5月30(土)は港区青山にあるNHK文化センターで大栗博司先生による「重力とは何か」という講座を聴講した。
5/30 重力とは何か
講師カリフォルニア工科大学 理論物理学研究所所長及び教授 大栗博司(ホームページ)
東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 主任研究員
https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1057085.html
人気番組NHKスペシャル『神の数式』の監修も務めた大栗博司先生
私たちを地球につなぎ止めている重力は、宇宙の謎を解く鍵でもあります。いま重力の研究は、ニュートン、アインシュタインの時代に続き、第三の黄金時代を迎えています。この講座では、重力に関する様々な話題を紹介し、時間と空間が伸び縮みする相対論の世界から、ホーキングのパラドックスを経て、宇宙は10次元だという超弦理論にいたる、科学者たちの数千年におよぶ冒険をたどります。
1時間半の講座で先生の著書「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る」(2012年刊行)の要点を解説する一般市民向けの内容である。
NHK文化センターは青山一丁目交差点にある青山ツインタワーの西館の中。道をはさんで反対側には赤坂御用地、近くには明治神宮外苑の銀杏並木があり、都心にしては緑が多い地域である。
とはいっても僕にとっては勤めている会社のすぐ近くなので、駅を降りるといつもの見慣れた風景が広がっている。通勤しているときの気分が蘇ってきた。
会場へは1時間前に到着。4階の受付の前で待っていたところ大栗先生がお見えになったのでご挨拶させていただいた。それから少しすると「科学講座仲間」のたけのやさんがいらっしゃったので一緒に5階の教室へ向かった。教室は2部屋をつなげていたので広い。席数を数えるのを忘れたが100人くらいは聴講できるような感じだった。いつものように最前列を確保した。
開始時刻近くになると8割くらいの席が埋まった。先生の講座は相変わらず根強い人気である。朝日カルチャーセンターの物理学講座のときよりも年齢層は若干低め(5歳くらい低め)のようだ。
NHK文化センターの職員の男性が先生を紹介した後、講座が始まった。
今回は1時間半の講座である。3年前に朝日カルチャーセンターで同じテーマで行われた4時間の講座を受けていたし、先生の著書を読み込んでいたので内容はすでに知っている。であるから僕の興味は次のようなものだった。
- どの部分を先生は省略してお話しになるのか?
- 何か新しい話題を先生はお話になるか?
- 質問コーナーで交わされる内容
先生が用意されたスライドは全部で120枚。3年前に朝日カルチャーセンター新宿教室で行われた4時間の講座では400枚くらいあった。
2012年06月03日
重力をめぐる冒険(朝日カルチャーセンター)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0471486930f344c4daa7aaa5ba2fdcc4
スライド数が減っているとはいえ、僕は今回の講座のために先生はスライドを作り直されていることに気が付いた。もし僕が先生の立場ならば前に使ったスライドから抜き出してそのまま使っていることだろう。短縮版の講座とはいえ先生は常に論理的なつながりを大切にされ、1時間半の講座として完全な形に構成されている。プロの仕事だと僕は思った。
今回の講座は「重力の7不思議」を主軸におきつつ、著書の中のその章以外の部分を取り混ぜながら進める形をとられていた。7不思議とは次のことである。
- 重力は「力」である=第一の不思議
- 重力は「弱い」=第二の不思議
- 重力は離れていても働く=第三の不思議
- 重力はすべてのものに等しく働く=第四の不思議
- 重力は幻想である=第五の不思議
- 重力は「ちょうどいい」=第六の不思議
- 重力の理論は完成していない=第七の不思議
本のほうの章立ては次のようなものだから、この講座を受講された方は第2章から第4章のうちの大半の部分、第5章から第8章については重要な部分をかいつまんで解説されていたことがおわかりになるだろう。
第1章:重力の七不思議
第2章:伸び縮みする時間と空間 - 特殊相対論の世界
第3章:重力はなぜ生じるのか - 一般相対論の世界
第4章:ブラックホールと宙のはじまり - アインシュタイン理論の限界
第5章:猫は生きているのか死んでいるのか - 量子力学の世界
第6章:宇宙玉ねぎの芯に迫る - 超弦理論の登場
第7章:ブラックホールに投げ込まれた本の運命 - 重力のホログラフィー原理
第8章:この世界の最も奥深い真実 - 超弦理論の可能性
今回の講座ではさらに「4つの力」について解説される中で「強い力」と「弱い力」のことも詳しく説明されて、超弦理論が重力子(グラビトン)を含んでいること、ホーキング放射についても解説されていた。それから「詳しいことは次の本をお読みください。」ということで「強い力と弱い力」と「大栗先生の超弦理論入門」を紹介されたわけである。
講義は1時間15分で終わり、残りの15分は質問コーナーにあてられた。重力波の検出のために今後行われる実験のこと、原始重力波の観測(BICEP2)のこと、プランクスケールでの光速不変性などを説明されながら回答された。全体的に質の高い質問が多かった。
僕もどうしても気になっていたことがあったので1つ質問させていただいた。それは先日Kavli IPMUからツイートされたばかりの以下の内容についてだ。
「大栗博司Kavli IPMU主任研究員らの研究グループ、重力の基礎となる時空がさらに根本的な理論の「量子もつれ」から生まれる仕組みを具体的な計算を用いて解明。一般相対性理論と量子力学を統一する究極の統一理論の構築への貢献が期待。http://www.ipmu.jp/ja/node/2175」
雑誌名:「Physical Review Letters」近日掲載予定
論文タイトル:Locality of gravitational systems from entanglement of conformal field theories(共形場の量子もつれから重力系の局所性へ)
著者:Jennifer Lin, Matilde Marcolli, Hirosi Ooguri, Bogdan Stoica
内容:「ホログラフィー原理によって、共形場の理論と等価になる、重力理論の持つべき性質」を明らかにしました。また、重力理論のエネルギー密度のような時空の中の局所データが、共形場の理論の量子もつれを用いて計算できることを示しました。
僕の質問:
この論文で発表された時空の形成プロセスやホログラフィー原理についても、今回のような市民向け講座や科学教養書で解説されるようになるのでしょうか?(先生がお書きになった著書をすべて読むことが前提で、その続編を僕は期待しているわけである。)
先生のご回答:
論文はまだ発表したばかりで、今後の(実験による)検証が必要です。将来みなさんに説明できるようになるかもしれませんが。
無理を承知の上で質問させていただいたので、がっかりはしなかった。何事にも慎重さは大事である。(無責任なことは言わないという意味で)僕は受講生に対する先生の誠実さを感じた。
この論文のプレプリントは無料公開されているので、もしかしたら理解できるかも?と幻想、妄想を抱いている方はお読みになっていただきたい。
Tomography from Entanglement(2014年12月):「量子もつれのトモグラフィー」
Jennifer Lin, Matilde Marcolli, Hirosi Ooguri, Bogdan Stoica
http://arxiv.org/abs/1412.1879
The Holographic Entropy Cone(2015年5月):「ホログラフィックな量子もつれ錐」
ホログラフィー原理によって、重力理論と等価になる、共形場の理論の持つべき性質
Ning Bao, Sepehr Nezami, Hirosi Ooguri, Bogdan Stoica, James Sully, Michael Walter
http://arxiv.org/abs/1505.07839
今回の講座でも先生は受講生のためにお菓子を用意されていた。今回はカルテクブランドのチョコレートだ。もったいないのでまだ食べていない。
大栗先生、今回もわかりやすい講義をありがとうございました。
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翌日に追記:
大栗先生はこの日を含むここ数週間の出来事や先日発表された論文、プレプリントのことについてブログ記事を投稿されました。
量子もつれ(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/24194484/
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オフ会:
講座には大学時代の同級生のI君(統計学専攻)と地元つながりの女友達のKさんも来ていた。たけのやさんは他に用事があるそうなので、3人だけでオフ会をして楽しく過ごした。
場所は明治神宮外苑の銀杏並木の入口にある「Royal Garden Cafe」。土曜日の午後なので大賑わいだった。
I君とKさんは大栗先生の「重力とは何か」をすでに読んでいる。Kさんはもっかのところ量子力学にハマっているそうで、その方面の科学教養書を読んでいるそうだ。今回持参した本に大栗先生からサインをいただいて満足そうだった。
また次回の講座でお会いしましょう。
関連記事:
重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63cdcd45ec542fa62d535b4cc715d69
強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177
大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863
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青山と言う事で、なんかおしゃれな店でオフ会のようで...(^^)
9月の講座は申し込みました。またお会いできるのを楽しみにしています。
そうなんです。NHK文化センターを出たのが午後3時前で、いつものように居酒屋へ行くのも早すぎる気がしたので、ここを選びました。
この地域で勤務するようになって、もう6年になりますが、この店を僕が利用したのは初めてだったのです。
9月にまたお会いしましょう!
eテレの白熱教室を昨日、見逃してしまった!
それは残念でした。ぜひ第2回からでもご覧ください。金曜の夜11時ですよ。
昨年放送されたときに感想記事を書いて、番組の流れがわかるようにしておきましたので、第1回の内容はこちらでご確認ください。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b
ところで、私は学生時代は物理が苦手でした。
バネ1個でおもりを引っ張った場合、バネは何センチ伸びるでしょうか?もし、4個のバネだったら?
というような問題が大嫌いでした。
もちろん、勉強不足を大いに認めます。
その一方で数学(当時は微分・積分、基礎解析っていってました)と化学が得意でした。進学は文系にしましたが。
それから20年位が経過していますが、ネットやテレビの影響もあり、
素人向けの(多少は厳密性や論理性に難があっても)わかりやすい記事、番組に触れることができ、
「知」に対する探求方法が学生時代とは異なっています。
そんな中で最近になって一般相対性理論・量子論を極めて低いレベルとはいえ学んだわけですが、これらの分野にはある種の「奇妙さ」を感じています。
その「奇妙さ」が素人をも惹きつける魅力なのだと思います。
その「奇妙さ」とは宗教的・精神的・哲学的そして政治的なものが見え隠れするという点です。
時間とはなにか? 空間とはなにか? 「無から生まれた」とする「無」とはなにか?
何もない「無」ではない「無」、すなわち何か存在する「無」とはどういう意味か?
138億年より前の世界は何だったのか?
などなどに、単なる学問的追求とは異なる要素を感じるのです。
だからこそ、時として怖くなることもあります(そういうときは本を閉じます)。
実際、気がおかしくなった研究者もいるということをNHKの番組でやってました。
その一方で、佐藤勝彦先生がインフレーション理論のことでおっしゃっていましたが、
人類が机の上の計算式で遥か過去の様子を解明できたことの偉大さ。
知りたい、確かめたいとする人間の持つ無限の探究心・・・
それに対する政府の弾圧(ソ連では射殺された物理学者がいましたね)。
いろいろな要素がありますね。。。
どういたしまして。
大人になってから、年をとってから気がついて好きになる勉強や学問はありますよね。
それは若い頃にはなかった環境の変化だったり、プロの素人さんがおっしゃるように本や教養番組だったり、人との出会いだったり、理由はいくつもありそうです。
これからも、よろしくお願いします。
はじめまして。コメントありがとうございます。
「宇宙論の勉強法を教えてください。」とのことですが、さとし様がこれまでどのような勉強をされてきたのか?数式レベルで物理学(特に一般相対性理論)を学ばれてきたのか?によってお答えする内容がだいぶ違ってきます。たとえば次のようなページは理解することができますでしょうか?それとも数式は全く苦手でしょうか?
相対論的なマクスウェル方程式
http://homepage2.nifty.com/eman/relativity/maxwell.html
共変微分
http://homepage2.nifty.com/eman/relativity/co_dif.html
ちょうどいま宇宙論をテーマにした「宇宙白熱教室」が再放送されています。(Eテレで毎週金曜、午後11時から)
今週はもう第2回の放送ですが、ご覧になることをお勧めします。
NHK宇宙白熱教室
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/cosmology/
昨年放送されたときの感想記事は、以下のページからたどれるようにしておきましたので、よろしかったらお読みください。
NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b
本書では ” 「質量」 と 「重さ」 は実質的に同じものであり、区別して考える必要はない ” と述べられているが、
上記 wikipedia 解説 では” 「質量」は、「重さ(重量)」 と混同される場合も多いが、両者は異なるものである ” と記載されている。
http://my2ndlife.jp/?eid=254
これも変ですよね、E=mc^2って本来、質量はエネルギーの大きさの度合いであって、それを閉じ込めると環境に応じて重さや動かし難さを生じるのであって、これも重力質量=慣性質量にこだわっているがために生じる本末転倒な方向性だと考えます。
とねさんはどう考えてるのですか?
ご質問いただきありがとうございます。
「質量」は動かしにくさ、「重さ」は重力場に置かれた「質量をもった物体」が受ける力の大きさ、と理解します。
「重力はすべてのものに等しく働く=第四の不思議」の箇所で説明し尽くされていると思うのですがいかがでしょうか?
> E=mc^2って本来、質量はエネルギーの大きさの度合いであって、それを閉じ込めると環境に応じて重さや動かし難さ
この部分がどうも違うと思います。環境に応じて変化するのは「重さ」であって、「質量」は変化しません。
両者が「実質的に同じ」というのは同じ値であるということではなく「比例関係」にあるということです。
月面上で測定される「重さ」は地表の6分の1程度ですが、地表で測った「質量(動かしにくさ)」は月面上でも同じです。子供は力士が押すと簡単に吹っ飛んでしまいますが、それは地表での吹っ飛び方と月面上での吹っ飛び方が同じ。これが「質量」が状況によって変化しないということです。それに対して地表で測定した子供や力士の重さ(体重)は月面上で測定すると、どちらも6分の1程度になります。
ここまでの説明では「質量」の獲得は謎のままです。質量の獲得の99%はE=mc^2によって解明され、残りの1%は素粒子物理学(ヒッグス機構も含む)で説明されることがらです。