホッとしたそうです。これで逃げなくてすむって。なので西郷さんのように思ってる兵隊さんもきっとたくさんいたんでしょうね。
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理不尽 (kazupon)
2006-12-10 19:59:55
kossyさん、戦争なんてどっちも理不尽ですけど、
両作を見比べると、やはり日本軍のほうが理不尽度は
高いように描かれていると思いました。
でも主人公はそういう流れを客観視できている
二宮君だったわけで、そこが素晴らしいです。
イーストウッドすごいです。
「ナショナル・ボード・オブ・レビュー」の
作品賞を獲ったって読んだんですけど、アメリカ側の
「父親」じゃなく、こちらってのが素晴らしいですよね。
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