とね日記

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リー群と表現論:小林俊行、大島利雄(第5章:Lie群とLie環)

2011年12月28日 15時58分24秒 | 物理学、数学
リー群と表現論:小林俊行、大島利雄

10月のはじめに本書の第4章を読み終えてからずっと他の本に寄り道しっぱなしだったので、やっと戻ってこれたという感じだ。そもそも本書にしても5月末の「量子現象の数理:新井朝雄(第3章)」からの寄り道なのだ。

第5章:Lie群とLie環

この章ではLie群の一般論が展開される。

可逆な行列の全体は、位相群であるが多様体という幾何学的構造をもっている。この部分群の直行群や特殊線型群なども、群という代数的性質と多様体という性質を合わせもっており、それらはLie群と呼ばれる。Lie群の上では豊富な解析が展開され、その一例である第4章で解説したPeter-Weylの定理も、より深い意味をもったものであることが具体的に解明される。

Lie群の導入の仕方は大きく分けて2通りある。

1つはC^ω級の群演算が定義されたC^ω多様体としてLie群を定義する導入法である。もう1つはGL(n,R)の部分群あるいはそれと局所同型な位相群をLie群の定義とする導入法である。前者はLie群を内在的にとらえ、後者はLie群を(R^nの)変換群としてとらえた考え方である。

この章では後者の定義から出発し、最終的に前者の定義に一致することを証明する。その根幹は「GL(n,R)の閉部分群はC^ω部分多様体の構造をもつ」というvon Neumannの定理と「有限次元のLie環は忠実な表現をもつ」というAdo-岩澤の定理である。このとき、Lie群の多様体としての座標は行列の指数写像で定義される。

Lie群Gを多様体とみたとき、単位元の接空間 g := Te G にはLie群の積構造を反映するブラケット積 [ , ] が定義される。ブラケット積は、Jacobi律を満たす歪対称線型写像 [ , ]:g×g→g であり、gをLie群GのLie環という。G=GL(n,R)ならばg =(simeq) M(n,R) であり、ブラケット積は [X,Y]=XY-YX で与えられる。連結Lie群Gが複素Lie群の構造をもつための必要十分条件は、Lie環 g が複素Lie環であることだ。

Lie群の局所的な構造はLie環で一意的に決定されるというのがLie理論である。Lie理論によって、Lie群という幾何的な対象をLie環という代数的な対象を通して研究することができる。

つまりLie群の単位元での接空間は、単位元の1次の無限小近傍と考えられる。群の積の構造に基づいた2次の無限小、すなわち群の積の非可換性を表す構造をその接空間に入れたものがLie環である。このLie環の構造が、もとの群の3次、4次というような高次の無限小近傍だけでなく、実際の近傍における群の構造を一意的に決めてしまうという大変強い結論を得ることができる。つまり、Lie群の局所的構造は、Lie環という代数的な構造から決まってしまうのである。

この章を理解するために必須な分野は次のとおり。「多様体」とはいっても接空間、接ベクトル場あたりまでを理解しておけば大丈夫なので、たいしたことはない。

1) 多様体:「多様体の基礎: 松本幸夫著


第5章の目次詳細と「要約」は次のとおり。

第5章 Lie群とLie環
 §5.1 Lie群
 §5.2 行列の指数関数
 §5.3 Lie環
 §5.4 Lie群とLie環の例
 §5.5 Lie群の解析性
 §5.6 Lie群とLie環の対応
 要約

(要約)
5.1 Lie群には、そのLie環からの指数写像によってC^ω-多様体の構造が入る。特に、GL(n,C)の閉部分群はC^ω-部分多様体となる。
5.2 Lie群Gに対し、GのLie環、単位元での接空間、左不変ベクトル場の全体、右不変ベクトル場の全体、1パラメータ部分群の全体は、その各元が自然に対応している。
5.3 Lie群の間の連続な準同型写像は、C^ω級となり、Lie環の準同型写像を定義する。
5.4 Lie群が局所同型⇔Lie群のLie環が同型
5.5 Lie群Gの連結な部分Lie群と、GのLie環の部分Lie環とは、1対1に対応する。
5.6 (用語)Lie群とそのLie環、線型Lie群、Lie環のイデアル、(半)単純Lie環、簡約Lie環、von Neumann-Cartanの定理、標準座標、不変微分作用素、普遍包絡環、Poincare-Birkhoff-Wittの定理、微分表現、随伴表現、Campbell-Hausdorffの公式、離散部分群、可換Lie環、簡約Lie群、ベキ零Lie群、解析的部分群、C^ω-Lie群


リー群と表現論:小林俊行、大島利雄



参考ページ:

Lie Groups (Copyright 2004 and 2011 (Springer-Verlag NY and Daniel Bump)
http://match.stanford.edu/lie/index.html

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2012年12月29日に追記

Caltechの大栗博司先生のブログに本書の著者のおひとりでらっしゃる小林俊行先生の講演の記事を見つけました。横からのお姿ですが小林先生の写真が掲載されています。

深夜のセミナーと中間審査(2012年12月15日の記事)
http://planck.exblog.jp/17206738/
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関連記事:

読み始めた。:リー群と表現論:小林俊行、大島利雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6f89fddb08dc3141e6753249891523b9


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リー群と表現論:小林俊行、大島利雄

まえがき
理論の概要と目標
第1章 位相群の表現
 §1.1 位相群
 §1.2 位相群の表現
 §1.3 種々の表現を構成する操作
 §1.4 Hilbertの第5問題
第2章 Fourier解析と表現論
 §2.1 Fourier級数
 §2.2 Fourier変換とアファイン変換群
第3章 行列要素と不変測度
 §3.1 行列要素
 §3.2 群上の不変測度
 §3.3 Schurの直交関係式
 §3.4 指標
第4章 Peter‐Weylの定理
 §4.1 Peter‐Weylの定理
 §4.2 Peter‐Weylの定理の証明
  (その1: Stone-Weierstrassの定理を用いる方法)
 §4.3 Peter‐Weylの定理の証明
  (その2: 関数解析を用いる方法)
 §4.4 有限群論への応用
第5章 Lie群とLie環
 §5.1 Lie群
 §5.2 行列の指数関数
 §5.3 Lie環
 §5.4 Lie群とLie環の例
 §5.5 Lie群の解析性
 §5.6 Lie群とLie環の対応
第6章 Lie群と等質空間の構造
 §6.1 普遍被覆群
 §6.2 複素Lie群
 §6.3 等質空間
 §6.4 Lie群上の積分
 §6.5 コンパクトLie群
第7章 古典群と種々の等質空間
 §7.1 いろいろな古典群
 §7.2 Clifford代数とスピノル群
 §7.3 等質空間の例1: 球面の種々の表示
 §7.4 等質空間の例2: SL(2,R)の等質空間
第8章 ユニタリ群U (n)の表現論
 §8.1 Weylの積分公式
 §8.2 極大トーラス上の対称式と交代式
 §8.3 U (n)の有限次元既約表現の分類と指標公式
第9章 古典群の表現論
 §9.1 古典群のルート系とWeylの積分公式
 §9.2 Weyl群の不変式と交代式
 §9.3 有限次元既約表現の分類と指標公式
第10章 ファイバー束と群作用
 §10.1 ファイバー束と切断
 §10.2 ベクトル束と主ファイバー束
 §10.3 主束に同伴するファイバー束
 §10.4 群作用と切断
 §10.5 G -不変な切断
第11章 誘導表現と無限次元ユニタリ表現
 §11.1 Frobeniusの相互律
 §11.2 無限次元表現の構成 
第12章 Weylのユニタリ・トリック
 §12.1 複素化と実形
 §12.2 Weylのユニタリ・トリック
 §12.3 等質空間におけるユニタリ・トリック
第13章 Borel‐Weil理論
 §13.1 旗多様体
 §13.2 Borel‐Weilの定理
 §13.3 Borel‐Weilの定理の証明
 §13.4 Borel‐Weilの定理の一般化
現代数学への展望
参考文献
演習問題解答
索引
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