精神疾患や知的障害で成年後見人を付けた人に選挙権を認める改正公職選挙法が成立した。
7月の参院選から、約13万6000人に投票の道が開かれることになった。多くの人が投票所に足を運び、1票を投じてほしい。
公選法は、判断能力に欠けるといった理由から、成年後見人の付いた人の選挙権を認めていなかった。この規定について、東京地裁は3月、「法の下の平等に反する」として違憲判決を出した。
判決を受け、自民、公明両党は問題の規定を削除する改正案を国会に提出した。野党も同調し、衆参両院とも全会一致で可決した意義は大きい。判決から2か月余という迅速な対応も評価したい。
成年後見人を付けた人の障害の程度には個人差がある。原告の女性は簡単な読み書きができ、意思表示も可能だ。そもそも一律に選挙権を奪う規定自体に無理があったと言えよう。
今後の運用にあたっては、不正投票に障害者を巻き込まない対策が重要だ。改正法には、特定候補者に投票を誘導するような不正の防止策が盛り込まれた。
自力で投票用紙に記入できない人を助ける代理投票では、代筆役とチェック役の補助者を付け、この2人については、市町村職員に限定するという規定だ。
家族など付き添い人が投票に手を貸すことはできない。参院選は目前に迫るが、各選挙管理委員会は、投票所で適切なサポートができるよう、人員確保などに万全を期してもらいたい。
病院や介護施設などで行われる不在者投票についても、「選管が選んだ立会人を付ける」との努力規定が設けられた。施設職員が入所者に無断で、特定候補に投票する行為を防ぐのが目的だ。
努力規定にとどまり、義務付けが見送られたのは、自治体の体制が整わないとみられるためだ。
だが、東京都のように約1200施設に立会人を派遣する方針の自治体もある。各選管には積極的な対応が求められる。
それにしても、違憲判決に対する控訴をいまだ取り下げていない政府の姿勢は不可解である。
新藤総務相は控訴した際、記者会見で「立法措置がされた場合、訴えの意味は失われる」と述べ、原告側が訴えを取り下げるとの見方を示していた。
原告はやむなく司法に訴え、主張が認められた。政府の対応は不誠実と言うほかない。政府が控訴を取り下げるのが道理である。
(2013年5月30日02時06分 読売新聞)