「オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
内容紹介:
2006年ピュリッツァー賞受賞作
「原爆の父」と呼ばれた一人の天才物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を丹念に描くことで、人類にとって国家とは、科学とは、平和とは何かを問う。全米で絶賛された傑作評伝が、待望の文庫化。
核兵器の規制と情報公開に向けて物理学者たちを率いた晩年と、マッカーシズム時代の「オッペンハイマー事件」の真相(下巻「贖罪」)。
「私の手は血で汚れている」――戦後、オッペンハイマーはタイム誌の表紙を飾るなど時代の寵児となるも、水爆開発や核拡散に反対。格の国際管理を訴えるが、かつての研究仲間や政府と対立し孤立を深めていく。そして冷戦下、ソ連のスパイ容疑をかけられた彼は公職追放され、その生活をFBIの監視下に置かれた。人類に原子力という新しい火をもたらした科学者の全てを圧倒的筆力で描き切った名著、終幕。
2024年1月22日刊行、448ページ
著者について:
■著者略歴 カイ・バード/Kai Bird
1951年生まれ。歴史家・ジャーナリスト。スミソニアン航空宇宙博物館での原爆展中止の是非を問う『ヒロシマの影』の編著者。他の著作に、CIA史に残る重要な工作員の生涯を描いた The Good Spy: The Life and Death of Robert Ames や、カーター大統領の画期的な伝記 The Outlier: The Unfinished Presidency of Jimmy Carter など。ニューヨーク州立大学レオン・レヴィ伝記センター事務局長。アメリカ歴史家協会会員。
マーティン・J・シャーウィン/Martin J. Sherwin
1937年生まれ。タフツ大学(マサチューセッツ州)歴史学教授など歴任。広島・長崎への原爆投下に至る米国核政策をテーマにした『破滅への道程』で米歴史本賞受賞。他の著作に『キューバ・ミサイル危機』など。2021年没。
理数系書籍のレビュー記事は本書で492冊目
本書の上巻を読み始めたのは5月である。大著には違いないが読み終えるまでとても時間がかかった。これには理由がある。今年は3月から親の介護をしなければならなくなったからだ。そのため自分のために使える時間はほとんどなくなったからだ。週末はわずかばかりの趣味のための時間をとるように努めていたが、平日は本業の仕事と介護のために体力を使い果たし、本を広げてもうたた寝してしまうことが多かった。
ようやく読み終えることができた。本を読んでいる間に映画が公開され、そして下巻を読んでいる間にネットで配信されるようになった。U-NEXT、YouTube、Amazonプライム・ビデオ、TELASA、Hulu、GooglePlayムービー、Apple TVで視聴することができる。このうち追加料金なしで見れるのはU-NEXTだけだ。
オッペンハイマーが亡くなったのは1967年で、本書の原書に書かれているところでは1960年に1度だけ来日したが、被爆地広島を訪問することはなかった。原書が刊行された後、今年の6月に彼が被爆者と直接会って謝罪していたということがわかり、報道された。それは1964年のことであり、涙を流して何度も謝罪したという。
本書を読む前に「謝罪をすることはなかった」というこれまでの定説を信じていたので、複雑な気持ちがしていたのだが、人生の最期に心の内を、後悔の念を吐き出すことができたのは、彼にとってとても大切なことだったと思う。
文庫化されたこの日本語版は英語版原書にはない特典が2つある。1つは「訳者あとがき」で、本書の意味合いが述べられ、長編ゆえに読み落としてしまった箇所、記憶が薄れてしまった箇所などを整理できることだ。2つめは「解説/入江哲朗」で、ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』が(ネタばれ無しで)解説されていることだ。
ノーラン監督のこれまでの作品と同様、この映画はとても複雑で1回見ただけで理解できる人はほとんどいない。数回見たとしても、難しいことに変わりはない。それを補う意味で本書は予習、復習のため読むとよいのだ。オッペンハイマー自身が、そして彼の人生自体がとても複雑だから、本と映画の両方を体験することで本当の彼に近づくことができるのだと僕は思う。
読むのはとても骨が折れるが、ぜひ書店で手に取ってほしい。
日本語版は3冊に分かれているが、英語の原書は1冊の本として刊行されている。
「オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)(紹介記事)
「オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)(紹介記事)
「オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
翻訳のもとになった英語版はこちらである。
「American Prometheus: The Inspiration for the Major Motion Picture OPPENHEIMER: Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版)
映画『オッペンハイマー』の公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/
オッペンハイマー(Prime Video)
映画の英語版の脚本は、書籍として刊行されている。
「Oppenheimer: Christopher Nolan, Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版)
本書の原作の日本語版が刊行される前に、ちくま学芸文庫からこの本が刊行されていた。合わせてお読みになるとよいだろう。
「ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者:藤永茂」(Kindle版)
関連記事:
オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3403afb70d590b867ac638abccbd10ff
オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9e9e4429c5a3c7eaed1572f19aa44dfb
原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0d741fd4e77316eaf05aef8daf865cd6
核兵器: 多田将
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fe84c7cd15d1b8ff7ed14de1fa356504
部分と全体: W.K. ハイゼンベルク
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6e7d8da99e4b9e76f5cd9f7dbf7f959
番組告知: 映画「ひろしま(1953)」
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13384a02216be844ab1681e8a4d1d92a
合本版 はだしのゲン①~⑦ (中公文庫コミック版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75d56406860e23915579530c53bdba59
「オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
第Ⅳ部(承前)
第28章:なぜ自分がそれをやったか、理解できなかった
第29章:彼女がものを投げつけたのは、そのためだ
第30章:彼は決して自分の意見を口にしなかった
第31章:オッピーの暗い噂
第32章:ジャングルの野獣 第Ⅴ部
第33章:これはかなり難物ですよね
第34章:残念ながらこのこと全部が、愚かな芝居だったと思います
第35章:ヒステリーの徴候
第36章:わが国旗についた汚点
第37章:いまだに生温かい血が手についている感じ
第38章:そこはまさに、ネバー・ネバー・ランドでした
第39章:それはトリニティの翌日にやるべきことだった
エピローグ
ロバートは一人だけ
訳者あとがき
解説/入江哲朗
口絵・本文写真クレジット
内容紹介:
2006年ピュリッツァー賞受賞作
「原爆の父」と呼ばれた一人の天才物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を丹念に描くことで、人類にとって国家とは、科学とは、平和とは何かを問う。全米で絶賛された傑作評伝が、待望の文庫化。
核兵器の規制と情報公開に向けて物理学者たちを率いた晩年と、マッカーシズム時代の「オッペンハイマー事件」の真相(下巻「贖罪」)。
「私の手は血で汚れている」――戦後、オッペンハイマーはタイム誌の表紙を飾るなど時代の寵児となるも、水爆開発や核拡散に反対。格の国際管理を訴えるが、かつての研究仲間や政府と対立し孤立を深めていく。そして冷戦下、ソ連のスパイ容疑をかけられた彼は公職追放され、その生活をFBIの監視下に置かれた。人類に原子力という新しい火をもたらした科学者の全てを圧倒的筆力で描き切った名著、終幕。
2024年1月22日刊行、448ページ
著者について:
■著者略歴 カイ・バード/Kai Bird
1951年生まれ。歴史家・ジャーナリスト。スミソニアン航空宇宙博物館での原爆展中止の是非を問う『ヒロシマの影』の編著者。他の著作に、CIA史に残る重要な工作員の生涯を描いた The Good Spy: The Life and Death of Robert Ames や、カーター大統領の画期的な伝記 The Outlier: The Unfinished Presidency of Jimmy Carter など。ニューヨーク州立大学レオン・レヴィ伝記センター事務局長。アメリカ歴史家協会会員。
マーティン・J・シャーウィン/Martin J. Sherwin
1937年生まれ。タフツ大学(マサチューセッツ州)歴史学教授など歴任。広島・長崎への原爆投下に至る米国核政策をテーマにした『破滅への道程』で米歴史本賞受賞。他の著作に『キューバ・ミサイル危機』など。2021年没。
理数系書籍のレビュー記事は本書で492冊目
本書の上巻を読み始めたのは5月である。大著には違いないが読み終えるまでとても時間がかかった。これには理由がある。今年は3月から親の介護をしなければならなくなったからだ。そのため自分のために使える時間はほとんどなくなったからだ。週末はわずかばかりの趣味のための時間をとるように努めていたが、平日は本業の仕事と介護のために体力を使い果たし、本を広げてもうたた寝してしまうことが多かった。
ようやく読み終えることができた。本を読んでいる間に映画が公開され、そして下巻を読んでいる間にネットで配信されるようになった。U-NEXT、YouTube、Amazonプライム・ビデオ、TELASA、Hulu、GooglePlayムービー、Apple TVで視聴することができる。このうち追加料金なしで見れるのはU-NEXTだけだ。
オッペンハイマーが亡くなったのは1967年で、本書の原書に書かれているところでは1960年に1度だけ来日したが、被爆地広島を訪問することはなかった。原書が刊行された後、今年の6月に彼が被爆者と直接会って謝罪していたということがわかり、報道された。それは1964年のことであり、涙を流して何度も謝罪したという。
本書を読む前に「謝罪をすることはなかった」というこれまでの定説を信じていたので、複雑な気持ちがしていたのだが、人生の最期に心の内を、後悔の念を吐き出すことができたのは、彼にとってとても大切なことだったと思う。
文庫化されたこの日本語版は英語版原書にはない特典が2つある。1つは「訳者あとがき」で、本書の意味合いが述べられ、長編ゆえに読み落としてしまった箇所、記憶が薄れてしまった箇所などを整理できることだ。2つめは「解説/入江哲朗」で、ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』が(ネタばれ無しで)解説されていることだ。
ノーラン監督のこれまでの作品と同様、この映画はとても複雑で1回見ただけで理解できる人はほとんどいない。数回見たとしても、難しいことに変わりはない。それを補う意味で本書は予習、復習のため読むとよいのだ。オッペンハイマー自身が、そして彼の人生自体がとても複雑だから、本と映画の両方を体験することで本当の彼に近づくことができるのだと僕は思う。
読むのはとても骨が折れるが、ぜひ書店で手に取ってほしい。
日本語版は3冊に分かれているが、英語の原書は1冊の本として刊行されている。
「オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)(紹介記事)
「オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)(紹介記事)
「オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
翻訳のもとになった英語版はこちらである。
「American Prometheus: The Inspiration for the Major Motion Picture OPPENHEIMER: Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版)
映画『オッペンハイマー』の公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/
オッペンハイマー(Prime Video)
映画の英語版の脚本は、書籍として刊行されている。
「Oppenheimer: Christopher Nolan, Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版)
本書の原作の日本語版が刊行される前に、ちくま学芸文庫からこの本が刊行されていた。合わせてお読みになるとよいだろう。
「ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者:藤永茂」(Kindle版)
関連記事:
オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3403afb70d590b867ac638abccbd10ff
オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9e9e4429c5a3c7eaed1572f19aa44dfb
原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0d741fd4e77316eaf05aef8daf865cd6
核兵器: 多田将
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fe84c7cd15d1b8ff7ed14de1fa356504
部分と全体: W.K. ハイゼンベルク
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6e7d8da99e4b9e76f5cd9f7dbf7f959
番組告知: 映画「ひろしま(1953)」
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13384a02216be844ab1681e8a4d1d92a
合本版 はだしのゲン①~⑦ (中公文庫コミック版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75d56406860e23915579530c53bdba59
「オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
第Ⅳ部(承前)
第28章:なぜ自分がそれをやったか、理解できなかった
第29章:彼女がものを投げつけたのは、そのためだ
第30章:彼は決して自分の意見を口にしなかった
第31章:オッピーの暗い噂
第32章:ジャングルの野獣 第Ⅴ部
第33章:これはかなり難物ですよね
第34章:残念ながらこのこと全部が、愚かな芝居だったと思います
第35章:ヒステリーの徴候
第36章:わが国旗についた汚点
第37章:いまだに生温かい血が手についている感じ
第38章:そこはまさに、ネバー・ネバー・ランドでした
第39章:それはトリニティの翌日にやるべきことだった
エピローグ
ロバートは一人だけ
訳者あとがき
解説/入江哲朗
口絵・本文写真クレジット