「半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ」
内容紹介:
本書は半導体デバイスの動作原理と特性を学ぶための実用的・総合的な教科書である。一般の理工系学生を読者として想定し、特別な予備知識を前提とせずに、徹底的に平易なデバイス物理の解説を行う。中巻では、前半において、半導体デバイスの基本中の基本であるダイオード(主としてpn接合)の動作原理と動作特性について、通常の解説では省かれている誘電緩和過程の検討なども含めた十全な説明を与える。後半では半導体を用いた代表的な3端子素子である電界効果トランジスタ(FET)の動作を、基礎的な長チャネルモデルから説き起こして、現実的な微細素子の特性に至るまでを論じ、CMOS回路やメモリー(記憶装置)への応用についても簡単に紹介する。
2012年2月刊行、391ページ。(シュプリンガー版は2008年5月刊行)
著者について:
Betty Lise Anderson, Richard L. Anderson
http://www2.ece.ohio-state.edu/~anderson/
訳者について:
樺沢宇紀(かばさわ うき): 訳書: https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho
1990年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻前期課程修了。(株)日立製作所中央研究所研究員。1996年(株)日立製作所電子デバイス製造システム推進本部技師。1999年(株)日立製作所計測器グループ技師。2001年(株)日立ハイテクノロジーズ技師。
樺沢先生の訳書: Amazonで検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で367冊目。
上巻に続き中巻をやっと読み終えることができた。僕は電子工学の専門家になるわけではないし、このブログはたくさんの理工系書籍を紹介したいから、おのづと朝読みになってしまう。でも、素粒子物理からマクロな世界の物理や工学がどのように具現されているかを知りたいし、要素還元主義の方針は崩したくない。丁寧に翻訳してくださった樺沢先生には申し訳ないが、ざっと理解できればそれでよいという方針で読ませていただいた。
上巻で半導体の物性を物理的な視点で理解した後、この中巻では現実の半導体デバイス、ダイオードと電界効果トランジスタ(FET)の内部でどのようなことがおきているかを、定性的議論(理論)と定量的議論(解析的計算)の2つの側面で学ぶことができる。
計算といっても加減乗除、平方根、指数関数など高校数学レベルのものがほとんど。三角関数もでてこない。導出過程は示されていないが、なんとか理解可能なレベルである。
定性的な説明、計算手順を読んでいると古典物理の現象だと錯覚するようになる。しかし図版にエネルギーバンドが描かれていたり井戸型ポテンシャルの説明を見て「あ、やはりこれは量子的現象なのだな。」と気が付くのだ。
ダイオードやトランジスタなど半導体の製造工程は「史上最強図解これならわかる!電子回路:菊地正典」で学んでいたのが理解の助けになった。
TVSダイオード、トランジスタといった電子部品をオンラインで購入する場合は「アールエスコンポーネンツ」が便利だ。規格ごとに検索ソートがかけられ商品選択がしやすく、業者価格での部品購入が可能となる。
さらに、これら2つの半導体について、SPICEという無料の電子回路シミュレータを使って電気的特性を計算し、グラフによって視覚化するというおまけつきだ。一般人が家で半導体を作って実験することなどできないし、実際に買うことができる半導体を使って測定するのも大変だから、これはありがたい。
SPICEの部分については具体的な操作方法は示されないものの、設定するパラメータの値が載せられているので、このソフトの使い方を学べば自分でも試すことができると思う。2016年に次の本が刊行されているので、本で学ぶのならばこれをお読みになるとよいだろう。
「回路シミュレータLTspiceで学ぶ電子回路 第3版: 渋谷道雄」
ネット上の資料で学ぶのであれば、以下のサイトで学ぶとよい。
LTspice(提供元)
http://www.analog.com/jp/design-center/design-tools-and-calculators/ltspice-simulator.html
LTspice
http://easylabo.com/ltspice/
初心者のためのLTspice入門の入門(1)(Ver.3)
http://www.denshi.club/ltspice/2015/03/ltspice1.html
LTspice の使い方 覚え書き
http://denki.nara-edu.ac.jp/~yabu/soft/PIC/LTspice.html
LTspice入門に役立つサイト集
https://matome.naver.jp/odai/2144215117802740101
さて、本書の中身についてである。章立てはこのとおり。
第II部 ダイオード
第5章 理想的なpnホモ接合
第6章 一般のダイオード
補遺2 ダイオードに関する補足
第III部 電界効果トランジスタ(FET)
第7章 MOSFET
第8章 FETに関する追加的な考察
補遺3 MOSデバイスに関する補足
第II部 ダイオード
ダイオードで使われる以下の3つの接合の電気特性を調べる。
1. ホモ接合:不純物だけが異なる。同じ半導体結晶どうしの接合。
2. ヘテロ接合:2つの異なる結晶材料から構成される接合。
3. 金属-半導体接合:金属と半導体結晶の接合
第5章「理想的なpnホモ接合」では不純物濃度分布が接合面において段差状に変化している理想的なホモ接合の場合を扱う。pnホモ接合の原理を解説した後、エネルギー-バンド図を用いた定性的な解説を行う。熱平衡状態を理解した後、順方向や逆方向のバイアスを加えたときの変化、生じる電流について述べる。次に定量的な解説を行い、電流-電圧特性、拡散電流、生成-再結合電流、逆方向バイアス・トンネル、キャリヤの増倍、なだれ現象、小信号インピーダンス、スイッチング用途における過渡的な動作などが定量的に解説される。
第6章「一般のダイオード」では、より現実的な不純物濃度分布が単純な段差関数ではないホモ接合を論じ、さらにヘテロ接合と金属-半導体接合の場合が論じられる。非段差ホモ接合の例としては線形傾斜接合、超段差接合が解説される。半導体ヘテロ接合ではバンド図を示した後、トンネル誘起分極、表面・界面状態の影響、格子不整合の影響が解説される。金属-半導体接合では理想的な場合(電子親和力モデル)を解説した後、トンネル誘起分極の影響、電流-電圧特性、Ohm性(低抵抗)接触、I-Va特性が解説される。
補遺2「ダイオードに関する補足」では、まず誘電緩和の物理が解説される。たとえば突然、過剰キャリヤが注入などによって半導体内の一部分に導入され、電荷中性状態が破られたときに、電荷が中和されるまでに要する時間を誘電緩和時間と呼ぶ。
次にダイオードの容量に関してpn接合やSchottky接合に対するC-V(容量-電圧)特性の測定によって、接合における不純物濃度を調べる方法を紹介する。理想的な接合(段差接合)に加えて、不均一な不純物濃度分布を持つ接合も考察する。そしてSchottkyダイオードや、低抵抗の金属-半導体接合におけるトンネル電流についても簡単に議論する。
最後に回路解析ソフトウェアSPICEを用いて、ダイオードの静的特性と過渡特性を解析する方法を紹介する。
第III部 電界効果トランジスタ(FET)
3端子デバイスのトランジスタは2通りの機能を持つ。1つはアナログ回路で使われる増幅機能で、もう1つはデジタル回路で使われる切り替え機能(スイッチング機能)である。機能の区別は周辺回路によって決まる。回路設計の議論は他の書籍に譲り、本書ではトランジスタ自体の物理的な動作を議論の焦点に据える。第III部で取り上げるのは電界効果トランジスタ(FET)である。(第IV部ではバイポーラ・トランジスタ(BJT)を取り上げる。)
第7章に進む前に、ここでは一般的なFETの原理、I_D-V_DS特性を導出するための基礎が解説される。
第7章「MOSFET」では最も代表的なSiを用いたMOSFET(金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ)の静的な電気特性の基礎が解説される。まず定性的な議論として熱平衡状態、次にゲート電圧を印加した場合が解説される。次に定量的な議論として定数移動度を仮定した長チャネルMOSFETモデル、電流の飽和、チャネル長の変調が解説される。そしてより現実的な長チャネルモデルにおける、横方向電界の低電界移動度への影響、I_D-V_DS特性に対する横方向電界の影響、縦方向電界のチャネル移動度への影響、I_D-V_DS特性に対する縦方向電界の影響が解説され、最後に長チャネルモデルと実験結果の比較が行われる。
第8章「FETに関する追加的な考察」では、まずMOSFETの動作を制御するパラメーターへの理解を深める。これまで既知の量として扱ってきた閾値電圧や低電界移動度などのパラメーターを測定する方法が示される。次に単純なCMOS(相補型MOS)としてインバーター論理回路が取り上げられ、回路の動作と電力消費、切り替え遅延(伝播遅延)などを調べる。またCMOSによる高利得で線形性の強いアナログ増幅回路について解説する。
補遺3「MOSデバイスに関する補足」では、MOSFETとMOS構造を持つキャパシターに関する、以下の特別な話題が紹介される。
- チャネル電荷Q_chに関する注意
- MOSFETの閾値電圧
- 低電界移動度に関する普遍的な関係式
- 長チャネルMOSFETのV_Tとμ_lfを求める別の方法
- MOSキャパシター
- MOSキャパシターの混成図(DRAM、CCD)
- デバイスの劣化
- SPICEによるMOSFETの特性の計算
上中下「全巻の構成」はリンクを開いていただくとわかる。中巻の章立てはこのようなものだ。
このように物理学専攻の学生とはとても相性のよい半導体入門の教科書である。青と黒の二色刷り。翻訳も読みやすく、訳者による補足説明が脚注に書かれているのが助かった。ぜひご一読されるとよいだろう。
本書を訳された樺沢先生による紹介文、刊行までの経緯は次のページでお読みいただける。
《樺沢の訳書》No.8 半導体デバイスの基礎
https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho/08
樺沢先生、とてもわかりやすく教育的な本を翻訳していただき、ありがとうございました。
4月7日現在、アマゾンでは在庫切れです。ネット書店で在庫があるのは、hontoと紀伊國屋ウェブ、e-hon、HonyaClub、セブンネットだと取り寄せ(もしくは出版社在庫確認)してくれるようです。
「半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性」(紹介記事)
「半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ」
「半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス」(紹介記事)
シュプリンガー版も含めて: Amazonでまとめて検索
翻訳の元になった原書はこちら。2004年に刊行された。
「Fundamentals of Semiconductor Devices」
その後、原書のほうは昨年改訂されたばかり。いま買える最新のものは第2版である。
「Fundamentals of Semiconductor Devices 2nd Edition」
関連記事:
半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef603af1cd207a1b80be4110b91066b3
半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/484c62f4f934506b988cec927f9fca69
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ」
第II部 ダイオード
第5章 理想的なpnホモ接合
- はじめに
- 理想的なpnホモ接合(定性的議論)
- 理想的なpnホモ接合(定量的議論)
- 理想的なpnホモ接合の小信号インピーダンス
- 過渡的な効果
- 温度の効果
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 復習のポイント
- 演習問題
第6章 一般のダイオード
- はじめに
- 非段差ホモ接合
- 半導体ヘテロ結合
- 金属-半導体接合
- 理想的でない接合やヘテロ接合の容量
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第6章の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
補遺2 ダイオードに関する補足
- はじめに
- 誘電緩和時間
- 接合容量
- Schottkyダイオードにおける2次的効果
- ダイオードのSPICEモデル
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 補遺2の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
第III部 電界効果トランジスタ(FET)
第7章 MOSFET
- はじめに
- MOSFET(定性的議論)
- MOSFET(定量的議論)
- 長チャネルモデルと実験結果の比較
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第7章の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
第8章 FETに関する追加的な考察
- はじめに
- 閾値電圧と低電界移動度の測定
- 閾値領域における漏れ電流
- 相補型MOSFET(CMOS)
- CMOSインバーター回路におけるスイッチ動作
- MOSFETの等価回路
- 電流利得と遮断周波数f_T
- 短チャネル効果
- MOSFETのスケーリング
- 絶縁体上シリコン
- 他のFET
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第8章の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
補遺3 MOSデバイスに関する補足
- はじめに
- チャネル電流Q_chに関する注意
- MOSFETの閾値電圧
- 低電界移動度に関する普遍的な関係式
- V_Tの測定
- 長チャネルMOSFETのV_Tとμ_1fを求める別の方法
- MOSキャパシター
- MOSキャパシターの混成図
- デバイスの劣化
- MOSFETの低温動作
- SPICEによるMOSFETの特性の計算
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 補遺3の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
索引
内容紹介:
本書は半導体デバイスの動作原理と特性を学ぶための実用的・総合的な教科書である。一般の理工系学生を読者として想定し、特別な予備知識を前提とせずに、徹底的に平易なデバイス物理の解説を行う。中巻では、前半において、半導体デバイスの基本中の基本であるダイオード(主としてpn接合)の動作原理と動作特性について、通常の解説では省かれている誘電緩和過程の検討なども含めた十全な説明を与える。後半では半導体を用いた代表的な3端子素子である電界効果トランジスタ(FET)の動作を、基礎的な長チャネルモデルから説き起こして、現実的な微細素子の特性に至るまでを論じ、CMOS回路やメモリー(記憶装置)への応用についても簡単に紹介する。
2012年2月刊行、391ページ。(シュプリンガー版は2008年5月刊行)
著者について:
Betty Lise Anderson, Richard L. Anderson
http://www2.ece.ohio-state.edu/~anderson/
訳者について:
樺沢宇紀(かばさわ うき): 訳書: https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho
1990年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻前期課程修了。(株)日立製作所中央研究所研究員。1996年(株)日立製作所電子デバイス製造システム推進本部技師。1999年(株)日立製作所計測器グループ技師。2001年(株)日立ハイテクノロジーズ技師。
樺沢先生の訳書: Amazonで検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で367冊目。
上巻に続き中巻をやっと読み終えることができた。僕は電子工学の専門家になるわけではないし、このブログはたくさんの理工系書籍を紹介したいから、おのづと朝読みになってしまう。でも、素粒子物理からマクロな世界の物理や工学がどのように具現されているかを知りたいし、要素還元主義の方針は崩したくない。丁寧に翻訳してくださった樺沢先生には申し訳ないが、ざっと理解できればそれでよいという方針で読ませていただいた。
上巻で半導体の物性を物理的な視点で理解した後、この中巻では現実の半導体デバイス、ダイオードと電界効果トランジスタ(FET)の内部でどのようなことがおきているかを、定性的議論(理論)と定量的議論(解析的計算)の2つの側面で学ぶことができる。
計算といっても加減乗除、平方根、指数関数など高校数学レベルのものがほとんど。三角関数もでてこない。導出過程は示されていないが、なんとか理解可能なレベルである。
定性的な説明、計算手順を読んでいると古典物理の現象だと錯覚するようになる。しかし図版にエネルギーバンドが描かれていたり井戸型ポテンシャルの説明を見て「あ、やはりこれは量子的現象なのだな。」と気が付くのだ。
ダイオードやトランジスタなど半導体の製造工程は「史上最強図解これならわかる!電子回路:菊地正典」で学んでいたのが理解の助けになった。
TVSダイオード、トランジスタといった電子部品をオンラインで購入する場合は「アールエスコンポーネンツ」が便利だ。規格ごとに検索ソートがかけられ商品選択がしやすく、業者価格での部品購入が可能となる。
さらに、これら2つの半導体について、SPICEという無料の電子回路シミュレータを使って電気的特性を計算し、グラフによって視覚化するというおまけつきだ。一般人が家で半導体を作って実験することなどできないし、実際に買うことができる半導体を使って測定するのも大変だから、これはありがたい。
SPICEの部分については具体的な操作方法は示されないものの、設定するパラメータの値が載せられているので、このソフトの使い方を学べば自分でも試すことができると思う。2016年に次の本が刊行されているので、本で学ぶのならばこれをお読みになるとよいだろう。
「回路シミュレータLTspiceで学ぶ電子回路 第3版: 渋谷道雄」
ネット上の資料で学ぶのであれば、以下のサイトで学ぶとよい。
LTspice(提供元)
http://www.analog.com/jp/design-center/design-tools-and-calculators/ltspice-simulator.html
LTspice
http://easylabo.com/ltspice/
初心者のためのLTspice入門の入門(1)(Ver.3)
http://www.denshi.club/ltspice/2015/03/ltspice1.html
LTspice の使い方 覚え書き
http://denki.nara-edu.ac.jp/~yabu/soft/PIC/LTspice.html
LTspice入門に役立つサイト集
https://matome.naver.jp/odai/2144215117802740101
さて、本書の中身についてである。章立てはこのとおり。
第II部 ダイオード
第5章 理想的なpnホモ接合
第6章 一般のダイオード
補遺2 ダイオードに関する補足
第III部 電界効果トランジスタ(FET)
第7章 MOSFET
第8章 FETに関する追加的な考察
補遺3 MOSデバイスに関する補足
第II部 ダイオード
ダイオードで使われる以下の3つの接合の電気特性を調べる。
1. ホモ接合:不純物だけが異なる。同じ半導体結晶どうしの接合。
2. ヘテロ接合:2つの異なる結晶材料から構成される接合。
3. 金属-半導体接合:金属と半導体結晶の接合
第5章「理想的なpnホモ接合」では不純物濃度分布が接合面において段差状に変化している理想的なホモ接合の場合を扱う。pnホモ接合の原理を解説した後、エネルギー-バンド図を用いた定性的な解説を行う。熱平衡状態を理解した後、順方向や逆方向のバイアスを加えたときの変化、生じる電流について述べる。次に定量的な解説を行い、電流-電圧特性、拡散電流、生成-再結合電流、逆方向バイアス・トンネル、キャリヤの増倍、なだれ現象、小信号インピーダンス、スイッチング用途における過渡的な動作などが定量的に解説される。
第6章「一般のダイオード」では、より現実的な不純物濃度分布が単純な段差関数ではないホモ接合を論じ、さらにヘテロ接合と金属-半導体接合の場合が論じられる。非段差ホモ接合の例としては線形傾斜接合、超段差接合が解説される。半導体ヘテロ接合ではバンド図を示した後、トンネル誘起分極、表面・界面状態の影響、格子不整合の影響が解説される。金属-半導体接合では理想的な場合(電子親和力モデル)を解説した後、トンネル誘起分極の影響、電流-電圧特性、Ohm性(低抵抗)接触、I-Va特性が解説される。
補遺2「ダイオードに関する補足」では、まず誘電緩和の物理が解説される。たとえば突然、過剰キャリヤが注入などによって半導体内の一部分に導入され、電荷中性状態が破られたときに、電荷が中和されるまでに要する時間を誘電緩和時間と呼ぶ。
次にダイオードの容量に関してpn接合やSchottky接合に対するC-V(容量-電圧)特性の測定によって、接合における不純物濃度を調べる方法を紹介する。理想的な接合(段差接合)に加えて、不均一な不純物濃度分布を持つ接合も考察する。そしてSchottkyダイオードや、低抵抗の金属-半導体接合におけるトンネル電流についても簡単に議論する。
最後に回路解析ソフトウェアSPICEを用いて、ダイオードの静的特性と過渡特性を解析する方法を紹介する。
第III部 電界効果トランジスタ(FET)
3端子デバイスのトランジスタは2通りの機能を持つ。1つはアナログ回路で使われる増幅機能で、もう1つはデジタル回路で使われる切り替え機能(スイッチング機能)である。機能の区別は周辺回路によって決まる。回路設計の議論は他の書籍に譲り、本書ではトランジスタ自体の物理的な動作を議論の焦点に据える。第III部で取り上げるのは電界効果トランジスタ(FET)である。(第IV部ではバイポーラ・トランジスタ(BJT)を取り上げる。)
第7章に進む前に、ここでは一般的なFETの原理、I_D-V_DS特性を導出するための基礎が解説される。
第7章「MOSFET」では最も代表的なSiを用いたMOSFET(金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ)の静的な電気特性の基礎が解説される。まず定性的な議論として熱平衡状態、次にゲート電圧を印加した場合が解説される。次に定量的な議論として定数移動度を仮定した長チャネルMOSFETモデル、電流の飽和、チャネル長の変調が解説される。そしてより現実的な長チャネルモデルにおける、横方向電界の低電界移動度への影響、I_D-V_DS特性に対する横方向電界の影響、縦方向電界のチャネル移動度への影響、I_D-V_DS特性に対する縦方向電界の影響が解説され、最後に長チャネルモデルと実験結果の比較が行われる。
第8章「FETに関する追加的な考察」では、まずMOSFETの動作を制御するパラメーターへの理解を深める。これまで既知の量として扱ってきた閾値電圧や低電界移動度などのパラメーターを測定する方法が示される。次に単純なCMOS(相補型MOS)としてインバーター論理回路が取り上げられ、回路の動作と電力消費、切り替え遅延(伝播遅延)などを調べる。またCMOSによる高利得で線形性の強いアナログ増幅回路について解説する。
補遺3「MOSデバイスに関する補足」では、MOSFETとMOS構造を持つキャパシターに関する、以下の特別な話題が紹介される。
- チャネル電荷Q_chに関する注意
- MOSFETの閾値電圧
- 低電界移動度に関する普遍的な関係式
- 長チャネルMOSFETのV_Tとμ_lfを求める別の方法
- MOSキャパシター
- MOSキャパシターの混成図(DRAM、CCD)
- デバイスの劣化
- SPICEによるMOSFETの特性の計算
上中下「全巻の構成」はリンクを開いていただくとわかる。中巻の章立てはこのようなものだ。
このように物理学専攻の学生とはとても相性のよい半導体入門の教科書である。青と黒の二色刷り。翻訳も読みやすく、訳者による補足説明が脚注に書かれているのが助かった。ぜひご一読されるとよいだろう。
本書を訳された樺沢先生による紹介文、刊行までの経緯は次のページでお読みいただける。
《樺沢の訳書》No.8 半導体デバイスの基礎
https://adx50150.wixsite.com/kabasawa-yakusho/08
樺沢先生、とてもわかりやすく教育的な本を翻訳していただき、ありがとうございました。
4月7日現在、アマゾンでは在庫切れです。ネット書店で在庫があるのは、hontoと紀伊國屋ウェブ、e-hon、HonyaClub、セブンネットだと取り寄せ(もしくは出版社在庫確認)してくれるようです。
「半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性」(紹介記事)
「半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ」
「半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス」(紹介記事)
シュプリンガー版も含めて: Amazonでまとめて検索
翻訳の元になった原書はこちら。2004年に刊行された。
「Fundamentals of Semiconductor Devices」
その後、原書のほうは昨年改訂されたばかり。いま買える最新のものは第2版である。
「Fundamentals of Semiconductor Devices 2nd Edition」
関連記事:
半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef603af1cd207a1b80be4110b91066b3
半導体デバイスの基礎 (下) バイポーラ・トランジスタと光デバイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/484c62f4f934506b988cec927f9fca69
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「半導体デバイスの基礎 (中) ダイオードと電界効果トランジスタ」
第II部 ダイオード
第5章 理想的なpnホモ接合
- はじめに
- 理想的なpnホモ接合(定性的議論)
- 理想的なpnホモ接合(定量的議論)
- 理想的なpnホモ接合の小信号インピーダンス
- 過渡的な効果
- 温度の効果
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 復習のポイント
- 演習問題
第6章 一般のダイオード
- はじめに
- 非段差ホモ接合
- 半導体ヘテロ結合
- 金属-半導体接合
- 理想的でない接合やヘテロ接合の容量
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第6章の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
補遺2 ダイオードに関する補足
- はじめに
- 誘電緩和時間
- 接合容量
- Schottkyダイオードにおける2次的効果
- ダイオードのSPICEモデル
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 補遺2の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
第III部 電界効果トランジスタ(FET)
第7章 MOSFET
- はじめに
- MOSFET(定性的議論)
- MOSFET(定量的議論)
- 長チャネルモデルと実験結果の比較
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第7章の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
第8章 FETに関する追加的な考察
- はじめに
- 閾値電圧と低電界移動度の測定
- 閾値領域における漏れ電流
- 相補型MOSFET(CMOS)
- CMOSインバーター回路におけるスイッチ動作
- MOSFETの等価回路
- 電流利得と遮断周波数f_T
- 短チャネル効果
- MOSFETのスケーリング
- 絶縁体上シリコン
- 他のFET
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 第8章の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
補遺3 MOSデバイスに関する補足
- はじめに
- チャネル電流Q_chに関する注意
- MOSFETの閾値電圧
- 低電界移動度に関する普遍的な関係式
- V_Tの測定
- 長チャネルMOSFETのV_Tとμ_1fを求める別の方法
- MOSキャパシター
- MOSキャパシターの混成図
- デバイスの劣化
- MOSFETの低温動作
- SPICEによるMOSFETの特性の計算
- まとめ
- 付録の参考文献リストについて
- 補遺3の参考文献
- 復習のポイント
- 演習問題
索引
ご紹介頂いた内容や目次では分からないのですが、最近のデバイスで結構使われている量子井戸も面白いですよ。雑ぱくに言ってしまえば、トンネル効果でざざ漏れになる程度の薄い半導体層が複数重なっている時、特に異なる半導体層によるヘテロ接合が複数ある時、エネルギー準位を薄い半導体層の厚みで制御できるというのが、量子井戸の考え方です。
まさに量子力学の効果をマクロで工学的に応用する技術ですから、とねさんのご興味にピッタリだと思います。
以前AlGaAs系の量子井戸レーザーを自作してセンサ応用の研究をしたことがあって、ミクロの効果をマクロに活かす醍醐味を味わったことがあります。電子工学のエッセンスを活用し、私お土俵である化学的なアプローチで化学物質のセンサに仕上げるといった仕事でした。
「位置に依存する」でしょうね。
本書では薄い半導体層が複数重なる例は紹介されていませんが、その技術は面白そうですね。
それにしてもやすさんはこの分野の知識もお持ちなのですね。すごい。。。
漢字変換ミスのご指摘、ありがとうございます。なおしておきました。
今は色々とお忙しいこととは思いますが、量子井戸(Quantum Well)、あるいは多重量子井戸(Multi-Quantum Well)の技術は、赤外線センサやレーザダイオード、LEDなどで実用化されていて、気がつかないうちに既に身の回りで使われているのが面白いところです。いずれも受発光素子ですね!
なので、"量子井戸"や"多重量子井戸"で検索されると色々と出てきます。
以前私が光半導体を勉強した時、以下の2冊にお世話になったので、ご紹介します。いずれも古い本ですので、内容も古いものですが一方で今でも活きる基礎が書かれています。
Jacues I. Pankove, OPTICAL PROCESSES IN SEMICONDUCTORS, Dover Publication, 1971
(論文の読み書きの際のTerminologyやTechnical Term理解にも役立ちました)
米津宏雄, 光通信素子工学, 工学図書,1991
(名著とされている本で、英語版もあるそうです)
(当時量子井戸デバイスの指導をしていただいた東大の榊先生と荒川先生からご紹介頂いた本)
工学は物理学と違いどうしても変化や進歩の激しい分野なので、古い本は基礎を勉強するくらいしか役立ちませんが、名著は分かり易く理解の助けになることは間違いないと思います。
お気遣いありがとうございます。新しい仕事にも慣れつつありますが、平日は非常に忙しく過ごしています。
ご紹介いただいた2冊ですが日本語の名著のほうを買おうとしたら中古で1万4千~7千円、新品で2万円の値がついているので、とりあえず復刊するのを待つことにします。
洋書のほうはリーズナブルな値段で買えますね。Kindle版はなんと1600円。お得ですねー。