読書とかいろいろ日記

読書日記を中心に、日々のあれこれを綴ります。

第349号 『極北で』

2009年07月05日 | メルマガお奨め本
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週刊 お奨め本
2009年7月5日発行 第349号
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『極北で』 ジョージーナ・ハーディング(小竹由美子・訳)
¥1,900+税 新潮社 2009/2/25発行
ISBN978-4-10-590074-8
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1616年、北極海。
たったひとりの越冬。

著者は、出版、編集の仕事に携わり、紀行書を出したことはあるけれど、小説は
これが処女作という英国人女性。
凍てついた北の空気のような、透明感をまとった文章。


グリーンランドで夏のあいだだけ漁をする英国の捕鯨船。夏の終わりに、男が居
残った。たったひとりで。
トマス・ケイヴは日記を書き、熊を狩り、オーロラを見上げ、明けない夜と吹き
荒れる吹雪の日々をすごし、ヴァイオリンを弾いた。
日記を書きながら、焚火を見つめながら、彼は思い出す。彼につきまとう過去。
思い出。失った妻と息子。その存在を感じる。

> 自分が書いていることは完全な真実ではないと、彼にはわかっている。だがし
> かし、そもそも日記が真実だなどということがあるだろうか? […]
> 本当のことを言えば、この凍える日々に耐えていくうえでもっともつらいこと
> は、夢想ではなく、夢想の欠落なのだ。(75頁)


次の夏、捕鯨船は再びやってくる。
鯨を捕りに。彼を迎えに。その生死を確かめに。
前年、彼とともに夏を過ごした船長、船員たちの何人かがやってくる。そのなか
には、若いトマス・グッドラードがいる。ケイヴの故郷のごく近くの村の出身の
若者。若者が、物語のはじめと、後半を語る。ケイヴについて。
変わってしまったケイヴについて。

> 二日間徒歩で、二人だけで沼地の端を通り、それから広々とした荒野を突っ切
> って内陸へと進んでいくうちに、あまり話もせず、彼が何か特に私を安心させ
> るようなことを言ったわけでもなく、ただ歩いただけなのですが、心の絆を強
> めるには一歩一歩共に歩くのが一番だということを、私は知ったのです。(201頁)


美しい文章です。
美しい小説です。
発行人が個人的にたいへん気に入ったのは、以下の文章。

> いや、<buried(埋もれて)>とは書くまい。<coconed(つつまれて)>、と
> しよう。彼は最初に書いた言葉にインクのシミを垂らしながら線を引いて、べ
> つの言葉を上に書く。丸い「o」の字がたくさんある、長い、安らげる言葉だ。
> すると雪が柔らかくなる。[…](47頁)

この感覚、すごく好き!
私が日本語の漢字やひらがなや文字や単語に抱く感覚が、こうやって英語に向け
られて表現されるのを読むのは、私にとって素晴らしい快感だ。
物語の本筋からはずれてるけど(笑)。
ジョージーナ・ハーディングの感性に親しみを覚える(*^_^*)。


ひとりの男が抱える底知れぬ悲しさと、魂の救済。
おすすめ~。


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