「数学ガール/ガロア理論:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール」の第5巻が先月末に発売された。
このシリーズの既刊4冊については昨年末、一方的に「とね日記賞」の啓蒙書賞(数学部門)を贈らせていただいている。
20歳という若さで命を落とした天才ガロアが「5次以上の方程式には一般的に解の公式は存在しない。」を証明したことを知っていても、その証明を理解している人は少ない。またこのガロア理論の基礎として彼が考えだした「群論」という数学の新しい分野も数学の世界だけにとどまらず、自然科学や社会科学のさまざまな分野で重要な役割を果たしてきた。
群論やガロア理論に挑戦してくじけてしまった人は多いことだろう。そのような人にはぜひ本書を読んでもらいたい。今度こそきっと理解できるはずだ。理数系の大学生なら最後までついてこれるはずだし、高校生にもお勧めできる。これまでの4冊は最終章で一気に難しくなり、ついていけなかった人もいると思うが、この第5巻の最後のハードルはそれほど高くない。
本書は誰でも知っている「あみだくじ」の話から始まる。群論の教科書では定番の題材である。出だしから快調で結城さんお得意の青春小説の持ち味が生かされた中学生でも楽しく進めるストーリー展開だ。
あみだくじの次は中学校で習う2次方程式の解の公式、判別式、多項式、対称式を学んでいく。このあたりは学校で習う数学の復習という感じである。
その後「角の3等分問題」あたりから面白さは倍増する。なぜこの話が方程式の話に関係してくるのだろう?という興味が湧いてくるからだ。そして「3次方程式の解の公式」を導いてしまうあたりはさすがである。「へぇ、こういう高いレベルのことまで理解できてしまうんだ。」と高校生ならばワクワクしてくることだろう。
話はさらに「図形の対称性」や「数の世界」、「方程式の世界」、「群と体」、「線型空間(ベクトル空間)」へと膨らんでいく。群や体のことがウソのように理解でき、体が拡大していくという新しい考え方は高校生にとって目新しいものだろう。本書のこのあたりは「数の世界の豊かさ」の本当の意味を実感できる箇所だ。
そして「図形の対称性」や「数の世界」、「方程式の世界」、「群と体」、「線型空間(ベクトル空間)」がそれぞれ密接なつながりをもっていることを知ったとき、数学の奥深さ、豊かさに身震いすることだろう。数学のもつ「一般化」、「抽象化」によって、これまでよりはるかに高い視点から物事をとらえ、理解できるようになる。これが高校までの数学では味わうことができない数学の醍醐味である。
本書全体の構成が素晴らしいと僕は思った。前半は基礎的なことを各章で積み上げ、後半でそれらの結びつきを示すことで、前半の内容が活きてくる。「ああ、学校で学んだあれはこういう深いことにつながるのか。」と気付かされるのだ。
第4巻までと同様、学年や数学の理解度が違う「僕」とミルカさん、テトラちゃん、ユーリちゃんを中心として話が進む。教える側、教えられる側のそれぞれの立場から読者はいろいろなレベルで同じ問題を考えることができる。優等生のミルカさん以外の4人は理解度が違うから、それぞれのレベルに応じた解説が繰り返されるのだ。
ガロア理論を学べる第10章は特に素晴らしい。途中、難解な定義や説明が何度か出てくるが心配する必要はない。テトラちゃんやユーリちゃんが読者のかわりに質問してくれるから。「とうとうついていけなくなってしまったな」と落胆している読者にその都度救いの手が差し伸べられる。
5次以上の方程式が一般的に解けない理由を理解したい方、天才ガロアが創りだした群論を理解したいという方、高校レベルの知識しかなくても大学レベルの本格的な数学を堪能してみたい方はぜひ本書をお読みいただきたい。
数学ガールの第1巻はすでに英語に翻訳され各国のアマゾンサイトで販売されている。このシリーズのように良質でユニークな数学書は引き続き翻訳され、世界に向けて発信してほしい。
あとAKB48を起用してこのシリーズを連続ドラマ化したら案外いけるんじゃないかという気もしてきた。そう思うのは僕だけだろうか?ミルカさん、テトラちゃん、ユーリちゃんのイメージに合う女の子がいるかこのページで探してみよう。TV局の方、番組制作にかかわる方がいらっしゃったらぜひ検討してほしい。
群論から生まれた「リー群論(連続群論)」や「群の表現論」は素粒子物理学の発展に欠かせないものになったことを最後に付け加えておこう。
群論ついて、本書では群の公理、群の演算、対称群、可換群、交代群、置換群、巡回群、部分群、単位群、正規部分群、剰余類、位数、群指数など基礎的な項目、ガロア理論に必要な項目を学ぶことができる。
本書を読んでもっと詳しく学びたくなった方には次の3冊をお勧めする。
群論への30講:志賀浩二著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d07e42584724f4b72433be8f2738653
群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f971ae2de623dd448868ad6ecca20051
群・環・体入門:新妻弘、木村哲三
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f58114fe89f69d8e9a306fe819a6398
『数学ガール』シリーズの内容の一部は(草稿として)著者のホームページから読むことができる。本書の正誤表もある。
『数学ガール』シリーズ:《理系にとって最強の萌え》をあなたに。
http://www.hyuki.com/girl/
また著者の結城浩さんのWikiはこちら。
http://www.hyuki.com/index.html
「数学ガール:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/フェルマーの最終定理:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/乱択アルゴリズム:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/ガロア理論:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/ポアンカレ予想:結城浩」(Kindle版)
関連記事:
数学ガール:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bb4f1447d41afcc8b46b85229296dd7a
数学ガール/フェルマーの最終定理:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4bf119bf3842421f8916c787c51216ae
数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f9b0b9264e35a680ce974fcbf17c62c0
数学ガール/乱択アルゴリズム:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/deaece69e304b94be1a8b9ad3c92617f
数学ガール/ポアンカレ予想 : 結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/769e2639898b351545e7ad8a8eba89d7
Kindle版発売:「数学ガール:結城浩」シリーズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d9037d14ed9ffcc98c7b2569fba7c39
ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be7d2e4dbc9a86966cad1356025d4525
ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfdc31385bef53baf2bf1b81c98d77f3
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「数学ガール/ガロア理論:結城浩」(Kindle版)
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あなたへ
プロローグ
第1章:あなたのあいするあみだくじ
- あやなすあみだくじ
- あふれるあみだくじ
- あたりまえのあみだくじ
- あなたのあいするあみだくじ
第2章:眠りの森の2次方程式
- 平方根
- 解の公式
- 解と係数の関係
- 対称式と体の視点
第3章:形を探る
- 正三角形という形
- 対称群という形
- 巡回群という形
第4章:あなたとくびきをともにして
- 図書室
- 巡回群
- 模試
第5章:角の3等分
- 図の世界
- 数の世界
- 三角関数の世界
- 方程式の世界
第6章:天空を支えるもの
- 次元
- 線形空間
- 線型独立
第7章:ラグランジュ・リゾルベントの秘密
- 3次方程式の解の公式
- ラグランジュ・リゾルベント
- 2次方程式の解の公式
- 5次方程式の解の公式
第8章:塔を建てる
- 音楽
- 講義
- 手紙
第9章:気持ちの形
- 対称群 S_3 の形
- 表記法の形
- 部分の形
- 対称群 S_4 の形
- 気持ちの形
第10章:ガロア理論
- ガロア・フェスティバル
- 定義(可約と既約、置換群)
- 補題1~4(既約多項式の性質、根で作るV、Vで根を表す、Vの共役)
- 定理1~4(方程式のガロア群の定義、方程式のガロア群の縮小、補助方程式のすべての根を添加、縮小したガロア群の性質)
- 定理5(方程式が代数的に解ける必要十分条件)
- 二つの塔
- 夏の終わり
エピローグ
あとがき
参考文献と読書案内
索引
「数学ガール」の第5巻が先月末に発売された。
このシリーズの既刊4冊については昨年末、一方的に「とね日記賞」の啓蒙書賞(数学部門)を贈らせていただいている。
20歳という若さで命を落とした天才ガロアが「5次以上の方程式には一般的に解の公式は存在しない。」を証明したことを知っていても、その証明を理解している人は少ない。またこのガロア理論の基礎として彼が考えだした「群論」という数学の新しい分野も数学の世界だけにとどまらず、自然科学や社会科学のさまざまな分野で重要な役割を果たしてきた。
群論やガロア理論に挑戦してくじけてしまった人は多いことだろう。そのような人にはぜひ本書を読んでもらいたい。今度こそきっと理解できるはずだ。理数系の大学生なら最後までついてこれるはずだし、高校生にもお勧めできる。これまでの4冊は最終章で一気に難しくなり、ついていけなかった人もいると思うが、この第5巻の最後のハードルはそれほど高くない。
本書は誰でも知っている「あみだくじ」の話から始まる。群論の教科書では定番の題材である。出だしから快調で結城さんお得意の青春小説の持ち味が生かされた中学生でも楽しく進めるストーリー展開だ。
あみだくじの次は中学校で習う2次方程式の解の公式、判別式、多項式、対称式を学んでいく。このあたりは学校で習う数学の復習という感じである。
その後「角の3等分問題」あたりから面白さは倍増する。なぜこの話が方程式の話に関係してくるのだろう?という興味が湧いてくるからだ。そして「3次方程式の解の公式」を導いてしまうあたりはさすがである。「へぇ、こういう高いレベルのことまで理解できてしまうんだ。」と高校生ならばワクワクしてくることだろう。
話はさらに「図形の対称性」や「数の世界」、「方程式の世界」、「群と体」、「線型空間(ベクトル空間)」へと膨らんでいく。群や体のことがウソのように理解でき、体が拡大していくという新しい考え方は高校生にとって目新しいものだろう。本書のこのあたりは「数の世界の豊かさ」の本当の意味を実感できる箇所だ。
そして「図形の対称性」や「数の世界」、「方程式の世界」、「群と体」、「線型空間(ベクトル空間)」がそれぞれ密接なつながりをもっていることを知ったとき、数学の奥深さ、豊かさに身震いすることだろう。数学のもつ「一般化」、「抽象化」によって、これまでよりはるかに高い視点から物事をとらえ、理解できるようになる。これが高校までの数学では味わうことができない数学の醍醐味である。
本書全体の構成が素晴らしいと僕は思った。前半は基礎的なことを各章で積み上げ、後半でそれらの結びつきを示すことで、前半の内容が活きてくる。「ああ、学校で学んだあれはこういう深いことにつながるのか。」と気付かされるのだ。
第4巻までと同様、学年や数学の理解度が違う「僕」とミルカさん、テトラちゃん、ユーリちゃんを中心として話が進む。教える側、教えられる側のそれぞれの立場から読者はいろいろなレベルで同じ問題を考えることができる。優等生のミルカさん以外の4人は理解度が違うから、それぞれのレベルに応じた解説が繰り返されるのだ。
ガロア理論を学べる第10章は特に素晴らしい。途中、難解な定義や説明が何度か出てくるが心配する必要はない。テトラちゃんやユーリちゃんが読者のかわりに質問してくれるから。「とうとうついていけなくなってしまったな」と落胆している読者にその都度救いの手が差し伸べられる。
5次以上の方程式が一般的に解けない理由を理解したい方、天才ガロアが創りだした群論を理解したいという方、高校レベルの知識しかなくても大学レベルの本格的な数学を堪能してみたい方はぜひ本書をお読みいただきたい。
数学ガールの第1巻はすでに英語に翻訳され各国のアマゾンサイトで販売されている。このシリーズのように良質でユニークな数学書は引き続き翻訳され、世界に向けて発信してほしい。
あとAKB48を起用してこのシリーズを連続ドラマ化したら案外いけるんじゃないかという気もしてきた。そう思うのは僕だけだろうか?ミルカさん、テトラちゃん、ユーリちゃんのイメージに合う女の子がいるかこのページで探してみよう。TV局の方、番組制作にかかわる方がいらっしゃったらぜひ検討してほしい。
群論から生まれた「リー群論(連続群論)」や「群の表現論」は素粒子物理学の発展に欠かせないものになったことを最後に付け加えておこう。
群論ついて、本書では群の公理、群の演算、対称群、可換群、交代群、置換群、巡回群、部分群、単位群、正規部分群、剰余類、位数、群指数など基礎的な項目、ガロア理論に必要な項目を学ぶことができる。
本書を読んでもっと詳しく学びたくなった方には次の3冊をお勧めする。
群論への30講:志賀浩二著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d07e42584724f4b72433be8f2738653
群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f971ae2de623dd448868ad6ecca20051
群・環・体入門:新妻弘、木村哲三
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f58114fe89f69d8e9a306fe819a6398
『数学ガール』シリーズの内容の一部は(草稿として)著者のホームページから読むことができる。本書の正誤表もある。
『数学ガール』シリーズ:《理系にとって最強の萌え》をあなたに。
http://www.hyuki.com/girl/
また著者の結城浩さんのWikiはこちら。
http://www.hyuki.com/index.html
「数学ガール:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/フェルマーの最終定理:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/乱択アルゴリズム:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/ガロア理論:結城浩」(Kindle版)
「数学ガール/ポアンカレ予想:結城浩」(Kindle版)
関連記事:
数学ガール:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bb4f1447d41afcc8b46b85229296dd7a
数学ガール/フェルマーの最終定理:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4bf119bf3842421f8916c787c51216ae
数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f9b0b9264e35a680ce974fcbf17c62c0
数学ガール/乱択アルゴリズム:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/deaece69e304b94be1a8b9ad3c92617f
数学ガール/ポアンカレ予想 : 結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/769e2639898b351545e7ad8a8eba89d7
Kindle版発売:「数学ガール:結城浩」シリーズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d9037d14ed9ffcc98c7b2569fba7c39
ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be7d2e4dbc9a86966cad1356025d4525
ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfdc31385bef53baf2bf1b81c98d77f3
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「数学ガール/ガロア理論:結城浩」(Kindle版)
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あなたへ
プロローグ
第1章:あなたのあいするあみだくじ
- あやなすあみだくじ
- あふれるあみだくじ
- あたりまえのあみだくじ
- あなたのあいするあみだくじ
第2章:眠りの森の2次方程式
- 平方根
- 解の公式
- 解と係数の関係
- 対称式と体の視点
第3章:形を探る
- 正三角形という形
- 対称群という形
- 巡回群という形
第4章:あなたとくびきをともにして
- 図書室
- 巡回群
- 模試
第5章:角の3等分
- 図の世界
- 数の世界
- 三角関数の世界
- 方程式の世界
第6章:天空を支えるもの
- 次元
- 線形空間
- 線型独立
第7章:ラグランジュ・リゾルベントの秘密
- 3次方程式の解の公式
- ラグランジュ・リゾルベント
- 2次方程式の解の公式
- 5次方程式の解の公式
第8章:塔を建てる
- 音楽
- 講義
- 手紙
第9章:気持ちの形
- 対称群 S_3 の形
- 表記法の形
- 部分の形
- 対称群 S_4 の形
- 気持ちの形
第10章:ガロア理論
- ガロア・フェスティバル
- 定義(可約と既約、置換群)
- 補題1~4(既約多項式の性質、根で作るV、Vで根を表す、Vの共役)
- 定理1~4(方程式のガロア群の定義、方程式のガロア群の縮小、補助方程式のすべての根を添加、縮小したガロア群の性質)
- 定理5(方程式が代数的に解ける必要十分条件)
- 二つの塔
- 夏の終わり
エピローグ
あとがき
参考文献と読書案内
索引