「代数学I 群と環:桂利行」
内容
東京大学理学部数学科3年次前期に学ぶ「代数学1」のシラバスに即したテキスト。代数学への導入部分をわかりやすく解説。基本的な代数系である群と環の理論の初歩を扱う。章末に演習問題を付す。2004年3月刊行。
著者について
桂利行
1972年東京大学理学部数学科卒業。現在、東京大学大学院数理科学研究科教授。理学博士
理数系書籍のレビュー記事は本書で246冊目。
「ゲージ理論とトポロジーの年表」や「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」という記事を書いてみて代数学の大切さをつくづく思い知らされた。トポロジーにしろ解析学にしろ代数学の理解は欠かせない。
SU(2)やSU(3)、U(1)など素粒子の標準理論の対称性を理解するために群論からリー群論を学んできたがそれだけでは足りない。
来月から大学では新学年が始まるし、群論を初めて学ぶ大学生もきっと多いことだろう。高校までに学ぶ代数とはイメージがまったく違うので最初はとっつきにくい分野でもある。だから代数系の本をいくつか読んで紹介することにした。
今日取り上げたのは著者による講義をもとにして書かれた本。東大の学部3年前期で学ぶ内容である。後期のぶんも含めて3冊構成のシリーズだ。この3冊を買ってから数年が経っているが、読まなければもったいないし、第2巻と第3巻を特に読んでみたいと思ったので第1巻から読んでみたわけだ。
3冊ともサイズもコンパクトで120ページほど。群論、環論は定義や定理、新しく学ぶ数学用語が非常に多い。分厚い本だと読むのに日数がかかるから用語の意味を忘れてしまいがちだ。整理された薄い本で学ぶというのもひとつの学習スタイルである。それに本書は行間をたっぷりとってあるのでストレスを感じなくてすむ。
群、環、体は英語でそれぞれ「group」、「ring」、「field」である。定義や意味はもちろん理解しているが、英語にしろ日本語にしろ群はともかく環や体はどうしてそういう名前をつけたのか、僕にはさっぱりわからない。(このように書いたところ、いつもコメントをくださるhirotaさんが、いろいろ教えてくださいました。その内容はコメント欄をお読みください。)
第1巻は群論と環論。僕にとっては復習がてらということになる。これまで次のような本を読んでいた。(リー群や表現論は除く)
-「群論への30講:志賀浩二著」
-「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」
-「群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次」
この3冊はどれも入門書だが上から下の順に少しずつ難しくなっている。それぞれの持ち味がある良書だと思う。
これに対し今回読んだ「代数学I 群と環:桂利行」は、ひとことで言うと「優等生向け」の教科書だと思った。コンパクトな120ページほどの分量に、定理や証明など必要な項目が無駄のない記述で明快に解説されている。そのため「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」のように群の元を具体的に書き出して説明するような超入門者にとって親切な記述にはなっていない。おそらく講義のほうで補うことを前提にしているのだと思った。つまり、僕にとってはこれまでの本で学んだ知識を整理するのにとても役立った。また既に読んでいた3冊には含まれていない定理や証明も多い。
約20日かけて熟読した。わからないところは「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」で同じ項目を読みながら理解するようにして読み進めた。演習問題は半分くらいを自分で解いてみた。「はじめに」には各章を理解していれば解けるはずの基礎的な問題であり、例外的に代数の理論が役立つことをしめすための難しい問題も取り上げてある、と書かれている。しかし僕には本文の記述に対して演習問題のレベルが高すぎると思えた。
第1章では群の理論の解説を行う。初めて群にふれる人を対象としているため、「注意」の項を随所にもうけ、慣れてくれば当然と思えるような事実についても解説している。また、シローの定理のように、とりあえずは事実を知っていて使えればよいであろうと思われる定理については証明が省略されている。
第2章では環の理論を扱う。理論の設定部分は群論と同様に進展するので、そのことを意識しながら学べばより効率的に学べるであろう。また、環の中で重要な位置を占める整域については、とくに詳しく解説している。
「代数学I 群と環:桂利行」
「代数学II 環上の加群:桂利行」
「代数学III 体とガロア理論:桂利行」
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「代数学I 群と環:桂利行」
はじめに
第1章:群の理論
- 群の定義
- 部分群
- いろいろな群の例
-- 巡回群、対称群、2面体群、クラインの4群、4元数群、自由群
- 剰余類と剰余群
- 準同型写像と準同型定理
- 直積
- 共役類
- 可解群
- シローの定理
章末問題
第2章:環の理論
- 環の定義
- 部分環と直積
- 多項式環
- イデアルと剰余環
- 準同型写像
- 一意分解整域
- 素イデアルと極大イデアル
- 単項イデアル整域
- 商体
- 素体と標数
- 単項イデアル整域上の多項式環
問題の略解
参考文献
記号一覧
索引
人名表
内容
東京大学理学部数学科3年次前期に学ぶ「代数学1」のシラバスに即したテキスト。代数学への導入部分をわかりやすく解説。基本的な代数系である群と環の理論の初歩を扱う。章末に演習問題を付す。2004年3月刊行。
著者について
桂利行
1972年東京大学理学部数学科卒業。現在、東京大学大学院数理科学研究科教授。理学博士
理数系書籍のレビュー記事は本書で246冊目。
「ゲージ理論とトポロジーの年表」や「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」という記事を書いてみて代数学の大切さをつくづく思い知らされた。トポロジーにしろ解析学にしろ代数学の理解は欠かせない。
SU(2)やSU(3)、U(1)など素粒子の標準理論の対称性を理解するために群論からリー群論を学んできたがそれだけでは足りない。
来月から大学では新学年が始まるし、群論を初めて学ぶ大学生もきっと多いことだろう。高校までに学ぶ代数とはイメージがまったく違うので最初はとっつきにくい分野でもある。だから代数系の本をいくつか読んで紹介することにした。
今日取り上げたのは著者による講義をもとにして書かれた本。東大の学部3年前期で学ぶ内容である。後期のぶんも含めて3冊構成のシリーズだ。この3冊を買ってから数年が経っているが、読まなければもったいないし、第2巻と第3巻を特に読んでみたいと思ったので第1巻から読んでみたわけだ。
3冊ともサイズもコンパクトで120ページほど。群論、環論は定義や定理、新しく学ぶ数学用語が非常に多い。分厚い本だと読むのに日数がかかるから用語の意味を忘れてしまいがちだ。整理された薄い本で学ぶというのもひとつの学習スタイルである。それに本書は行間をたっぷりとってあるのでストレスを感じなくてすむ。
群、環、体は英語でそれぞれ「group」、「ring」、「field」である。定義や意味はもちろん理解しているが、英語にしろ日本語にしろ群はともかく環や体はどうしてそういう名前をつけたのか、僕にはさっぱりわからない。(このように書いたところ、いつもコメントをくださるhirotaさんが、いろいろ教えてくださいました。その内容はコメント欄をお読みください。)
第1巻は群論と環論。僕にとっては復習がてらということになる。これまで次のような本を読んでいた。(リー群や表現論は除く)
-「群論への30講:志賀浩二著」
-「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」
-「群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次」
この3冊はどれも入門書だが上から下の順に少しずつ難しくなっている。それぞれの持ち味がある良書だと思う。
これに対し今回読んだ「代数学I 群と環:桂利行」は、ひとことで言うと「優等生向け」の教科書だと思った。コンパクトな120ページほどの分量に、定理や証明など必要な項目が無駄のない記述で明快に解説されている。そのため「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」のように群の元を具体的に書き出して説明するような超入門者にとって親切な記述にはなっていない。おそらく講義のほうで補うことを前提にしているのだと思った。つまり、僕にとってはこれまでの本で学んだ知識を整理するのにとても役立った。また既に読んでいた3冊には含まれていない定理や証明も多い。
約20日かけて熟読した。わからないところは「群・環・体入門:新妻弘、木村哲三」で同じ項目を読みながら理解するようにして読み進めた。演習問題は半分くらいを自分で解いてみた。「はじめに」には各章を理解していれば解けるはずの基礎的な問題であり、例外的に代数の理論が役立つことをしめすための難しい問題も取り上げてある、と書かれている。しかし僕には本文の記述に対して演習問題のレベルが高すぎると思えた。
第1章では群の理論の解説を行う。初めて群にふれる人を対象としているため、「注意」の項を随所にもうけ、慣れてくれば当然と思えるような事実についても解説している。また、シローの定理のように、とりあえずは事実を知っていて使えればよいであろうと思われる定理については証明が省略されている。
第2章では環の理論を扱う。理論の設定部分は群論と同様に進展するので、そのことを意識しながら学べばより効率的に学べるであろう。また、環の中で重要な位置を占める整域については、とくに詳しく解説している。
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はじめに
第1章:群の理論
- 群の定義
- 部分群
- いろいろな群の例
-- 巡回群、対称群、2面体群、クラインの4群、4元数群、自由群
- 剰余類と剰余群
- 準同型写像と準同型定理
- 直積
- 共役類
- 可解群
- シローの定理
章末問題
第2章:環の理論
- 環の定義
- 部分環と直積
- 多項式環
- イデアルと剰余環
- 準同型写像
- 一意分解整域
- 素イデアルと極大イデアル
- 単項イデアル整域
- 商体
- 素体と標数
- 単項イデアル整域上の多項式環
問題の略解
参考文献
記号一覧
索引
人名表
ありがとうございます!さすが博学でいらっしゃいますね。
「体」はドイツ語からきていとは。。。
環はボクシングの「リング」からきているなど、思いもよりませんでした。というよりボクシングのリングと英語のring自体が僕には結びついていませんでしたし。
moduleやalgebraについても教えていただき、ありがとうございました。
そこでググってみたら、ボクシング・リングが元だそうで、日本だと土俵ですね。
これも演算を行う土俵でfieldと大差ないわけか…fieldの方が広いけど。
代数構造にはmoduleとかalgebraとかもあるけど、module=規格化された組み立てユニット, algebra=代数なんてサボって名付けたとしか思えないですね。