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「大人しくしていろよ。でないと本当のお人形さんにするからな」
そう言って男の顔が近付いてきた――
数時間前、男に拉致され連れてこられた場所は広いガレージの中だった。シャッターが閉められた内部は真っ暗だったが、すぐにライトが点けられ明るくなった。
奥の壁には棚が設えており、少女がまだ名前も知らないいろいろな道具が並べられている。その中で異彩を放っているのがハンガーにかけられたきらびやかなピンクのドレスだった。
男は明らかに異常だった。ガムテープで口を塞がれた少女を床に転がすと全裸になり「お人形さん、お人形さん」と連呼しながら、少女の着ている服も全部引き剥がした。
口のテープ以外拘束はされていなかったが、ここに連れて来られるまで何度も頬を殴られ、逃げたら殺すと脅されていたので少女に逃げる気力はなかった。
全裸にされるとテープをはがされ、スマホを持った男に写真をいくつか撮られた。その後、椅子に座らされ、再び写真を撮られた。一応、体を捩って抵抗してみたが、男が殴るそぶりを見せたので怖くてじっとするしかなかった。
棚にかかっていたドレスを着せられまた写真を撮られた。肩をはだけさせ、ドレスの裾を大きくめくり上げられ下半身を晒される。男の性癖を感じ、我慢していた泣き声をついに上げてしまった。
「うるせぇっ」
男の一声で少女はぐっと声を押し殺し、心の中でパパとママに何度も助けを求めた。
目の前に迫る男の一部が少女にとっては異常過ぎて、恐怖のあまり目をつぶった。
「目を開けろ」
男に頬を張られ、痛さと怖さに少女は失禁し、気を失った。
目が覚めると小さな穴をたくさん開けたプラスチックの箱の中に手足を縛られ寝かされていた。口にテープを張られ、また全裸にされていたが、タオルケットが敷かれていて冷たくは感じなかった。
ぶつぶつと男の愚痴がどこからか聞こえてくる。
「しょんべんなんかちびりやがって。大事なドレスが染みになっちまうだろうが」
ドレスを拭いているのか、しゅっしゅっと衣擦れの音も聞こえてくる。
少女は縛られた手足が痛くて身悶えした。
衣擦れが止み、縁から男の顔が覗く。
「お漏らしなんかして恥ずかしいねぇ」
にやにや笑っていたが「お人形さんはお漏らしなんてしませんよ」とスッと真顔になる。
その変貌が怖くて少女は目をつぶった。
「大人しくしていろよ。でないと本当のお人形さんにするからな」
男の顔が近付いて熱くて生臭い息を吐きながら頬をべろりとなめた。
少女は頷くしかなかった。
音を立ててふたが閉まる。たくさんの穴から小さな光が入っていたが、照明が消えると真っ暗闇になった
絶望と一緒に閉じ込められた少女の目にもう枯れたと思っていた涙が再び浮かび流れ始めた。