「ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン」
数えてみたらこのブログの理数系書籍の紹介記事は本書で196冊目になっていた。(実際に読んで感想を書いたものだけをカウントしてみた。)本の紹介記事を書き始めたのは2006年3月なので、6年11ヶ月たっているから月平均2.36冊のペースだ。特に2008年以降読むペースは加速している。レビュー記事はいつの間にかたくさん溜まっていた。
本書は僕が大好きなノーベル賞物理学者のファインマン先生がカリフォルニア工科大学で1983年から行った講義を1984~1986年にかけて録音し、そのときのテープとファインマン先生のノートから復元されたものである。
英語原著は先生がお亡くなりになってから8年後の1996年に出版され、日本語版は1999年に出版されている。(英語版を購入される方はこちらからどうぞ。)
「Feynman Lectures On Computation:Richard P. Feynman, Anthony Hey」
日進月歩のコンピュータ科学の時代に、名著とはいえこのような古典を読んでも役に立つわけではない。それでも読んでみようと思ったのにはいくつかの理由が交差している。
1)ファインマン先生は癌で1988年にお亡くなりになったが、晩年にどのような講義をなさっていたのか知りたかった。それはNHKの「あの人に会いたい」のような気持からである。
2)本書のもとになった講義が行われていたのは僕が大学生だった時期と重なる。当時のパソコンはPC-9800シリーズの時代、MS-DOSの時代、初代Macintoshの時代だ。メインフレームやクレイのスーパーコンピュータは既に使われていて、BASICやFORTRAN、COBOLを使ってプログラミングが行われていた。プログラミング手法も構造化プログラミングをはじめさまざまなアルゴリズムが研究されていた。そのような時代背景の中でファインマン先生はコンピュータにどのような可能性を見出していたのか知りたかった。
3)「電卓の原理を詳しく理解したい」という流れで、計算機やコンピュータのアナログ回路やデジタル回路の勉強を始めたから。
4)本書には量子コンピュータについての記述があり、最近読んだ「今日研究されている量子コンピュータ」と比較して、ファインマン先生はどのようにお考えになっていたか知りたかったから。
5)本書には「可逆計算と計算の熱力学」という章がある。これまでの電卓やコンピュータでは不可逆な計算が行われており、このために熱が発生している。「情報が熱(=エネルギー)に転換する」という「ランダウアーの原理」や情報とエントロピーの関係に関心があったため。大学時代にお世話になった梅垣寿春先生(数学者)も1980年代に「確率論的エントロピー」と「量子論的エントロピー」という関数解析的な情報理論の教科書をお書きになっているので、いずれ読みたいと思っているのでその足がかりとして。
参考ページ:「情報をエネルギーに変換する技術」とは
http://j-net21.smrj.go.jp/develop/digital/entry/001-20110323-01.html
本書の表紙に裏には次のように紹介されている。
「賢くはあったが無知だった昔の自分に講義するとしたら、どうするか?」ファインマンが自らにこう問いながら作り上げた本書は、『ファインマン物理学』につづく新たなる名著といえるでしょう。ユニークな着眼点と本質をズバリ突く直観力が随所にきらめく、ファインマン流計算機・情報科学のテキストです。」
第1章では2進数で計算手順を実行できるというコンピュータの基礎を解説する。今では当たり前というより、意識の上にさえのぼらないことなので意外と新鮮に読むことができた。
第2章では計算をどのように行うかについてさらに深い考察を行う。計算はAND回路やOR回路などの一般的に「論理ゲート回路」を使って行うことを説明し、入力が2ビットで出力が1ビットの回路は不可逆なものであること、またそれらとは異なる可逆ゲートを作って計算を行うことの重要性を説く。またシフトレジスターやフリップ・フロップ回路など電卓やコンピュータに必要な機構についての解説を行っている。
第3章では僕にとっては懐かしい「チューリングマシン」についての解説。結局この機構は実現コストが高くつくためコンピュータのしくみとして採用されなかったが、コンピュータで何が計算可能なのかということや有限の時間に計算を終えることができるか、計算を停止するための条件など、自動計算の原理を理解する上でとても大切だ。
第4章は「符号化と情報理論」。初期のコンピュータやメモリー資源も限られていて、通信速度も極めて遅い。おまけに半導体技術の限界によってビット単位での誤動作も発生していた。このような状況の中でいかに大量の情報を圧縮して送ることで通信速度の問題をカバーし、発生するエラーをどのように発見し自動的に訂正するかを研究、実用化することは極めて重要な課題だった。
今ではブロードバンドが普及し、日常的にパソコンを使っている状況で通信速度やパソコンの誤動作を意識することはほとんどない。通信速度が話題になるのはスマートフォンのLTE回線の速度が話題にされるときくらいだろう。けれどもデータの圧縮技術やエラー訂正技術はデジタルテレビなどのハードウェアではとても重要なものである。悪天候の日にデジタルテレビの画面にブロックノイズが表示されるのはエラー訂正が完全に実行できないことによるものだ。またパソコンが誤動作しないのは当たり前のように思っているが、それはデータ通信やパソコン内部の処理でエラー訂正のしくみが働いてくれているおかげなのだ。
第5章は「可逆計算と計算の熱力学」だ。ファインマン先生はコンピュータの消費電力を最小限に抑えるために可逆な論理回路に基づく計算機の必要性を説く。CPUから発生する熱は電流が流れることによるジュール熱の他、不可逆な計算処理に伴う熱エネルギーなのである。代表的な論理回路であるAND回路やOR回路は次の図に示すとおり2つのAとBという入力について計算を行なって1つの出力Xを得る。
「ショアのアルゴリズム」が発表されたのはファインマン先生がお亡くなりになって後、1994年のことなので、本書では量子コンピュータの超並列計算の有効性についてはほとんど触れられていない。またコンピュータ内部の情報伝達を電子を使って行うか、光子を使って行うかについても方向性がはっきり示されているわけではない。
第7章は「計算の物理学的側面」と題して半導体デバイスのしくみや製造過程が解説されている。1970年代から1980年代にかけて電子回路はIC、LSI、VLSI(超大規模集積回路)と進化していった。この過程で電卓の小型化、省電力競争が展開された。(参考:「カシオミニのノスタルジア」)
本書の編者も注意事項として指摘しているのだが、ファインマン先生がこの章で解説しているのは主に消費電力の大きなnMOS技術を使った集積回路である。章の最後のほうで消費電力が劇的に少なくてすむCMOS技術を使った集積回路のしくみや必要性が説かれている。
また製造後にユーザの手許で内部論理回路を定義・変更できる集積回路であるロジックアレイについての解説は当時の最新技術を紹介したものだ。プログラム可能なロジックアレイ、論理ゲート、論理ブロックをFPGAで実現できたのは1987年のことである。
この計算機科学の講義を終えた後、1986年からファインマン博士はスペースシャトルの事故原因究明のために奔走される。すでに癌手術を何度か行っていた時期だった。
チャレンジャー号爆発事故から30年
https://www.gizmodo.jp/2016/02/post_663933.html
本書の「あとがき」の最後には1988年にお亡くなりになる直前のファインマン先生の胸を打つ逸話が紹介されている。
「ファインマン先生は昏睡状態で奥様のグウェネスは病床の横にいた。彼女は、彼の手が自分の手を握りたそうに動いているのに気付いた。彼女は医師にそのようなことは可能かと訊ねた。医師は、その運動は無意識のもので何も意味しないと告げた。その時、それまで1日半も昏睡状態だったファインマンは両手を伸ばし、それを振って袖を直し、頭の後ろで両手を組んだ。これは、昏睡状態でも聞いたり考えたりできることを医師に知らせるファインマン流の方法であった。」
「権威」や「常識にとらわれた思考」を嫌ったファインマン先生の流儀は最後の瞬間まで貫かれていたのだ。
本書の日本語版は残念ながら絶版状態が続いているが、2020年1月にオンデマンド版が発売された。このリンクからアマゾンのページが開くようにしておく。
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2016年4月に追記:
乱雑さを決める時間の対称性を発見
-100年前の物理と数学の融合が築くミクロとマクロの架け橋-
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160427_2/
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関連記事:
電卓を作りたいという妄想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/01cf6bc6669bf0956a792bce292f97f1
改訂版 電子回路の「しくみ」と「基本」 :小峯龍男
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63d78b0fbb911e94b4b1385edbcbdfb9
改訂版 デジタル回路の「しくみ」と「基本」:小峯龍男
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1a7d2ab7d8823e87c42fb09177e9702c
量子コンピュータ入門:宮野健次郎、古澤明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef75709187cf4b35a12f2d9fdf73a320
発売情報: クラウド量子計算入門: 中山茂(感想記事)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d360b69100fbe723c5b9410dbf3f5f4d
物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab31086d3d97f72d800893033189592d
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
ファインマン物理学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072
ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「ファインマン計算機科学:ファインマン」
編者の序
ファインマン序
第1章:コンピュータ入門
- ファイル事務員モデル
- 命令セット
- まとめ
第2章:コンピュータの機構
- ゲートと組み合せ論理
- 2進数解読器
- ゲートのつづき:可逆ゲート
- 演算子の完全な一揃い
第3章:計算の理論
- 有効な手順と計算可能性
- 有限状態機械
- 有限状態機械の限界
- チューリング機械
- さらにチューリング機械について
- 万能チューリング機械と停止問題
- 計算可能性
第4章:符号化と情報理論
- 計算と通信理論
- 誤りの検出と符号の訂正
- メッセージ空間の幾何学
- データ圧縮と情報
- 情報理論
- さらに符号化技術について
- アナログ信号伝送
第5章:可逆計算と計算の熱力学
- 情報の物理
- 可逆計算と計算の熱力学
- 計算:エネルギーコスト対速さ
- 一般的な可逆コンピューター
- ビリヤードボールコンピューター
- 量子計算
第6章:量子力学的コンピューター
- 序
- 可逆機械による計算
- 量子力学的コンピューター
- 欠陥と不可逆的な自由エネルギーの損失
- 装置の簡略化
- 結論
- 参考文献
第7章:計算の物理学的側面
- 編者の注意書き
- 半導体デバイスの物理学
- コンピュータのエネルギー使用と熱損失
- VLSIの回路構造
- 機械設計についてのさらなる制限
編者の最終コメント
あとがき:ファインマンの思い出
訳者あとがき
索引
数えてみたらこのブログの理数系書籍の紹介記事は本書で196冊目になっていた。(実際に読んで感想を書いたものだけをカウントしてみた。)本の紹介記事を書き始めたのは2006年3月なので、6年11ヶ月たっているから月平均2.36冊のペースだ。特に2008年以降読むペースは加速している。レビュー記事はいつの間にかたくさん溜まっていた。
本書は僕が大好きなノーベル賞物理学者のファインマン先生がカリフォルニア工科大学で1983年から行った講義を1984~1986年にかけて録音し、そのときのテープとファインマン先生のノートから復元されたものである。
英語原著は先生がお亡くなりになってから8年後の1996年に出版され、日本語版は1999年に出版されている。(英語版を購入される方はこちらからどうぞ。)
「Feynman Lectures On Computation:Richard P. Feynman, Anthony Hey」
日進月歩のコンピュータ科学の時代に、名著とはいえこのような古典を読んでも役に立つわけではない。それでも読んでみようと思ったのにはいくつかの理由が交差している。
1)ファインマン先生は癌で1988年にお亡くなりになったが、晩年にどのような講義をなさっていたのか知りたかった。それはNHKの「あの人に会いたい」のような気持からである。
2)本書のもとになった講義が行われていたのは僕が大学生だった時期と重なる。当時のパソコンはPC-9800シリーズの時代、MS-DOSの時代、初代Macintoshの時代だ。メインフレームやクレイのスーパーコンピュータは既に使われていて、BASICやFORTRAN、COBOLを使ってプログラミングが行われていた。プログラミング手法も構造化プログラミングをはじめさまざまなアルゴリズムが研究されていた。そのような時代背景の中でファインマン先生はコンピュータにどのような可能性を見出していたのか知りたかった。
3)「電卓の原理を詳しく理解したい」という流れで、計算機やコンピュータのアナログ回路やデジタル回路の勉強を始めたから。
4)本書には量子コンピュータについての記述があり、最近読んだ「今日研究されている量子コンピュータ」と比較して、ファインマン先生はどのようにお考えになっていたか知りたかったから。
5)本書には「可逆計算と計算の熱力学」という章がある。これまでの電卓やコンピュータでは不可逆な計算が行われており、このために熱が発生している。「情報が熱(=エネルギー)に転換する」という「ランダウアーの原理」や情報とエントロピーの関係に関心があったため。大学時代にお世話になった梅垣寿春先生(数学者)も1980年代に「確率論的エントロピー」と「量子論的エントロピー」という関数解析的な情報理論の教科書をお書きになっているので、いずれ読みたいと思っているのでその足がかりとして。
参考ページ:「情報をエネルギーに変換する技術」とは
http://j-net21.smrj.go.jp/develop/digital/entry/001-20110323-01.html
本書の表紙に裏には次のように紹介されている。
「賢くはあったが無知だった昔の自分に講義するとしたら、どうするか?」ファインマンが自らにこう問いながら作り上げた本書は、『ファインマン物理学』につづく新たなる名著といえるでしょう。ユニークな着眼点と本質をズバリ突く直観力が随所にきらめく、ファインマン流計算機・情報科学のテキストです。」
第1章では2進数で計算手順を実行できるというコンピュータの基礎を解説する。今では当たり前というより、意識の上にさえのぼらないことなので意外と新鮮に読むことができた。
第2章では計算をどのように行うかについてさらに深い考察を行う。計算はAND回路やOR回路などの一般的に「論理ゲート回路」を使って行うことを説明し、入力が2ビットで出力が1ビットの回路は不可逆なものであること、またそれらとは異なる可逆ゲートを作って計算を行うことの重要性を説く。またシフトレジスターやフリップ・フロップ回路など電卓やコンピュータに必要な機構についての解説を行っている。
第3章では僕にとっては懐かしい「チューリングマシン」についての解説。結局この機構は実現コストが高くつくためコンピュータのしくみとして採用されなかったが、コンピュータで何が計算可能なのかということや有限の時間に計算を終えることができるか、計算を停止するための条件など、自動計算の原理を理解する上でとても大切だ。
第4章は「符号化と情報理論」。初期のコンピュータやメモリー資源も限られていて、通信速度も極めて遅い。おまけに半導体技術の限界によってビット単位での誤動作も発生していた。このような状況の中でいかに大量の情報を圧縮して送ることで通信速度の問題をカバーし、発生するエラーをどのように発見し自動的に訂正するかを研究、実用化することは極めて重要な課題だった。
今ではブロードバンドが普及し、日常的にパソコンを使っている状況で通信速度やパソコンの誤動作を意識することはほとんどない。通信速度が話題になるのはスマートフォンのLTE回線の速度が話題にされるときくらいだろう。けれどもデータの圧縮技術やエラー訂正技術はデジタルテレビなどのハードウェアではとても重要なものである。悪天候の日にデジタルテレビの画面にブロックノイズが表示されるのはエラー訂正が完全に実行できないことによるものだ。またパソコンが誤動作しないのは当たり前のように思っているが、それはデータ通信やパソコン内部の処理でエラー訂正のしくみが働いてくれているおかげなのだ。
第5章は「可逆計算と計算の熱力学」だ。ファインマン先生はコンピュータの消費電力を最小限に抑えるために可逆な論理回路に基づく計算機の必要性を説く。CPUから発生する熱は電流が流れることによるジュール熱の他、不可逆な計算処理に伴う熱エネルギーなのである。代表的な論理回路であるAND回路やOR回路は次の図に示すとおり2つのAとBという入力について計算を行なって1つの出力Xを得る。
「ショアのアルゴリズム」が発表されたのはファインマン先生がお亡くなりになって後、1994年のことなので、本書では量子コンピュータの超並列計算の有効性についてはほとんど触れられていない。またコンピュータ内部の情報伝達を電子を使って行うか、光子を使って行うかについても方向性がはっきり示されているわけではない。
第7章は「計算の物理学的側面」と題して半導体デバイスのしくみや製造過程が解説されている。1970年代から1980年代にかけて電子回路はIC、LSI、VLSI(超大規模集積回路)と進化していった。この過程で電卓の小型化、省電力競争が展開された。(参考:「カシオミニのノスタルジア」)
本書の編者も注意事項として指摘しているのだが、ファインマン先生がこの章で解説しているのは主に消費電力の大きなnMOS技術を使った集積回路である。章の最後のほうで消費電力が劇的に少なくてすむCMOS技術を使った集積回路のしくみや必要性が説かれている。
また製造後にユーザの手許で内部論理回路を定義・変更できる集積回路であるロジックアレイについての解説は当時の最新技術を紹介したものだ。プログラム可能なロジックアレイ、論理ゲート、論理ブロックをFPGAで実現できたのは1987年のことである。
この計算機科学の講義を終えた後、1986年からファインマン博士はスペースシャトルの事故原因究明のために奔走される。すでに癌手術を何度か行っていた時期だった。
チャレンジャー号爆発事故から30年
https://www.gizmodo.jp/2016/02/post_663933.html
本書の「あとがき」の最後には1988年にお亡くなりになる直前のファインマン先生の胸を打つ逸話が紹介されている。
「ファインマン先生は昏睡状態で奥様のグウェネスは病床の横にいた。彼女は、彼の手が自分の手を握りたそうに動いているのに気付いた。彼女は医師にそのようなことは可能かと訊ねた。医師は、その運動は無意識のもので何も意味しないと告げた。その時、それまで1日半も昏睡状態だったファインマンは両手を伸ばし、それを振って袖を直し、頭の後ろで両手を組んだ。これは、昏睡状態でも聞いたり考えたりできることを医師に知らせるファインマン流の方法であった。」
「権威」や「常識にとらわれた思考」を嫌ったファインマン先生の流儀は最後の瞬間まで貫かれていたのだ。
本書の日本語版は残念ながら絶版状態が続いているが、2020年1月にオンデマンド版が発売された。このリンクからアマゾンのページが開くようにしておく。
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2016年4月に追記:
乱雑さを決める時間の対称性を発見
-100年前の物理と数学の融合が築くミクロとマクロの架け橋-
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160427_2/
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関連記事:
電卓を作りたいという妄想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/01cf6bc6669bf0956a792bce292f97f1
改訂版 電子回路の「しくみ」と「基本」 :小峯龍男
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/63d78b0fbb911e94b4b1385edbcbdfb9
改訂版 デジタル回路の「しくみ」と「基本」:小峯龍男
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1a7d2ab7d8823e87c42fb09177e9702c
量子コンピュータ入門:宮野健次郎、古澤明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef75709187cf4b35a12f2d9fdf73a320
発売情報: クラウド量子計算入門: 中山茂(感想記事)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d360b69100fbe723c5b9410dbf3f5f4d
物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab31086d3d97f72d800893033189592d
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
ファインマン物理学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072
ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「ファインマン計算機科学:ファインマン」
編者の序
ファインマン序
第1章:コンピュータ入門
- ファイル事務員モデル
- 命令セット
- まとめ
第2章:コンピュータの機構
- ゲートと組み合せ論理
- 2進数解読器
- ゲートのつづき:可逆ゲート
- 演算子の完全な一揃い
第3章:計算の理論
- 有効な手順と計算可能性
- 有限状態機械
- 有限状態機械の限界
- チューリング機械
- さらにチューリング機械について
- 万能チューリング機械と停止問題
- 計算可能性
第4章:符号化と情報理論
- 計算と通信理論
- 誤りの検出と符号の訂正
- メッセージ空間の幾何学
- データ圧縮と情報
- 情報理論
- さらに符号化技術について
- アナログ信号伝送
第5章:可逆計算と計算の熱力学
- 情報の物理
- 可逆計算と計算の熱力学
- 計算:エネルギーコスト対速さ
- 一般的な可逆コンピューター
- ビリヤードボールコンピューター
- 量子計算
第6章:量子力学的コンピューター
- 序
- 可逆機械による計算
- 量子力学的コンピューター
- 欠陥と不可逆的な自由エネルギーの損失
- 装置の簡略化
- 結論
- 参考文献
第7章:計算の物理学的側面
- 編者の注意書き
- 半導体デバイスの物理学
- コンピュータのエネルギー使用と熱損失
- VLSIの回路構造
- 機械設計についてのさらなる制限
編者の最終コメント
あとがき:ファインマンの思い出
訳者あとがき
索引
電源電圧は 2 V まで下げられるという結果を
ボルツマン分布から導いていた記憶があるのですが、
それが何故、最近はもっと低くなっちまってるのか、
未だに理解してません (-_-;)。。。
他にもコメントを入れようとした記事があるんですが、
なんだか纏まらないもんで放置モード ^_^;
僕はかなり前に中古のを8000円くらいで手に入れたのですが、今日見ると3000円にまで下がっていますね。早まってしまいました。
「とねの本棚」をご覧いただければわかりますが、最近Verilog入門やFPGAトレーニングキットも揃えました。来年中には取り掛かりたいと思っています。
http://booklog.jp/users/ktonegaw
コメントはお時間の余っているときにどうぞ!
ご質問いただいた本は実物を見たことがないので確定的なことは言えませんが、日本のアマゾンやアメリカのアマゾンの情報を読んだところ次のような印象を受けました。
1)物理を学ぶという目的のために、ほぼ十分な内容がカバーされている。
2)数学を主軸に置いた本であるが、物理学の内容が多く含まれていて、それを理解するための前提知識を物理学の教科書で補う必要があるので、読むのに時間がかかりそうに思えた。
3)常微分方程式、偏微分方程式の説明は十分でないようなので、これらについては他の本を読む必要がある。
4)561ページというボリュームなので一気に読もうとすると途中でギブアップしてしまい、肝心の物理学の勉強にたどりつけない。だから物理学の勉強を進めながら必要に応じて該当する章を読むとよい。
5)日本語版は初版なので誤植が多いかもしれない。
英語版は「Roel Snieder: A Guided Tour of Mathematical Methods for the Physical Sciences 2nd edition, Cambridge Unversity Press, 2009]」なのでアメリカのアマゾンのサイトで検索し、読者のレビューを参考にしたほうがよいです。低い評価をつけている人もいますが、文章を読んだところその方の資質に問題があるように思いました。
本文中に絶版で手に入りにくいと記述がありますが、最近になりオンデマンド出版で購入できるようになったそうです。
https://www.iwanami.co.jp/book/b378390.html
ご存知でしたら申し訳ないです。
名著が手に入るのはありがたい話です。
オンデマンド版発売についてご連絡いただき、ありがとうございました。オンデマンド版については知りませんでした。
記事にそのむねを追記しておきました。
この記事を書いて以降、英語版も電子書籍(Kindle版)で読めるようになりましたね。