久しぶりに夢を見た。僕は2年に一度くらい、筋書きの整った長い夢を見る。今朝はたまたまその機会に恵まれたわけだ。
登場人物が多くてかなり複雑で不思議な夢だったので忘れないうちに書きとめておくことにした。
夢の中の登場人物: 夢の中では個人の名前はなかったのだが、話をわかりやすくするために名前をつけておく。
僕: 僕そのものである。
鈴木さん: 産業廃棄物を扱う独立行政法人の職員。僕の知り合い。
サム(黒人):黒人タレントのボビーによく似た面白みのある外国人。日本ではアメフトの同好会に所属。後になってわかったことだが、彼は大学時代に化学を専攻していた。
ジョー(黒人):サムの友人。僕は夢の中で僕はサムを通じてジョーと知り合うことになる。
高島田刑事: 大学時代の僕の友人。温厚な性格。ある事件の犯人ではとサムやジョーのことを疑って彼らの動向を監視している。
女性占い師: 実はインチキ占い師であることが夢の途中で判明。占いを信じるサムやジョーをだます存在。夢ではサムから彼女のことを聞いただけで僕は会っていない。
発明家:特許取得を狙っている市民発明家。欲が強い。
老数学者:最近ある謎の方程式を発見した。論文によるとその方程式には3つの解が存在するそうだ。僕は夢の中で彼のことを雑誌で知っただけで直接会っていない。
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夢のあらすじ:
第一幕: 不思議なゴミ袋
ある日僕は鈴木さんという人物から彼の職場に招待された。鈴木さんは産業廃棄物を扱う独立行政法人の職員だ。僕が招かれたのは彼が勤務する建物の会議室だった。夕方ごろで誰かの歓迎会をしている最中で、部屋には15人ほどの職員が集まっていた。その会場で鈴木さんは新しく開発したゴミ袋の紹介をはじめた。今では半透明のゴミ袋に入れて家庭のゴミを出すことが定着したが、カラスが食い散らかすなどの被害がおきていたために、新しいゴミ袋の開発をしたそうなのだ。鈴木さんが取り出したのは透明の黄色のビニールの袋だった。新素材を使った袋だそうだ。(このあたりはだいぶ前にNHKの「ご近所の底力」で紹介されたカラス対策の番組が影響して僕の夢に登場したのだと思う。)
パーティがはじまって参加者がそれぞれ談話をはじめたとたんに事件がおきた。ふざけ半分で鈴木さんが黄色いゴミ袋を頭からかぶって僕に見せた。「こういう風にところどころに穴を開けておけば、こうやってかぶっても窒息しなくてもすみます。」と説明する鈴木さん。「あなたもかぶってみますか?」と彼はゴミ袋を頭から取ろうとした。ところが突然ゴミ袋のふちが飴のように溶けだし、鈴木さんの首にからまりついた。溶けた部分はまるで生き物のように鈴木さんの首をぐるぐると巻きつけながら動いている。鈴木さんは全然あわてる様子もなく袋のもう一方の端のほうで「何か」した。すると袋は何事もなかったように、ゆっくりと元の状態に戻った。
あっけにとられている僕に鈴木さんは説明した。「ゴミ袋を開発している途中で、この新素材がこのように不思議な働きを持つことを発見したのです。袋の用途はさておき、この新しい技術を何かの役に立てられないものかということを最近考えはじめたわけで、今日はこれを見せるためにあなたを招待したのですよ。」なるほど。そういうわけだったのか。僕は狐にだまされたような顔のまま、会場から去った。
第二幕: 黒人のサムとジョー
夢の中で僕にはサムという黒人の友人がいた。仲がよいというわけではなく、ときどき会ったら挨拶する程度の間柄だった。彼はレストランでボーイのバイトをしながら日本で暮らし、趣味でアメフトの同好会に所属している。日本語があまり上手に話せないため、ときどきコミュニケーションのお手伝いを僕がしているといった状況。僕自身は彼のことをいいやつだと思っているが、よく知るようになってから彼は危険な面も持ち合わせていることを知り、今では多少の警戒感を持っている。それは彼自身がオーバーステイであることと、以前国外でマリファナをやっていたということを知ったからである。日本に来てからマリファナをやっているかどうかについては完全には彼の言うことを信じることができない。僕は外国人の生活や性格をすべて知っているわけではないから。サムは信心深いと同時に、占いを完全に信じるタイプだ。特に彼がよく話しているのは駅前に店を構えている女性占い師だ。彼は毎週のように占い師の店に通い、仕事のこと、友人関係のこと、国に残した家族のことなどを占ってもらっているそうだ。
この日サムは僕にある相談をもちかけてきた。それは職場の友人のジョーのこと。ジョーは現在、ある軽犯罪を疑われて警察に留置されているという。ジョーが留置される以前、サムはジョーに女性占い師を紹介したそうだ。ジョーはもともと内気で職場でもいろいろ悩みをかかえているそうで、占い師の店を訪ねたという。ジョーは仕事を休みがちなので、サムとそう頻繁に会うわけではない。サムは彼が占い師からどういうことを言われたか気になっていたのだが、なかなか聞けずにいた。ともするうちにジョーが警察に引っ張っていかれてしまった。面会に行くことも彼には可能なのだと僕は説明したが、オーバーステイである彼は警察や移民局を極度に恐れて、そういった場所には絶対に行けないという。
そうこうするうちに日がたち、サムは自分が占ってもらうために女性占い師の店を訪れた。占い師はジョーについてとても大事なことがあるから、是非彼に伝えてほしいとサムに言った。なんでも、これから2週間のうちにジョーの生命が危険にさらされるほどの「不思議な事件」がふりかかるので、ジョーに伝えてほしいとサムに依頼したわけだ。サムは面会に行けない事情があるから僕に相談を持ちかけてきたというわけなのだ。
僕はサムを説得して、一緒に面会に行こうということになった。違法滞在の外国人を取り締まるのは移民局で、警察組織とは別であることをわかりやすく説明したらサムは納得したようだ。(でも心配そうな顔をしていたが。)
第三幕: 高島田刑事、ジョーとの面会
高島田刑事というのは僕の大学時代の友人で、夢の中では刑事をしていた。彼はとても温厚で、他人に対して面倒見がよく、非のうちどころがない人格者だ。正義感も強いがそれは前面に出ることなく、何を話すときでもやわらかな彼の口調にはついつい親近感を持ってしまう。
高島田刑事はここ半年の間に発生したいくつかの事件の犯人を追っていた。その事件というのはどうも何かの薬品を使った連続犯罪のようで、被害者の多くがやけどや擦過傷のような外傷を負い、病院に運びこまれるというものだった。幸い死者はでていない。不思議なのはその薬品が特定できていないということだ。薬品が被害者の体から消えてしまったのか、これまで知られている検査薬では判定できないのかはっきりしていない。高島田刑事はサムやジョーのことを疑っていた。ジョーについては、盗難自転車に乗っていたということを理由に警察まで連れてくることに成功し、この薬品事件についても何か知っていることはないかと遠まわしに調べているところだった。僕はその薬品が先日鈴木さんから説明してもらった新物質と何か関係があるのではないかと直感した。
ジョーとの面会について、僕は高島田刑事のコネを利用した。結局、サムと僕は高島田刑事が同席のもとにジョーと面会することができた。高島田刑事は注意深く僕らの言動を観察している。僕はサムが本当はいいやつで、犯罪なんかとは関係ないと高島田刑事に伝えたかったのではあるが、それは思いとどまった。僕はサムのすべてを知っているわけではないし、いくらかの疑念を払拭できずにいたから。また、高島田刑事は彼なりの経験と立場に基づいて行動できる大人であるのを十分知っていたから。
ジョーが面会室に連れてこられると、サムは声を出さずに口まねだけで何かを伝えようとした。会話が録音されているのを警戒しての行動だった。高島田刑事はとたんに不審の目をサムに向けた。僕はあわててサムを制止した。「伝えたいことがあったら、ちゃんと言葉で話したほうがいい。」と。サムは了解し、ジョーに何か話しはじめた。外国語だった。僕の知らない外国語だったので何を言っているのかわからなかった。言葉だけでは通じないと思ったのか、サムはメモ用紙を取り出して何かを書いてジョーに見せた。それにはアルファベットの文字がいくつかと、何か数式のようなものが書かれていた。僕はとっさに思った。サムがジョーに伝えたいことはジョーに危険が迫っているということだけではなく、何かもっと別の大事なことなのではないか。危険が迫っていることだけを伝えるのだとしたら、こんなにたくさんのことをメモに書かなくてもすむではないか。そもそも占い師から言われた「危険なこと」というのはサムがジョーに本当に伝えたかったのかどうか、ということにも疑いを持ちはじめた。何かがおかしい。「危険なこと」というのは単なる口実にすぎなかったのではないか。僕の知らない何かをサムとジョーが共有していて、それについて高島田刑事が何かを嗅ぎ取っているのではないかと直感した。また、サムは本当はスーパー・エリートなのではとも思った。普段日本語で話す言葉がたどたどしいから、間抜けな印象を持っていたのだが、彼がメモに残した数式(らしきもの)を見るかぎり、大学教育をきちんと受けたことは間違いなさそうだ。
第四幕: 街の発明家
その街には、変人で知られる発明家がいた。彼は純粋なタイプではなくその正反対。なんとか大きな特許をとって大金持ちになることばかりを夢みていた。僕はこの発明家に会っていない。噂によると彼は最近なにか特別なものを発明したそうで、その情報が外部に漏れることを恐れて他人を寄せ付けない状態になっているそうだ。僕はまたもや何か新物質に関係しているのではないか、高島田刑事が追っている連続薬品事件と関係があるのではないかと疑いを抱いた。
第五幕: 女性占い師と老数学者
サムが毎週のように訪れる占い師である。年齢ははっきり言えば「おばあさん」である。実は彼女は占いの才能とかは持ち合わせていないそうだ。それは街のもっぱらの噂である。そのように凡人な彼女が占いで生計を立てていられるのは、裏に彼女を指南する存在がいるからだ。それが近所に住む老数学者(男性)である。この数学者はこれまで偉大な業績を残したわけではなく、地道に研究を続けてきた。数年に一度学会誌に論文を発表したりする程度で数学のどの分野を研究しているのかははっきりしていない。そのようなわけで貧乏学者で、そのままでは生活に困窮することは明らかだ。実は女性占い師と老数学者は裏で通じていた。生活のために老数学者は数学トリックや暦の読み方などを女性占い師に教え、女性占い師は彼に教えてもらったとおりに実践しているに過ぎなかった。彼女はその「インチキ占い」で収入を得て、老数学者の生活の面倒をみているという状況だった。サムやジョーはこのことを知らない。(おそらく知らないと思う。)僕がどうしてそのことについて知ったかは、忘れてしまった。夢の中のことなのでご了承いただきたい。
ところがそのうだつのあがらない老数学者が、最近ある発見をしたそうなのだ。僕はそのことを定期購読している科学雑誌で知った。記事によると彼はある方程式を発見し、その方程式には3つの解が存在することを証明した。解といっても数ではなく、解自体が3つの方程式になっているそうだ。それら3つの方程式は、物質を構成する原子や電子などの運動を表し、それと同時により高次のレベルである特定の化学式を導くという。1つ目の解(方程式)からもたらされる化学式を使うと、透明なアメーバ状の物質になるらしい。2つ目の解(方程式)からは無色の揮発性の液体が作れるそうだ。3つ目の解(方程式)からは現実に存在可能な物質が生成できるかどうかは不明だそうである。
この記事を読んだとき僕はピンときた。産業廃棄物施設の鈴木さんが僕に見せたのは第1の解からもたらされる物質ではなかろうか?それは彼らの発明ではなく、誰かが老数学者の発見を盗んでそれを流用したに過ぎないのではないのだろうか?鈴木さんにも名誉欲があるから、まさか僕にそれは他人の発見であるなどとは言えまい。また、確証はないのだが高島田刑事が追っている連続薬品事件についても、それは第2の方程式からもたらされる物質ではないだろうか?それを誰かが盗んで街の発明家が液体の物質として再現したのではないか?彼は強欲だから特許を取るまで、それを秘密にしているのではなかろうか?また、サムについてもピンときた。彼が書いたメモは老数学者が発見した方程式の一部ではなかっただろうか?それを彼はジョーに伝えて、なにか計画していたのではないだろうか?
第6幕: 結論なき夢の中断
老数学者は自分の発見した方程式についてだけ知っているだけで、それが外の社会でどのような顛末をもたらしているかを知らない。高島田刑事にしても薬品事件やサムとジョーを追っている限り、老数学者の発見にたどり着くことはないだろう。発明家にしても、彼の生成した薬物が犯罪に利用されたかどうかは不明である。もしかしたら彼が犯人かもしれないし、あるいは犯人はまた別にいて彼のところから薬品を盗んだに過ぎないかもしれない。サムやジョーについては不明である。例の方程式を手に入れたのはほぼ確実であるが、それをどのように利用しようとしていたのかはわからない。僕はサムに高島田刑事にすべてを話してほしいと思っていた。そうしたら彼らの嫌疑は晴れるし、高島田刑事は彼らのことを理解できるだけの器だと思っていた。しかしサムにはすべてを話せない事情があったのだろう。また、サムたちは産業廃棄物施設の鈴木さんのことは知らないし、そこで鈴木さんが僕に見せたアメーバ状の新物質については知るよしがない。たとえ僕が夢の中の彼らにそのすべての構図を説明したとしたら、この顛末は解決するのだろうか?そもそも解決というのは何だろうか?高島田刑事にとっての解決は薬品事件の解決であり、発明家にとっては特許の取得と金儲けである。サムやジョーにとっての解決とは?かといって話の発端である老数学者にこれらのことすべてを話したところで、何がどうなるというものではない。いったい誰を信じて僕の知っていることを打ち明けて協力を依頼すればいいのだろう。夢の中で僕は途方にくれた。
夢の中で僕は考えた。僕が出会った人たちや事件のこと。彼らはそれぞれ自分の都合や欲求に基づいて、自分の知り合った人や情報の中で行動する。僕は(夢の中での)立場上、かなりのことを知ることができたが、本当にすべてを知っていたのであろうか?それぞれの人々は彼らの人間関係の中で僕の知らない事柄を知っていたはずである。サムは女占い師の店で占い以外の何かの情報を見つけたようである。老数学者の家から情報を盗んで発明家や鈴木さんに情報提供していた人物もいたはずである。(残念ながらその人物は僕の夢に登場していない。)
夢に結論を求めても仕方がないことであるが、人はみなこのような意味でかなり自己中心的である。というより自分の接する社会、人間関係、情報が限定されているのでそうならざらるを得ない。
このようにとりとめもなく複雑な思いの中、僕は夢から覚めた。
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登場人物が多くてかなり複雑で不思議な夢だったので忘れないうちに書きとめておくことにした。
夢の中の登場人物: 夢の中では個人の名前はなかったのだが、話をわかりやすくするために名前をつけておく。
僕: 僕そのものである。
鈴木さん: 産業廃棄物を扱う独立行政法人の職員。僕の知り合い。
サム(黒人):黒人タレントのボビーによく似た面白みのある外国人。日本ではアメフトの同好会に所属。後になってわかったことだが、彼は大学時代に化学を専攻していた。
ジョー(黒人):サムの友人。僕は夢の中で僕はサムを通じてジョーと知り合うことになる。
高島田刑事: 大学時代の僕の友人。温厚な性格。ある事件の犯人ではとサムやジョーのことを疑って彼らの動向を監視している。
女性占い師: 実はインチキ占い師であることが夢の途中で判明。占いを信じるサムやジョーをだます存在。夢ではサムから彼女のことを聞いただけで僕は会っていない。
発明家:特許取得を狙っている市民発明家。欲が強い。
老数学者:最近ある謎の方程式を発見した。論文によるとその方程式には3つの解が存在するそうだ。僕は夢の中で彼のことを雑誌で知っただけで直接会っていない。
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夢のあらすじ:
第一幕: 不思議なゴミ袋
ある日僕は鈴木さんという人物から彼の職場に招待された。鈴木さんは産業廃棄物を扱う独立行政法人の職員だ。僕が招かれたのは彼が勤務する建物の会議室だった。夕方ごろで誰かの歓迎会をしている最中で、部屋には15人ほどの職員が集まっていた。その会場で鈴木さんは新しく開発したゴミ袋の紹介をはじめた。今では半透明のゴミ袋に入れて家庭のゴミを出すことが定着したが、カラスが食い散らかすなどの被害がおきていたために、新しいゴミ袋の開発をしたそうなのだ。鈴木さんが取り出したのは透明の黄色のビニールの袋だった。新素材を使った袋だそうだ。(このあたりはだいぶ前にNHKの「ご近所の底力」で紹介されたカラス対策の番組が影響して僕の夢に登場したのだと思う。)
パーティがはじまって参加者がそれぞれ談話をはじめたとたんに事件がおきた。ふざけ半分で鈴木さんが黄色いゴミ袋を頭からかぶって僕に見せた。「こういう風にところどころに穴を開けておけば、こうやってかぶっても窒息しなくてもすみます。」と説明する鈴木さん。「あなたもかぶってみますか?」と彼はゴミ袋を頭から取ろうとした。ところが突然ゴミ袋のふちが飴のように溶けだし、鈴木さんの首にからまりついた。溶けた部分はまるで生き物のように鈴木さんの首をぐるぐると巻きつけながら動いている。鈴木さんは全然あわてる様子もなく袋のもう一方の端のほうで「何か」した。すると袋は何事もなかったように、ゆっくりと元の状態に戻った。
あっけにとられている僕に鈴木さんは説明した。「ゴミ袋を開発している途中で、この新素材がこのように不思議な働きを持つことを発見したのです。袋の用途はさておき、この新しい技術を何かの役に立てられないものかということを最近考えはじめたわけで、今日はこれを見せるためにあなたを招待したのですよ。」なるほど。そういうわけだったのか。僕は狐にだまされたような顔のまま、会場から去った。
第二幕: 黒人のサムとジョー
夢の中で僕にはサムという黒人の友人がいた。仲がよいというわけではなく、ときどき会ったら挨拶する程度の間柄だった。彼はレストランでボーイのバイトをしながら日本で暮らし、趣味でアメフトの同好会に所属している。日本語があまり上手に話せないため、ときどきコミュニケーションのお手伝いを僕がしているといった状況。僕自身は彼のことをいいやつだと思っているが、よく知るようになってから彼は危険な面も持ち合わせていることを知り、今では多少の警戒感を持っている。それは彼自身がオーバーステイであることと、以前国外でマリファナをやっていたということを知ったからである。日本に来てからマリファナをやっているかどうかについては完全には彼の言うことを信じることができない。僕は外国人の生活や性格をすべて知っているわけではないから。サムは信心深いと同時に、占いを完全に信じるタイプだ。特に彼がよく話しているのは駅前に店を構えている女性占い師だ。彼は毎週のように占い師の店に通い、仕事のこと、友人関係のこと、国に残した家族のことなどを占ってもらっているそうだ。
この日サムは僕にある相談をもちかけてきた。それは職場の友人のジョーのこと。ジョーは現在、ある軽犯罪を疑われて警察に留置されているという。ジョーが留置される以前、サムはジョーに女性占い師を紹介したそうだ。ジョーはもともと内気で職場でもいろいろ悩みをかかえているそうで、占い師の店を訪ねたという。ジョーは仕事を休みがちなので、サムとそう頻繁に会うわけではない。サムは彼が占い師からどういうことを言われたか気になっていたのだが、なかなか聞けずにいた。ともするうちにジョーが警察に引っ張っていかれてしまった。面会に行くことも彼には可能なのだと僕は説明したが、オーバーステイである彼は警察や移民局を極度に恐れて、そういった場所には絶対に行けないという。
そうこうするうちに日がたち、サムは自分が占ってもらうために女性占い師の店を訪れた。占い師はジョーについてとても大事なことがあるから、是非彼に伝えてほしいとサムに言った。なんでも、これから2週間のうちにジョーの生命が危険にさらされるほどの「不思議な事件」がふりかかるので、ジョーに伝えてほしいとサムに依頼したわけだ。サムは面会に行けない事情があるから僕に相談を持ちかけてきたというわけなのだ。
僕はサムを説得して、一緒に面会に行こうということになった。違法滞在の外国人を取り締まるのは移民局で、警察組織とは別であることをわかりやすく説明したらサムは納得したようだ。(でも心配そうな顔をしていたが。)
第三幕: 高島田刑事、ジョーとの面会
高島田刑事というのは僕の大学時代の友人で、夢の中では刑事をしていた。彼はとても温厚で、他人に対して面倒見がよく、非のうちどころがない人格者だ。正義感も強いがそれは前面に出ることなく、何を話すときでもやわらかな彼の口調にはついつい親近感を持ってしまう。
高島田刑事はここ半年の間に発生したいくつかの事件の犯人を追っていた。その事件というのはどうも何かの薬品を使った連続犯罪のようで、被害者の多くがやけどや擦過傷のような外傷を負い、病院に運びこまれるというものだった。幸い死者はでていない。不思議なのはその薬品が特定できていないということだ。薬品が被害者の体から消えてしまったのか、これまで知られている検査薬では判定できないのかはっきりしていない。高島田刑事はサムやジョーのことを疑っていた。ジョーについては、盗難自転車に乗っていたということを理由に警察まで連れてくることに成功し、この薬品事件についても何か知っていることはないかと遠まわしに調べているところだった。僕はその薬品が先日鈴木さんから説明してもらった新物質と何か関係があるのではないかと直感した。
ジョーとの面会について、僕は高島田刑事のコネを利用した。結局、サムと僕は高島田刑事が同席のもとにジョーと面会することができた。高島田刑事は注意深く僕らの言動を観察している。僕はサムが本当はいいやつで、犯罪なんかとは関係ないと高島田刑事に伝えたかったのではあるが、それは思いとどまった。僕はサムのすべてを知っているわけではないし、いくらかの疑念を払拭できずにいたから。また、高島田刑事は彼なりの経験と立場に基づいて行動できる大人であるのを十分知っていたから。
ジョーが面会室に連れてこられると、サムは声を出さずに口まねだけで何かを伝えようとした。会話が録音されているのを警戒しての行動だった。高島田刑事はとたんに不審の目をサムに向けた。僕はあわててサムを制止した。「伝えたいことがあったら、ちゃんと言葉で話したほうがいい。」と。サムは了解し、ジョーに何か話しはじめた。外国語だった。僕の知らない外国語だったので何を言っているのかわからなかった。言葉だけでは通じないと思ったのか、サムはメモ用紙を取り出して何かを書いてジョーに見せた。それにはアルファベットの文字がいくつかと、何か数式のようなものが書かれていた。僕はとっさに思った。サムがジョーに伝えたいことはジョーに危険が迫っているということだけではなく、何かもっと別の大事なことなのではないか。危険が迫っていることだけを伝えるのだとしたら、こんなにたくさんのことをメモに書かなくてもすむではないか。そもそも占い師から言われた「危険なこと」というのはサムがジョーに本当に伝えたかったのかどうか、ということにも疑いを持ちはじめた。何かがおかしい。「危険なこと」というのは単なる口実にすぎなかったのではないか。僕の知らない何かをサムとジョーが共有していて、それについて高島田刑事が何かを嗅ぎ取っているのではないかと直感した。また、サムは本当はスーパー・エリートなのではとも思った。普段日本語で話す言葉がたどたどしいから、間抜けな印象を持っていたのだが、彼がメモに残した数式(らしきもの)を見るかぎり、大学教育をきちんと受けたことは間違いなさそうだ。
第四幕: 街の発明家
その街には、変人で知られる発明家がいた。彼は純粋なタイプではなくその正反対。なんとか大きな特許をとって大金持ちになることばかりを夢みていた。僕はこの発明家に会っていない。噂によると彼は最近なにか特別なものを発明したそうで、その情報が外部に漏れることを恐れて他人を寄せ付けない状態になっているそうだ。僕はまたもや何か新物質に関係しているのではないか、高島田刑事が追っている連続薬品事件と関係があるのではないかと疑いを抱いた。
第五幕: 女性占い師と老数学者
サムが毎週のように訪れる占い師である。年齢ははっきり言えば「おばあさん」である。実は彼女は占いの才能とかは持ち合わせていないそうだ。それは街のもっぱらの噂である。そのように凡人な彼女が占いで生計を立てていられるのは、裏に彼女を指南する存在がいるからだ。それが近所に住む老数学者(男性)である。この数学者はこれまで偉大な業績を残したわけではなく、地道に研究を続けてきた。数年に一度学会誌に論文を発表したりする程度で数学のどの分野を研究しているのかははっきりしていない。そのようなわけで貧乏学者で、そのままでは生活に困窮することは明らかだ。実は女性占い師と老数学者は裏で通じていた。生活のために老数学者は数学トリックや暦の読み方などを女性占い師に教え、女性占い師は彼に教えてもらったとおりに実践しているに過ぎなかった。彼女はその「インチキ占い」で収入を得て、老数学者の生活の面倒をみているという状況だった。サムやジョーはこのことを知らない。(おそらく知らないと思う。)僕がどうしてそのことについて知ったかは、忘れてしまった。夢の中のことなのでご了承いただきたい。
ところがそのうだつのあがらない老数学者が、最近ある発見をしたそうなのだ。僕はそのことを定期購読している科学雑誌で知った。記事によると彼はある方程式を発見し、その方程式には3つの解が存在することを証明した。解といっても数ではなく、解自体が3つの方程式になっているそうだ。それら3つの方程式は、物質を構成する原子や電子などの運動を表し、それと同時により高次のレベルである特定の化学式を導くという。1つ目の解(方程式)からもたらされる化学式を使うと、透明なアメーバ状の物質になるらしい。2つ目の解(方程式)からは無色の揮発性の液体が作れるそうだ。3つ目の解(方程式)からは現実に存在可能な物質が生成できるかどうかは不明だそうである。
この記事を読んだとき僕はピンときた。産業廃棄物施設の鈴木さんが僕に見せたのは第1の解からもたらされる物質ではなかろうか?それは彼らの発明ではなく、誰かが老数学者の発見を盗んでそれを流用したに過ぎないのではないのだろうか?鈴木さんにも名誉欲があるから、まさか僕にそれは他人の発見であるなどとは言えまい。また、確証はないのだが高島田刑事が追っている連続薬品事件についても、それは第2の方程式からもたらされる物質ではないだろうか?それを誰かが盗んで街の発明家が液体の物質として再現したのではないか?彼は強欲だから特許を取るまで、それを秘密にしているのではなかろうか?また、サムについてもピンときた。彼が書いたメモは老数学者が発見した方程式の一部ではなかっただろうか?それを彼はジョーに伝えて、なにか計画していたのではないだろうか?
第6幕: 結論なき夢の中断
老数学者は自分の発見した方程式についてだけ知っているだけで、それが外の社会でどのような顛末をもたらしているかを知らない。高島田刑事にしても薬品事件やサムとジョーを追っている限り、老数学者の発見にたどり着くことはないだろう。発明家にしても、彼の生成した薬物が犯罪に利用されたかどうかは不明である。もしかしたら彼が犯人かもしれないし、あるいは犯人はまた別にいて彼のところから薬品を盗んだに過ぎないかもしれない。サムやジョーについては不明である。例の方程式を手に入れたのはほぼ確実であるが、それをどのように利用しようとしていたのかはわからない。僕はサムに高島田刑事にすべてを話してほしいと思っていた。そうしたら彼らの嫌疑は晴れるし、高島田刑事は彼らのことを理解できるだけの器だと思っていた。しかしサムにはすべてを話せない事情があったのだろう。また、サムたちは産業廃棄物施設の鈴木さんのことは知らないし、そこで鈴木さんが僕に見せたアメーバ状の新物質については知るよしがない。たとえ僕が夢の中の彼らにそのすべての構図を説明したとしたら、この顛末は解決するのだろうか?そもそも解決というのは何だろうか?高島田刑事にとっての解決は薬品事件の解決であり、発明家にとっては特許の取得と金儲けである。サムやジョーにとっての解決とは?かといって話の発端である老数学者にこれらのことすべてを話したところで、何がどうなるというものではない。いったい誰を信じて僕の知っていることを打ち明けて協力を依頼すればいいのだろう。夢の中で僕は途方にくれた。
夢の中で僕は考えた。僕が出会った人たちや事件のこと。彼らはそれぞれ自分の都合や欲求に基づいて、自分の知り合った人や情報の中で行動する。僕は(夢の中での)立場上、かなりのことを知ることができたが、本当にすべてを知っていたのであろうか?それぞれの人々は彼らの人間関係の中で僕の知らない事柄を知っていたはずである。サムは女占い師の店で占い以外の何かの情報を見つけたようである。老数学者の家から情報を盗んで発明家や鈴木さんに情報提供していた人物もいたはずである。(残念ながらその人物は僕の夢に登場していない。)
夢に結論を求めても仕方がないことであるが、人はみなこのような意味でかなり自己中心的である。というより自分の接する社会、人間関係、情報が限定されているのでそうならざらるを得ない。
このようにとりとめもなく複雑な思いの中、僕は夢から覚めた。
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