ノーベル平和賞授賞式(日本被団協):拡大
毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で15回目。
ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもないことに気がついたのは物理学を学び始め、このブログを書き始めた頃だった。なんだか悔しいと思ったのである。しばらくもやもやと考えていたところ、あることを思いついた。それはどうせもらえないのなら自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という逆転の発想だった。
「とね日記賞」はその年に読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞も設けている。
名著であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても読んでいなければ対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。
メダルも賞金も授賞式もスピーチも晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観だらけのアンフェアな賞だ。
次の賞を発表している。今年は講談社ブルーバックスの本を読んでいないので授賞対象外。
- 物理学賞
物理学の教科書、専門書から選考。
- 数学賞
数学の教科書、専門書から選考。
- 教養書賞
一般向け書籍から分野別に選考。
- ブルーバックス賞
講談社ブルーバックスの書籍から分野別に選考。
- 文学賞
ジャンルを問わない小説、文学書から選考。
- アカデミー賞
今年観た映画の中からよかったものを選考。
- テレビドラマ賞
テレビドラマの中からよかったものを選考。
- クリスマス賞
クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。
この1年で読んだのは7冊で、次のような本である。通算489冊~495冊目。ここ3年、本業の仕事が忙しくなったのと、今年から親の介護をするようになったため、以前のように年間30~50冊の本を読むことはできなくなっていた。(参考:「400冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)
489/科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット
490/群の発見:原田耕一郎
491/モンスター 群のひろがり:原田耕一郎
492/オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
493/オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
494/オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
495/学習物理学入門:橋本幸士
今年のマイブームは「オッペンハイマー」だった。伝記本が大著だったので読むのに時間がとられたこと、そしてすでに映画館での公開が終わった映画がサブスクで見れるようになったため、一般大衆のオッペンハイマーの知名度は格段に上がった。そして僕は彼の伝記本や映画で科学者の社会的責任と政治に翻弄されてしまう人間の弱さを痛切に感じることになった。
それでは2024年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)
* 物理学賞
今年は次の本に授賞することにした。
「学習物理学入門:橋本幸士」(Kindle版)
授賞理由: 自然科学の研究にAIが利用され始めてから数年たつが、今年はノーベル物理学賞、化学賞ともにAIに関連する授賞になった。AIを利用する研究者はまだ一部ではあるとはいえ、人間の頭脳だけでは到達できない領域を開拓しつつあることは確かである。また化学賞の受賞者のうち2名がGoogle DeepMind社の研究者であることからわかるように、自然科学の研究がそのまま商用利用されるケースが増えてくる。タンパク質など生命の根源にかかわる物質の研究、開発、創薬など一歩間違えばとてつもない人災をひきおこしかねない危険をはらんでいると同時に、これまで治すことができなかった病気の治療に新しい可能性をもたらすことにもなる。天使のツールになるのか悪魔のツールになるのか。。。このAI技術を使って研究する方々は、研究という狭い領域だけでなく広く社会や生命についての配慮もしていくべきだと思った。とはいえ僕の関心事は物理学である。最新の物理学の研究にAIがどのように活用されているかを知るために本書を読ませていただいた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
学習物理学入門:橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8f50fe9d677cb253e0915a9b74a535d0
* 数学賞
「群の発見:原田耕一郎」(オンデマンド版)
「モンスター 群のひろがり:原田耕一郎」(オンデマンド版)(正誤表)
授賞理由: この2冊はかねがね読みたいと思っていて、それには2つ理由があった。大学時代のゼミで群論を学んでいたが、未消化に終わっていて敗者復活したかったことが1つめの理由だ。特にコロナ禍で延期になっていた担当教官(江川嘉美先生)の定年退官最終講義に参加し、この本の著者が担当教官の恩師であると知り不思議な縁を感じることになった。そして2つめの理由は本書(特に2冊目のモンスター)が絶版で、とても手が出せない高値で取り引きされていたからだ。高嶺の花ならず、高値の花である。余計に読みたくなるものだ。幸い2冊ともオンデマンド版が発売されたことにより絶版書の取引価格が大きく下がった。買い時だったのだ!この本の最後に到達するモンスター群。26種類しかない散在型有限単純群と呼ばれる怪物たちの中のラスボスがモンスター群だ。素数のように無限にあるのではなく、この巨大な数で打ち止めになっていることに、とても不思議な魅力を感じていた。この本を読んだからと言って理解できるようになれるとは思っていなかったが、それでも手を出してしまったというのが本当のところである。大まかなイメージで理解したい方は、次の動画をご覧になるとよい。
【実話】宇宙を支配するモンスターを発見した数学者、ジョン・コンウェイ
群論 と 19万6883次元のモンスター
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
群の発見:原田耕一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/74c7c45a2a1badf514e48a5b9d4ef5bd
モンスター 群のひろがり:原田耕一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/657602728d73b7ff977de52bc2cb2216
* 教養書賞
今年は次の本に授賞することにした。
「科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット」(Kindle版)
授賞理由: これまで一般向けに書かれている科学史の本のほとんどがヨーロッパ中心のものだった。そしてイスラム諸国、インド、中国、日本などにおける発見や研究はせいぜい近代までの成果に限られ一般向けの本はほとんど書かれていない。科学史の大きな幹がヨーロッパで育ったのは確かに事実である。けれども科学史の大木がそれだけで成り立ちうるのだろうか。本書はその視点、つまりグローバルな視点で科学史をとらえなおし、ヨーロッパ以外の地域にどのように伝えられ、研究、発展していったか、そしてさらにそれがヨーロッパの科学にどのように影響を与えていたかということを詳細に解説した本である。さらに興味深く読めたのは科学の研究をもたらした「動機」が書かれていることだ。真理を知りたいと願う人の気持ちが科学を進めてきたのはごく一部で、その大半は国家的な利益、覇権主義だったことが書かれている。つまり天文学は国家を治めるための占星術のため、新大陸を目指しての航海は植民地を得るため、博物学はその植民地の動物、植物を知り、新たな食糧や薬などを得るためだったことを知る。「科学は真理の探究のため」という美しい理念は、いったいどこへやら。。。しかし、幻滅することはない。そのような理念をもち生涯を研究にささげてきた科学者がほとんどであり、ひとりの人間としての哲学や理念を損なうものではないのだから。新しい視点で科学史をとらえなおすという目から鱗の本である。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e91c7bc50027382f95c90f0a520ff5c5
* ブルーバックス賞
該当なし。理由:読んでいないから。
* 文学賞
今年は次の本に授賞することにした。
「日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子」(Kindle版)
授賞理由: 1985年8月12日におきた日航123便墜落のニュースに当時大学生だった僕も愕然とした。そして事故原因が機体を製造したボーイング社による機体後部圧力隔壁の修理ミスということで決着していたはずだった。それが事故ではなく「とんでもない事件」だったというのだ。にわかに信じられない。SNS上には陰謀論やフェイクニュースがたくさんある。これもそのうちのひとつだと思っていた。それでも何か心にひっかかるものがあり、本書を読んでみたのだ。著者は日本航空の元CAである。地道な調査や聞き取りをすすめてこれまでに何冊もの本をお書きになっている。本書はそのうちの1冊だ。本書とネット上の情報を参考に読むことで「事故ではなかった」ということが僕にも確信できた。来年は「日航機墜落事件」から40年である。この事件の真相はいまだ明かされていない。ご遺族の「真実を知りたい」というお気持ちを思うとき、一刻もはやく日本航空と防衛省、日本政府には真実を裁判で明らかにしてほしいと思う。この事件については、森永卓郎氏も著書「書いてはいけない――日本経済墜落の真相」(Kindle版)の中でお書きになっている。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/20e3b3bfc1485b38973cf4910bdbcc57
* アカデミー賞
今年3月、映画『オッペンハイマー(公式HP)』がようやく日本でも劇場公開され、秋にはサブスクから配信されるようになった。時間がとれず映画館で観ることは叶わなかったが、配信が始まってすぐ観た。今年はNHKでも総合G、BSで何本かの番組が放送され、映画の原作になった伝記本も文庫版が刊行された。
「オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
「オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
「オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)
このほか、オッペンハイマーが亡くなる3年前の1964年に被爆者などが証言を行うためにアメリカを訪問した際、被爆者に涙ながらの謝罪をした記録が見つかったり、彼のお孫さんが来日して核兵器廃絶を訴えたたのも今年の6月である。(紹介記事)そして10月にはノーベル平和賞が「日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会」に授与されることが決まった。第三次世界大戦(核戦争)の危機が増している中、今年は否が応でも核兵器を意識せざるを得ない年となった。
ということでアカデミー賞は、この作品に授賞することにした。
映画『オッペンハイマー』の公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/
【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー:YouTubeで再生
* テレビドラマ賞
昨年に続きドラマを楽しむ時間がほとんどとれなかったため、今年は各クールで面白そうなものを限定して視聴することになった。近年、テレビドラマの質は際立って低下している。新ドラマが発表されるたび予告編やオフィシャルサイトでチェックしているが、タイトルだけ見て箸にも棒にもひっかからないものが半分、予告編を見て「こりゃダメだ」と思うものが4分の1、そして消去法で残ったドラマを面白そうな順に並べてとりあえず第1話を見ていた。今年特に面白く、最終話まで見たのは「不適切にもほどがある!(TBS公式サイト)」と「新宿野戦病院(フジテレビ公式サイト)」だった。どちらも脚本は宮藤官九郎さんである。
ことしのテレビドラマ賞は、このどちらかで決まりかなと思っていたところ現在放送中の10月クールで、ものすごいドラマが始まった。出演している俳優名を見るだけで制作陣の本気度がわかる。長崎県の通称「軍艦島」とよばれる現在は廃墟となった無人の人工島を舞台にした壮大なドラマだ。この島の正式名は「端島(はしま)」である。1974年に廃坑されるまで、ここは炭鉱町として数千人の住民が住む人口密度世界一の島だった。当時最先端だった鉄筋コンクリートの高層住宅で生活していた人々。1955年当時の島の様子を再現し、この島で生活し思い出をいまでも大切にしている高齢の女性社長(宮本信子)が2018年の現代から1955年に経験したこの島での生活にタイムスリップする。2018年と1955年を行き交いながら物語は進む。女性社長がこの島で愛していた若者がいたのだが、2018年の新宿歌舞伎町にその若者と瓜二つの男がいた。ホストをしているこの男が歌舞伎町の路上でこの女性から話しかけられるというシーンからこの壮大な物語は始まる。先の展開がまったく読めないドラマ。最終話まで楽めるのはすでに約束されているようだ。
ということでテレビドラマ賞は、この作品に授賞することにした。
『海に眠るダイヤモンド』TBS公式サイト
https://www.tbs.co.jp/umininemuru_diamond_tbs/
『海に眠るダイヤモンド』第1話 「地底の闇を切りひらく」 10分で分かる! SPダイジェスト【TBS】
『海に眠るダイヤモンド』まだ間に合う! 第1〜5話 40分SPダイジェスト【TBS】
『#海に眠るダイヤモンド』神木隆之介×斎藤工 端島のミニチュア模型でドラマの魅力を深掘り!【TBS】
『#海に眠るダイヤモンド』注目のあのシーンを神木隆之介×斎藤工が徹底解説!!【TBS】
* クリスマス賞
クリスマスに贈るのによさそうな本に授賞するのがクリスマス賞だ。今年は先月92歳でお亡くなりになった詩人の谷川俊太郎さんが翻訳したこの本に授賞することにした。英語原書とともに紹介しておこう。原書は『ピーナッツ』(スヌーピーシリーズ)の原作者、チャールズ・M・シュルツさんである。日本語版は今年の12月2日に発売されたばかりだ。
「クリスマスはいっしょの時間: スヌーピーえほん」
「Christmas Is Together-Time (Peanuts®)」
最後になりますが、本日受賞される先生方、被団協の代表の方、ノーベル賞受賞おめでとうございます!
物理学賞と化学賞の記念講演および平和賞授賞に驚く「日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会」の代表の様子は以下の動画で見ることができる。英語が苦手な方は機械翻訳機能を使って字幕を日本語表示させてご覧いただきたい。
2024 Nobel Prize lectures in physics:
2024 Nobel Prize lectures in chemistry:
Nobel peace prize: Nuclear disarmament group honoured with 2024 prize:
2024年 ノーベル物理学賞はホップフィールド博士、ヒントン博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2e34676bf6a10cfc581d43cd791afb21
2024年 ノーベル化学賞はベイカー博士、ハサビス博士、ジャンパー博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58861d38593ccdebcbad6270f1cbe037
ノーベル平和賞を受賞する日本被団協についてNHKのクローズアップ現代で、このような番組が放送された。12月16日までNHKプラスで視聴できる。(画像をクリックするとこの番組が開く)
配信期限 :12/16(月) 午前0:52 まで
およそ70年被爆の実相を伝え、核兵器廃絶を世界に訴える活動を続けてきた日本被団協。核兵器は二度と使用すべきでないという「核のタブー」を形づくる上で被爆者の証言が重要な役割を果たしているとされた。ロシアが核兵器を使用する可能性を示唆するなど核抑止力への依存を強めようとする動きも出る中での受賞の意義とは?そして被爆した人の平均年齢は86歳近く。次の世代へと引き継いでいくための各地の模索に迫る。
2024年ノーベル賞授賞式、セレモニーの様子はここからご覧いただける。
2024 Nobel Prize award ceremony:
2024 Nobel Peace Prize award ceremony:
「核と人類、共存させてはならない」 被団協・田中熙巳さん演説全文
https://www.nobelprize.org/uploads/2024/12/nihon-hidankyo-lecture-japanese.pdf
Hibakusha gives Nobel Peace Prize speech
https://www.nobelprize.org/prizes/peace/2024/nihon-hidankyo/lecture//
「国家補償していない」 田中熙巳さん、受賞演説で「予定外」発言
https://mainichi.jp/articles/20241210/k00/00m/040/330000c
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