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2014年9月21日発行 第602号
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『日本のヴァイオリン王』 井上さつき
¥2,700+税 中央公論新社 2014/5/10発行
ISBN978-4-12-004612-4
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副題:鈴木政吉の生涯と幻の名器
著者・井上さつきは、1900年(明治33年)パリ万国博覧会の楽器部門の受賞者リストに鈴木政吉の名を見つけ、衝撃を受けたのだという。
鈴木バイオリン製造株式会社の創業者で、元は三味線職人。幕末に生まれ、明治・大正・昭和の時代を生きた、一人の天才楽器職人の人生を描くノンフィクション。
音楽的素養が完璧に欠落している発行人は、ヴァイオリンの現物を触ったことすらないのですが、私に限らず、ちょっとばかり敷居の高い楽器というイメージを持っている方は多いのでは。
けれど、ヴァイオリンという楽器の扱いが、現代と当時とでは相当違っていたらしい。
明治五年に近代的な教育制度が敷かれたとき、小学校では「唱歌」が教科として置かれていた。その伴奏としてオルガンが使われたが、すべての小学校に直ちにオルガンが行き渡ったわけではない。そういう学校では、ヴァイオリンが使われた。
手軽に持ち運べ、ピアノに比べて安価なヴァイオリンは、今よりもずっと身近に愛された。
琴などの和楽器と合奏したり、流行歌の伴奏をしたり。通信教育も盛んだった。
流行の後押しをしたのは、国産の量産ヴァイオリン。
鈴木政吉は、ヴァイオリンを量産化するために工程の機械化を進め、名古屋では豊田佐吉と並ぶ発明家と呼ばれた。多くの職工を抱えた工場は最先端と賞賛を集めた。
ところが、時代が下り状況は変化していく。
名人の手工ヴァイオリンが海外から輸入されるようになり、量産ヴァイオリンが低く見られるようになる。
蓄音機の普及などでその芸術性と奥深さが知られることで、手軽に弾かれていたヴァイオリンが、敬遠されるようになり……。
> (蓄音機の普及により)それまで唱歌などを曲がりなりにも弾いて自分で楽しむことで満足していたアマチュアが、名演奏家の演奏に接したとき、その音楽の深さ、その楽器の真のむずかしさに直面する。
> ヴァイオリン音楽に人々が飽きたので、ヴァイオリン離れが起こったのではなく、ヴァイオリン音楽の奥深さを人々が知ってしまったために、ヴァイオリン離れが起こったともいえるだろう。(214頁)
> 鈴木ヴァイオリンが「工場製品」であり、工場に多くの機械が導入されていることは、それまではまったく問題にならず、むしろ、賞賛されるべきことであった。しかし、大正後年になると、量販品と手工ヴァイオリンとの違いや、クレモナ製の銘器の存在がクローズアップされてきて、日本人の量産ヴァイオリンに対する意識が変化した[…](220頁)
> 明治時代、政吉がヴァイオリンを作り始めたとき、いわゆる芸術作品としてのヴァイオリンの製作のことはまったく念頭になかった。政吉は良い品質のヴァイオリンを大量に作ることに精力を傾け、機械を考案・導入し、工場方式による生産を発展させた。(291頁)
日本におけるヴァイオリンという楽器の位置の変化と、振り回される鈴木政吉の人生。
なんという波乱万丈。
激動の時代、突き進んだ一人の男の企業家精神。
ヴァイオリン王の名にふさわしい男の一代記です。
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井上 さつき | |
中央公論新社 |
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