読書とかいろいろ日記

読書日記を中心に、日々のあれこれを綴ります。

第496号 『地の底のヤマ』

2012年04月29日 | メルマガお奨め本

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週刊 お奨め本
2012年4月29発行 第496号
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『地の底のヤマ』 西村健
¥2,500+税 講談社 2011/12/19発行
ISBN978-4-06-217344-5
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炭坑節ってご存知ですか?
「♪ 月が出た出た、月が出た。三池炭鉱の上に出た。あんまり煙突が高いので、さぞやお月さん煙たかろう…… ♪」という歌です。
発行人は岐阜の出身で、三池炭鉱なんて縁もゆかりもない土地なのに、盆踊りには必ずこの歌が流れてました。幼いころ、三池炭鉱がどこにあるかなんて知りもしないで、踊ったもんです。


その三池炭鉱が、今日ご紹介する『地の底のヤマ』の舞台です。
正確には、三池炭鉱のある大牟田市が。


第一部 昭和49年(1974年)
第二部 昭和56年(1981年)
第三部 昭和64/平成元年(1989年)
第四部 現在

物語は四部に分かれ、主人公たる猿渡鉄男を通して、大牟田市の変遷、炭鉱の衰退、そこで働く男たちの生き様、組合闘争、利権、裏金、殺人事件、家族、恋愛、友情、……その他諸々について、つまりは人生についてを描く。

ものすごく読み応えあります。

基本はミステリです。
第一部では、三池炭鉱の労働組合、新労組と旧労組の対立に因を発する殺人事件が発生。ヒラの警察官である猿渡鉄男は、やはり刑事だった父を慕っていた町の人びとからの情報で、事件を解決へと導く。

> 「あんた、猿さんの息子さん知っとったやろ。どうせ打ち明けるならあの人にしたか、て言ぅて。猿さんの息子さんならきっと、よぅしてくれるやろうと思う、て」(210頁)

第二部では、指名手配のヤクザが故郷の大牟田に隠れているらしい、との情報が。県警本部で若手のホープと目されている鉄男も人脈と土地カンを買われて、大牟田に乗り込んだ。捜査途中、小中学時代の親友、菅からR資金なる裏金の存在を知らされ…。

> 県警上層部には恐らく、R資金グループと一蓮托生の連中がいるのだろう。そうしたつき合いが歴代、受け継がれて来たのだろう。地検が探りを入れれば、全ての実態が明るみに出てしまう。(354頁)

第三部では大牟田のはずれで駐在所勤務、第四部では密漁機動取締隊で、それぞれに中心となる事件がある。


全体を通じて、鉄男の父の影がある。
戦後最悪の炭鉱爆発事故の日に、殺された鉄男の父。
誰にも分け隔てなく接し、皆に慕われていた名物刑事。
爆発事故に人手を割かれ、捜査はついに迷宮入り。父を殺したのは誰なのか…。

そしてまた、鉄男の幼馴染の仲間たち。
警官になった鉄男。
法に触れる、危ない橋ばかりを渡る白川。
検察官になった菅。
大蔵官僚の櫟園。
小中学校を共に過ごした親友四人は秘められた過去を共有する。

そしてなにより、舞台となる大牟田市。
大牟田の町そのものが主人公ともいえる。
炭鉱の町。その衰退が町を左右し、炭鉱員たちの人生を左右する。事故が起きれば命を奪い、助かってもCO中毒の後遺症が本人と家族を苦しめる。企業も国も、弱者を切り捨てる。…


登場人物たちが、皆、血が通っている。
生きている。
生活している。
大牟田の町で。
大牟田に生きる鉄男と、町の住人たちの人生は交差する。
ただ物語の登場人物として動いているのでなく、彼らはこの町で共に生きているのだ、と思わせる。


> 生きている。強く感じた。
> 生かされているのだ、俺は。(13頁)


力強くて、熱い、小説です。



この本、厚いんですよ。
863ページ、表紙を含んだ本の厚みは4.5センチ。
しかも二段組。
最近では珍しい大部です。
数年前にはゴロゴロしてましたけどね、これくらいの厚みの本(笑)。

手に取るのにちょっと勇気が要りますが(笑)、読み始めてしまえば、物語の世界に引き込まれます。怯むことなく、ぜひチャレンジしてみてください(^_^)。

 

 

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地の底のヤマ
西村 健
講談社

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