「とね日記賞」を発表した後、年末までファインマンの経路積分や量子電気力学を勉強することにした。
電子や光子などはビリヤード玉のように1本の軌道に沿って運動するわけではない。電子や光子のひとつひとつは複素数の波動関数であらわされる状態で空間全体に広がっていて、空間の各点での電子や光子の存在確率を求めることができるだけだ。存在確率は波動関数の絶対値の2乗で計算される。(ボルンの確率解釈)複素数の波動関数のイメージは「EMANの量子力学」のこのページの一番下のアニメーションで見ることができる。
経路積分はファインマンが大学院生だった1940年頃に発案したもので、「可能なすべての経路を積分する(足し合わせる)」という奇想天外な理論。上のような電子や光子の出発点と終着点がわかっているとき、無数の経路が考えられる。それぞれの経路を通る確率は大小の差はあったとしても必ずゼロより大きい。つまり電子や光子は考えられうる可能な経路の「すべて」を通って終着点に到達するのだ。古典力学の「最小作用の原理」で使われる「作用」という量を量子力学に適用し、可能なすべての経路について積分(加え合わせる)のが経路積分なのである。
経路積分のおかげで、イメージしにくい量子力学のいくつもの現象が直観的に理解できるようになっただけでなく、量子力学の基本概念から、シュレーデインガー方程式の表示とのつながり、具体的な事例として摂動論や、遷移、変分原理、量子電気力学の分野などを扱うことができる。現代物理学には欠くことのできない理論なのだ。
ファインマン先生ご自身による一般向けの本と物理学専攻の学生向けの教科書が出版されているので紹介しよう。それぞれの本は読後に記事にする予定だ。
まず、一般向けの本。同じ内容だが文庫本と単行本の2種類でている。後者は古書でしか入手できない状況だが、老眼の進行している人にはこちらがよいだろう。(笑)
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (岩波現代文庫)」(紹介記事)
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (単行本)」
この本はファインマンが一般の人に対して行った4日間の講演をまとめたもので、最初の2日間が経路積分、後の2日間が量子電磁力学についての講義になっている。経路積分のほうは以前「入射角と反射角は等しいのだが...(光学)」という記事で紹介した内容を含んでいる。この本はファインマンの一般向けの本の中でも特にお勧めだ。原書でお読みになりたい方は以下のものがいいだろう。
「QED: The Strange Theory of Light and Matter」(紹介記事)
つぎに物理学専攻の学生向けの本を紹介しよう。
ファインマンの「量子力学と経路積分」の日本語版は1990年に出版された「マグロウヒル版」と1995年に出版された「みすず書房版」の2種類がある。これらはともに1965年に出版された「Quantum Mechanics and Path Integrals (Mcgraw Hill-International Series in the Earth and Planetary Sciences)」を北原和夫先生が翻訳したものだが、残念なことに英語原本には数式や問題のミス、誤植がたくさんあるため、翻訳版もそれを引きずってしまっている。日本語の「マグロウヒル版」ではそれが顕著で「みすず書房版」では多少訂正されたものの、間違いは多数残っている。購入されるのならば少しでも間違いの少ない「みすず書房版」をお勧めする。
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2017年3月に追記:
新版が刊行されたので、お買い求めになる方はこちらをどうぞ。
発売情報:【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/300a29769f773a609ea3560e86952e60
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「量子力学と経路積分(みすず書房版)」
「Quantum Mechanics and Path Integrals (Mcgraw Hill-International Series in the Earth and Planetary Sciences) - 1965年出版」
英語版はその後、間違いがすべて訂正され今年の夏に出版された。修正された誤記は879箇所ある。価格も1500円とお買い得なので、英語で問題ない方はこちらをお勧めする。これの翻訳版はまだ出ていない。
「Quantum Mechanics and Path Integrals: Emended Edition (Dover Books on Physics) - 2010年出版」
この英語版に対応する日本語版が2017年3月に刊行された。
発売情報:【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/300a29769f773a609ea3560e86952e60
この本の各章には理解を深めるための「問題」が出題されているのだが、解答は与えられていない。幸い日本では立正大学の米満澄先生、高野宏治先生による解答本が1994年に出版されているので、こちらも「量子力学と経路積分(みすず書房版)」と合わせてお買い求めになるとよい。この本の良いところは日本語の「マグロウヒル版」や1965年出版された英語版の記述の間違いも丁寧に訂正していることだ。
「ーファインマンを解くー 経路積分ゼミナール」
このように、僕は年末までしばらくの間この不思議な理論、ファインマンのワクワクする世界に没頭するわけだ。
参考リンク:
経路積分とは何か?(Applet同梱版)
http://homepage3.nifty.com/iromono/movingtext/pathintegral1.html
現代物理と仏教を考えるページ
~ファインマンの経路積分量子化と華厳経を中心に~
http://kishi123.server-shared.com/
(僕は仏教については一般常識以上の知識を持ち合わせていないので、物理学と仏教の関係について意見できる立場にはないが、岸さんのこのサイトはファインマンの経路積分を物理学的な側面から詳しく、きちんと解説されているので紹介させていただいた。)
<スペース・シャトル>危険の確率:ファインマンによる事故原因の究明
http://book.geocities.jp/bnwby020/kikenritu02.html
経路積分こと始め(1)
http://blogs.yahoo.co.jp/kafukanoochan/64130680.html
関連記事:
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (岩波現代文庫)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
QED: The Strange Theory of Light and Matter
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1860569fe58727fce5256356863001f9
クリスマスプレゼントの下調べ、お買い物はこちらからどうぞ!
(ギフトラッピングで自分以外への発送も可。送料無料!)
電子や光子などはビリヤード玉のように1本の軌道に沿って運動するわけではない。電子や光子のひとつひとつは複素数の波動関数であらわされる状態で空間全体に広がっていて、空間の各点での電子や光子の存在確率を求めることができるだけだ。存在確率は波動関数の絶対値の2乗で計算される。(ボルンの確率解釈)複素数の波動関数のイメージは「EMANの量子力学」のこのページの一番下のアニメーションで見ることができる。
経路積分はファインマンが大学院生だった1940年頃に発案したもので、「可能なすべての経路を積分する(足し合わせる)」という奇想天外な理論。上のような電子や光子の出発点と終着点がわかっているとき、無数の経路が考えられる。それぞれの経路を通る確率は大小の差はあったとしても必ずゼロより大きい。つまり電子や光子は考えられうる可能な経路の「すべて」を通って終着点に到達するのだ。古典力学の「最小作用の原理」で使われる「作用」という量を量子力学に適用し、可能なすべての経路について積分(加え合わせる)のが経路積分なのである。
経路積分のおかげで、イメージしにくい量子力学のいくつもの現象が直観的に理解できるようになっただけでなく、量子力学の基本概念から、シュレーデインガー方程式の表示とのつながり、具体的な事例として摂動論や、遷移、変分原理、量子電気力学の分野などを扱うことができる。現代物理学には欠くことのできない理論なのだ。
ファインマン先生ご自身による一般向けの本と物理学専攻の学生向けの教科書が出版されているので紹介しよう。それぞれの本は読後に記事にする予定だ。
まず、一般向けの本。同じ内容だが文庫本と単行本の2種類でている。後者は古書でしか入手できない状況だが、老眼の進行している人にはこちらがよいだろう。(笑)
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2017年3月に追記:
新版が刊行されたので、お買い求めになる方はこちらをどうぞ。
発売情報:【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/300a29769f773a609ea3560e86952e60
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「量子力学と経路積分(みすず書房版)」
「Quantum Mechanics and Path Integrals (Mcgraw Hill-International Series in the Earth and Planetary Sciences) - 1965年出版」
英語版はその後、間違いがすべて訂正され今年の夏に出版された。修正された誤記は879箇所ある。価格も1500円とお買い得なので、英語で問題ない方はこちらをお勧めする。これの翻訳版はまだ出ていない。
「Quantum Mechanics and Path Integrals: Emended Edition (Dover Books on Physics) - 2010年出版」
この英語版に対応する日本語版が2017年3月に刊行された。
発売情報:【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
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この本の各章には理解を深めるための「問題」が出題されているのだが、解答は与えられていない。幸い日本では立正大学の米満澄先生、高野宏治先生による解答本が1994年に出版されているので、こちらも「量子力学と経路積分(みすず書房版)」と合わせてお買い求めになるとよい。この本の良いところは日本語の「マグロウヒル版」や1965年出版された英語版の記述の間違いも丁寧に訂正していることだ。
「ーファインマンを解くー 経路積分ゼミナール」
このように、僕は年末までしばらくの間この不思議な理論、ファインマンのワクワクする世界に没頭するわけだ。
参考リンク:
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http://homepage3.nifty.com/iromono/movingtext/pathintegral1.html
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http://book.geocities.jp/bnwby020/kikenritu02.html
経路積分こと始め(1)
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光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (岩波現代文庫)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
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森藤正人「量子波のダイナミクス」
という本を持っています。
もってるだけです ^^;
始めの方の「経路積分法からシュレーディンガ方程式を導く」くらいしか
理解できていません。
熱核、ファインマン核 って何なんでしょ???
「量子波のダイナミクス」についてアマゾンで概要を見てみました。こちらもよさそうな入門書ですね。書店で見てみたいと思いました。
熱核、ファインマン核とは要するに積分核のことだと思います。「量子力学と経路積分」の本の中でも、この積分核は単に核と呼ばれたり、確率振幅、振幅、波動関数Ψと呼ばれたり呼び方が統一されていません。説明のその場その場の局面で「ふさわしい」呼び方をしているのだと思いました。以下はウィキペディアの「経路積分」の項目に表示されている画像ですが、この中の「K」のところがこの積分核です。
http://upload.wikimedia.org/math/5/a/b/5ab0429e59bd1ac4906a9746226a789a.png
このページの一番下のところです。
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/t2366/%E5%AD%98%E5%9C%A8%E8%AB%96%E7%9A%84%E3%80%81%E9%9B%BB%E7%A3%81%E6%B3%A2%E8%AB%96.htm
またウィキペディアの「波動関数」という項目を見ると、光子の波動関数は次のようになり、明らかにシュレディンガーの方程式とは異なります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%A2%E5%8B%95%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F
電磁場の量子化のストーリーの中で理解できることなのですか。ちょうどいま「量子力学と経路積分」の第9章「量子電気力学」の章に入ったところなので注意して読み進めますね。
それにしても、ファインマンの「光と物質の不思議な理論」の第1章、第2章に書かれている矢印の計算規則は「光子」についての複素数の演算になっています。このような説明、アプローチの仕方が間違いということでしょうか?明らかこの本では光子に付随する矢印を「確率振幅」として紹介し、その2乗が確率であると説明しているのです。
以下のような2つの記述を見つけました。
ランダウ=リフシッツ 理論物理学教程を学ぶ人のために
http://www1.cnc.jp/r_b_kyoutei/
相対論的量子力学トピック
【1】 光子とは何か
「極限」という言葉はときに「目指すことはできるが実現はできない」というような意味で用いられる。しかし光(電磁波)はこの世の極限速度をいとも簡単に実現している。われわれは日常の存在を考えるとき質量というものを前提することが多い。光はその前提をなくしてしまった存在である。でありながら光は視覚において実感し、熱としても認識することができる。この不思議なものの正体を知ることはすばらしい経験である。「第1章 光子」ではほんとうにそれを実現してくれる。参考になる抽象的な表現は例えばつぎのようである。
P14_下から9L_マ「マクスウェル方程式が光子に対する《シュレーディンガー方程式》の役割を果たしている.」 (具体的にはp60_下から11_電 において説明される)
P14_下から3L_光 「光子の波動関数と言うとき、光子の空間的局所化の確率振幅として考えるのではけっしてない・・・光子の座標の概念は一般に物理的な意味を持たない・・・」つまり、《r-表示》ではなく《p-表示》を用いなければならない(『量子力学1』p50_2L_関)。
けれどもこちらのPDFには光子の確率解釈が1999年に可能になったと書かれています。
この記述でのNewtonはIssac Newtonではもちろんありません。
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/3014/1/Gaiyo-4042.pdf
光子に関して,波動関数の確率解釈が可能であるかどうかは,量子力学誕生まもなく議論され始め,さまざまな視点から研究されてきた.光子に関する波動関数が定義されなかった原因は,光子の位置演算子が定義されていなかったことに起因している.
(中略)
Newtonは,1999年に,光子の位置演算子の定義に成功し,位置と運動量に関する通常の交換関係を満たすような,光子の量子力学を非常によい形式として提案した.線形な波動方程式に従う光子波動関数が規格化されることが示され,光子波動関数の確率解釈がはじめて可能になった.
いずれにせよ微妙な問題のようですね。
光=電磁波 → マックスウェルの電磁方程式
ということで、電子と光を同じ方程式で扱うことは考えられません。
これが量子論になると、両方ともシュレディンガー方程式で表されるなんて考える方がおかしいのではないかと思います。
光子の質量はゼロなので、素直にシュレディンガー方程式を適用できる訳がありません。ただシュレディンガー方程式の調和振動子モデルを使うことになります。ここら辺の事情は次の記事のコメントでも書かせていただきました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3a454b0ac8dbabdbdd07bbaadc3c0b34
その後、手持ちの教科書をいくつか調べているのですが、どうもすっきりしません。
たとえば小出昭一郎先生の「量子論」1990年の改訂第29版の「$2.3 波動関数の意味」という節、ページ番号でいうと30ページあたりからはじまる二重スリットの実験についての記述では電子と光子が全く対等に扱われ、そのまま読み進んでいくと33ページで両方とも波動関数は複素数だと説明されている状況です。
けれども同じ本の「$6.3 原子の振動とフォノン」から「$6.4 電子と電磁場」にかけてはT_NAKAさんがおっしゃるように古典物理的な描像で光子が説明されています。
光子についてシュレディンガーの波動方程式が適用できないとすると、不確定性原理は当てはまらないのだろうかとか、そもそも光子は量子ではないのかとか、いろいろ考えてしまいます。
T_NAKAさんのご説明はわかりやすいのですが、説明と矛盾している教科書やネット上の情報に惑わされている状況です。
場の理論でなく、シュレディンガー方程式に言及されていますので、、、
光子は、Eψ=(-h'2/2m+V)ψ で表すことは
当然、できませんので、
クラインゴルドン方程式でm=0の場合に当てはめれば、ちょっと ましかと思います。
(もちろん、正確には場の理論でないとダメですが)
で、仮にそうであれば、
確率は、単純にψ*ψではなく、
4元確率流密度の時間成分になります。
http://homepage2.nifty.com/eman/quantum/klein_gordon.html
以上、お邪魔しました。
どうもありがとうございます。
光子にはシュレディンガーの波動方程式は成り立っていないわけですね。
T_NAKAさんから教えていただいたように光子の波動関数が実数波だとすると、ファインマンの「光と物質のふしぎな理論」で紹介されている「光子の矢印の計算」は間違いということになってしまうのでは?と思うわけです。
あと、上記の説明の中で「波動関数の2乗」と書いてしまいましたが、正しくは「波動関数の絶対値の2乗」もしくは「波動関数とその複素共役の積」ですので訂正しておきます。
場の量子論ではφやψは量子力学でいう「波動関数」ではなく、場=演算子であることに注意してください。
(まあ、これはシュレディンガー描像とハイゼンベルグ描像で後者を採用したということです。)
さて、ポテンシャルの無い状態でのクラインゴルドン方程式で m = 0 とすれば、
http://teenaka.at.webry.info/201011/article_16.html
から分かるとおり、
□φ= 0
であり、これは古典的電磁波を表した波動方程式に他なりません。
よって、実数解も存在しますね。