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2014年12月14日発行 第607号
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『海うそ』 梨木香歩
¥1,500+税 岩波書店 2014/4/9発行
ISBN978-4-00-022227-3
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小説を紹介するのは久しぶりです。
最近、ノンフィクションばかり紹介してました。別に狙ってたわけじゃないんですけど~。
今日ご紹介するのは梨木香歩の小説です。
舞台は昭和初期。南九州の遅島。
人文地理学の研究者である秋野は、大学の夏期休暇を利用して遅島の現地調査にやってきた。
島には800メートル級の山々が続き、平地は少ない。高度で植生が変わり、低地に野良ヤギが多く、高地にカモシカが棲む。
少ない平地に家を建てて人が住む。集落は山を隔てて言葉も暮らしぶりも異なる。
明治初年まで、この島には大寺院が存在した。
廃仏毀釈の嵐が吹き荒れた頃、五百年以上続いた修験道の寺は徹底的に破壊された。
「何百年も続いてきたものが、ほとんど一瞬のように滅んでしまう。そのことを、どうとらえていいのか……」
島で出会った人々から伝承を聞き取り、家の間取りを見、山を歩き回り、メモを取り、スケッチをし、古い文書を読む。
文書の中にあった「海うそ」の文字。それはどうやら蜃気楼のことらしい。
宿をとった家の嘉助爺さん、ウネ婆さん。
山あいの西洋館に住む老人、山根氏。書生の岩本君。
カギ家に住む梶井君。
…………五十年後、再び訪れた遅島は、一大レジャーランド構想が持ち上がって開発工事の只中だった。
九州本土まで伸びる大橋。堂々と走る海岸道路。セメントのために削られた山の稜線。
伝承は語る者を失い、地名は変化する。
秋野は喪失に戸惑う。
> 存在の奥の方で、世界ぜんたいに対する「不信」が起こっている。それが、表面に現れて来ず、それだけに厄介な広がり方で自分の精神の奥が蝕まれている。そして、そのことに対して、実は抗う気力もない――(58頁)
> 私が行ってみないだけで、行ってみたらそれは今でも、草の中に横たわっているのかもしれない。ひとが見る見ないに関係なく、ただそこに在る、というふうに。
> けれど、この、胸を引き千切られるような寂寥感は。(130頁)
色即是空。空即是色。
五十年前、島を訪れたのは両親と婚約者を続けざまに失った後だった。
喪失を抱えた身が島に見たもの。歩き続け、見つめ続けて、立ち現れる真実。
梨木香歩、やっぱり好きですねえ。
文章の味わいも、登場人物たちも、その語る言葉も。
梨木香歩が綴る物語世界の住人になりたいなあ~と思うのですよ。
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海うそ |
梨木 香歩 | |
岩波書店 |
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まぐまぐサイト内では検索がしにくいので、自分の覚えとしてここにもUPしています。
ずーと、静かに、静かな本を書き続けている作者に拍手です。
昨日から梨木さんの「鳥と雲と薬草袋」を読んでいます。私ももう少し自然の中に目をむけなければと思いました。私はだだガツガツ歩くだけですから。
好きな作家さんはいつも何人もいて、だけどそれは常に入れ替わっているのですが、梨木香歩は常に私の中で特別に大切な存在です。
『鳥と雲と薬草袋』も好きです。
小説もエッセイも、なにを読んでも心にしみる。
いつもでも書き続けて欲しいですね。
私も脇目も振らずに歩くタイプ(^_^;)。
歩くときは歩くこと自体が目的だから。
……まあ、そういう歩き方もありってことで。