「量子力学 I:猪木慶治、川合光」
量子力学の教科書読み比べの第3弾がこちらだ。この分野の教科書としてはランキング3位。東大物理学科の3、4年生の教科書として採用されているだけあってこれまで紹介した小出先生のや江沢先生の教科書に比べてレベルが高い。教科書といいつつ、全体のページ数の9割が問題や演習およびその回答と解説というスタイルをとっている。問題の種類や量も豊富で、定期試験対策というよりも院試対策向きだと思った。数式も小出先生の教科書のように詳しく省略しないで書かれているわけではなく、読者は実際に計算しながら行間を埋めていかなければならない。実力をつけるにはうってつけの教科書だ。
このようなわけで、本書は量子力学にはじめて接する入門者向けのものではない。量子力学そのものについての紹介は、各章のはじめに1~2ページほど割いて簡潔に要点としてまとめられているだけである。小出先生の教科書やその他の入門者向けの教科書でひととおり学んだ後で取り組むのが効果的だと思う。
他の教科書に見られないユニークな点としては、第7章で群論、Lie群(連続群)、Lie環を導入し、物理量の保存則や対称性について論じているところだ。群論やLie群は、将来素粒子物理学を学ぶには必須な項目なので、量子力学との結びつきを示すのは新しい試みだと思った。とはいえ、群論、Lie群については本書の説明だけでは十分でないので別途数学書で学んだほうがよい。
1つだけ不満な点をあげさせていただければ、第7章の「5.軌道角運動量とスピン角運動量」と「6.角運動量の合成」については、もう少し詳しく解説や例題を盛り込んでほしかった。このあたりについては小出先生の教科書や江沢先生の教科書で学ぶほうがよいと思う。
全体的な僕の理解度は8割止まり。優等生向けの教科書なのだから無理もない。頑張ってII巻に進もう。
「量子力学 I:猪木慶治、川合光」
「量子力学 II:猪木慶治、川合光」
「量子力学 I:猪木慶治、川合光」目次
1 量子論の誕生
1.黒体輻射とエネルギー量子の発見:Planck
2.光電効果:Einstein
3.Compton効果:Compton
4.粒子性と波動性
5.de Broglie仮説とDavisson-Germerの実験:de Broglie
6.原子スペクトルの量子化:Bohr
7.章末問題
2 Schrodingerの波動方程式
1.重ね合わせの原理と波束
2.Schrodingerの波動方程式
3.波動関係とBornの確率解釈
4.確率の保存と確率の流れ
5.物理量の期待値と演算子
6.定常状態
7.Ehrenfestの定理と古典的極限
8.章末問題
3 1次元の量子系
1.1次元Schrodinger方程式の一般的性質
2.波動の反射と透過
3.ポテンシャル障壁とトンネル効果1-長方形ポテンシャル障壁
4.ポテンシャル障壁とトンネル効果2-一般の場合
5.束縛状態-井戸型ポテンシャル
6.周期的ポテンシャル-Kronig-Pennery模型
7.1次元調和振動子
8.段階型ポテンシャルの波束のふるまい
9.章末問題
4 量子力学の基本的な性質
1.物理量とエルミート演算子
2.エルミート演算子の固有関数と固有値
3.エルミート演算子の固有関数の性質1-とびとびのスペクトルの場合
4.エルミート演算子の固有関数の性質2-連続スペクトルの場合
5.波動関数の空間
6.1つの状態で複数の物理量が決まった値をとるための条件
7.量子力学における演算子法
8.章末問題
5 中心力場のSchrodinger方程式
1.Schrodinger方程式をつくる一般的規則
2.極座標による3次元のSchrodinger方程式
3.角変数の分離-球面調和関数
4.動径方程式
5.球面波
6.球対称な井戸型ポテンシャル-束縛状態
7.2体問題-重心運動の分離
8.水素原子
9.章末問題
6 量子力学の体系
1.量子力学の枠組み
2.量子力学における確率と物理量の測定
3.ブラ・ケット記号
4.Shcrodinger描像とHeisengerg描像
5.正準交換関係と正準量子化
6.交換子とPoisson括弧
7.調和振動子と生成・消滅演算子
8.章末問題
7 角運動量と対称性
1.対称性と保存量
2.群
3.運動量と角運動量
4.角運動量の固有状態
5.軌道角運動量とスピン角運動量
6.角運動量の合成
7.その他の対称性
8.章末問題
付録
A 特殊関数
1.直交多項式
2.合流型超幾何級数
3.球Bessel関数
B 曲線座標におけるラプラシアン
[量子力学関連記事]
* 量子力学I 第2版(朝永振一郎著)
* 量子力学II 第2版(朝永振一郎著)
* ファインマン物理学(5):量子力学
* ディラック 量子力学 原書第4版
* 角運動量とスピン「量子力学補巻」:朝永振一郎著
* 新版 スピンはめぐる:朝永振一郎著
* 量子テレポーテーション:古澤明著
* 現代の量子力学〈上〉J.J.サクライ
* 現代の量子力学〈下〉J.J.サクライ
* 量子力学:保江邦夫
* 待望の日本語版: サクライ上級量子力学
* ヒルベルト空間と量子力学:新井朝雄
* 量子論:小出昭一郎
* 量子力学(I):小出昭一郎
* 量子力学(II):小出昭一郎
* 量子力学(I): 江沢 洋
* 量子力学(II): 江沢 洋
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量子力学の教科書読み比べの第3弾がこちらだ。この分野の教科書としてはランキング3位。東大物理学科の3、4年生の教科書として採用されているだけあってこれまで紹介した小出先生のや江沢先生の教科書に比べてレベルが高い。教科書といいつつ、全体のページ数の9割が問題や演習およびその回答と解説というスタイルをとっている。問題の種類や量も豊富で、定期試験対策というよりも院試対策向きだと思った。数式も小出先生の教科書のように詳しく省略しないで書かれているわけではなく、読者は実際に計算しながら行間を埋めていかなければならない。実力をつけるにはうってつけの教科書だ。
このようなわけで、本書は量子力学にはじめて接する入門者向けのものではない。量子力学そのものについての紹介は、各章のはじめに1~2ページほど割いて簡潔に要点としてまとめられているだけである。小出先生の教科書やその他の入門者向けの教科書でひととおり学んだ後で取り組むのが効果的だと思う。
他の教科書に見られないユニークな点としては、第7章で群論、Lie群(連続群)、Lie環を導入し、物理量の保存則や対称性について論じているところだ。群論やLie群は、将来素粒子物理学を学ぶには必須な項目なので、量子力学との結びつきを示すのは新しい試みだと思った。とはいえ、群論、Lie群については本書の説明だけでは十分でないので別途数学書で学んだほうがよい。
1つだけ不満な点をあげさせていただければ、第7章の「5.軌道角運動量とスピン角運動量」と「6.角運動量の合成」については、もう少し詳しく解説や例題を盛り込んでほしかった。このあたりについては小出先生の教科書や江沢先生の教科書で学ぶほうがよいと思う。
全体的な僕の理解度は8割止まり。優等生向けの教科書なのだから無理もない。頑張ってII巻に進もう。
「量子力学 I:猪木慶治、川合光」
「量子力学 II:猪木慶治、川合光」
「量子力学 I:猪木慶治、川合光」目次
1 量子論の誕生
1.黒体輻射とエネルギー量子の発見:Planck
2.光電効果:Einstein
3.Compton効果:Compton
4.粒子性と波動性
5.de Broglie仮説とDavisson-Germerの実験:de Broglie
6.原子スペクトルの量子化:Bohr
7.章末問題
2 Schrodingerの波動方程式
1.重ね合わせの原理と波束
2.Schrodingerの波動方程式
3.波動関係とBornの確率解釈
4.確率の保存と確率の流れ
5.物理量の期待値と演算子
6.定常状態
7.Ehrenfestの定理と古典的極限
8.章末問題
3 1次元の量子系
1.1次元Schrodinger方程式の一般的性質
2.波動の反射と透過
3.ポテンシャル障壁とトンネル効果1-長方形ポテンシャル障壁
4.ポテンシャル障壁とトンネル効果2-一般の場合
5.束縛状態-井戸型ポテンシャル
6.周期的ポテンシャル-Kronig-Pennery模型
7.1次元調和振動子
8.段階型ポテンシャルの波束のふるまい
9.章末問題
4 量子力学の基本的な性質
1.物理量とエルミート演算子
2.エルミート演算子の固有関数と固有値
3.エルミート演算子の固有関数の性質1-とびとびのスペクトルの場合
4.エルミート演算子の固有関数の性質2-連続スペクトルの場合
5.波動関数の空間
6.1つの状態で複数の物理量が決まった値をとるための条件
7.量子力学における演算子法
8.章末問題
5 中心力場のSchrodinger方程式
1.Schrodinger方程式をつくる一般的規則
2.極座標による3次元のSchrodinger方程式
3.角変数の分離-球面調和関数
4.動径方程式
5.球面波
6.球対称な井戸型ポテンシャル-束縛状態
7.2体問題-重心運動の分離
8.水素原子
9.章末問題
6 量子力学の体系
1.量子力学の枠組み
2.量子力学における確率と物理量の測定
3.ブラ・ケット記号
4.Shcrodinger描像とHeisengerg描像
5.正準交換関係と正準量子化
6.交換子とPoisson括弧
7.調和振動子と生成・消滅演算子
8.章末問題
7 角運動量と対称性
1.対称性と保存量
2.群
3.運動量と角運動量
4.角運動量の固有状態
5.軌道角運動量とスピン角運動量
6.角運動量の合成
7.その他の対称性
8.章末問題
付録
A 特殊関数
1.直交多項式
2.合流型超幾何級数
3.球Bessel関数
B 曲線座標におけるラプラシアン
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* 量子力学I 第2版(朝永振一郎著)
* 量子力学II 第2版(朝永振一郎著)
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* 新版 スピンはめぐる:朝永振一郎著
* 量子テレポーテーション:古澤明著
* 現代の量子力学〈上〉J.J.サクライ
* 現代の量子力学〈下〉J.J.サクライ
* 量子力学:保江邦夫
* 待望の日本語版: サクライ上級量子力学
* ヒルベルト空間と量子力学:新井朝雄
* 量子論:小出昭一郎
* 量子力学(I):小出昭一郎
* 量子力学(II):小出昭一郎
* 量子力学(I): 江沢 洋
* 量子力学(II): 江沢 洋
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お久しぶりです。お元気ですか?
猪木、川合先生のこの教科書も2巻目に入ったとたん、ペースが落ちてきました。でもがんばります。
朝永先生の「スピンはめぐる」は電子のスピンが発見されていったあたりの量子物理学史が生き生きと紹介されていたので興味深く読めました。同先生の「角運動量とスピン」と合わせてお読みになるとよろしいかと思います。(既読でしたら、すみません。)
いろいろ読んできた中で、やはり朝永先生のがいちばん良いなと思います。大学の定期試験対策には不向きかもしれませんが。興味を持続させながら理解していくという意味においてです。
僕が最初に読んだ「ファインマン物理学V」は、今になって思うと、その良さを味わうためには2、3種類目あたりに読んだほうがよかったかもしれません。