恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
たまにグロ等閲覧注意あり

こどもひゃくとおばんの車 第六話

2019-10-12 10:55:20 | こどもひゃくとおばんの車



               *

 オ人形サン、欲シイ。
 ゼッタイ、ゼッタイ、欲シイ。

               *

 保は人気のない場所を見計らって路上を歩く少女に誘いをかけた。
「きれいなドレスを着たくないかい? あのお姫様のドレスだよ」
 少女は屈託なく笑って「着たい」と言ってついて来た。
 保はやっと自分の人形を手に入れることに成功した。

               *

 由愛は自分に危険が迫っていると感じスピードを上げたが、さっきのように速く走れなかった。
 住宅地ならどこかの家に飛び込めば家人が助けてくれるだろうが、運の悪いことに由愛がいた場所は駐車場や倉庫ばかりの場所だった。この道は保護者会でも安全面で問題があると母親が話しているのを聞いたことがあり、通ってはいけないと言われていたのを今頃になって思いだした。
 角を曲がった由愛はハザードランプを付けて駐車している車を見つけた。『こどもひゃくとおばん』のステッカーが目に入った。運転席に人の影が見える。
 やった。助かった。
 由愛は運転席の窓をどんどん叩いた。書類を見ていた男が顔を上げる。
「助けてください」
 由愛は大きな声で叫んだ。
「どうしたの?」
 窓ガラスを下ろして運転手が訊いた。
「へんな人に、追いかけられているんです」
 由愛は息を切らして後ろを振り向いた。
 追いかけてきた男は立ち止まってこちらの様子を見ている。
 運転手が扉を開けて降りてくれた。
「おいっ」
 その声を聞いて男は植込みに身を潜ませた。
「ここにいるんだよ」
 由愛の肩をぽんぽんと叩くと運転手が男に向かって走った。今度は逆に男が逃げる番だった。植え込みから飛び出すともと来た道を一目散に逃げた。
 由愛はほっと胸をなでおろした。
「逃げ足が速いな」
 運転手はネクタイを緩めながら戻ってきた。
「大丈夫? 警察に電話しなくていいかい?」
「いいです。帰ってお母さんに相談します」
「そう。あいつがまた来るといけないから送ってあげようか。お兄さんもう仕事終わって帰るところだから」
 由愛はしばらく考えて、「えっとぉ、お願いします」と遠慮気味に答えた。そんなことまでしてもらっては悪いととっさに思ったが、男に腕をつかまれた瞬間を思い出して恐怖が蘇ったのだ。
「じゃ後ろに乗って」
 運転手はドアを開けた。由愛はぺこりとお辞儀をしてから後部座席に乗り込んだ。
 製薬会社の名前が書かれた白い車はゆっくりと発進した。

こどもひゃくとおばんの車 第五話

2019-10-11 11:42:29 | こどもひゃくとおばんの車



               *

 カワイイ、カワイイ、オ人形サン。
 モウ一体、欲シイ。
 ゼッタイ、欲シイ。

               *

 保は路上で見つけた人形――少女を手に入れようと考えた。そのためにインターネットの環境も整えた。少女のために準備するためだ。
 自分の欲していたものが何なのか理解した今、妹が持っていたようなただの人形にもう興味はなかった。
 そして少女に似合うレース飾りのたくさんついたドレスをネットで購入した。
 あの子がこれを着たらさぞかわいいだろうな。
 ハンガーにかけたドレスを見ながらうっとりする。
 そして、妹の人形がきれいなくるくる巻き毛の金髪だったことを思い出し、ウィッグも購入しようとパソコンの前に座った。

               *

「じゃ、またお願いします」
 笹本は受付にいる薬剤師に頭を下げ玄関を出た。
 きょうは注文なしか。
 大振りの手帳にチェックを入れて閉じると営業車に戻った。次の病院を回ったらきょうの午前中の仕事は終了だった。
 笹本は医薬品のルート配送をしていた。担当の病院を回り、注文を聞いてそれを配達する。簡単そうでそうでもなかった。新製品の売り込みはしないがドクターの機嫌を損ねてはいけないし、看護師たちや薬剤師たちにも気に入られるようにふるまわねばならない。必然的にストレスが溜まってくる。
 笹本は運転席に座り大きく伸びをした後、車を発進させた。

こどもひゃくとおばんの車 第四話

2019-10-10 10:57:53 | こどもひゃくとおばんの車



               *

 由愛は走って逃げていた。家に帰る途中、物陰から急に出て来た男に腕をつかまれたのだ。ドレスがどうのこうの言っていたが気持ち悪くて力いっぱい振り払った。
 だが男がしつこく捕まえようとしてきたので、脇をすり抜け走って逃げた。友達の家から帰る途中の出来事だ。友達のお母さんが送ってあげると言ってくれたが由愛は気を遣って断った。まだ空は明るかったので危険はないと思った。
 やっぱり送ってもらえばよかった。
 由愛は後悔した。肩から掛けたポシェットに防犯ブザーはつけていない。母親から一人で出かける時は必ず持つように言われていたのに、ランドセルから外すのが面倒で持ってこなかったのだ。
 こんな時に限って通行人もいない。
 息が上がってスピードが落ちてきた。由愛は振り返ってまだついて来ているか確かめた。男はにやにや笑って距離を縮めてきた。

こどもひゃくとおばんの車 第三話

2019-10-09 11:26:22 | こどもひゃくとおばんの車



               *

 モウ一体、オ人形サンガ欲シイナ。
 二体並ンダラ、カワイイダロウナ。
 ドコカニ、イナイカナ。

               *

 とうに大人になり、誰にも邪魔されない一人暮らしをしても保は人形を手に入れることはなかった。もちろん欲求は消えてはいない。むしろ抑制された分、沈殿物は濃厚になりさらに強まっていた。
 だが、大の男がよだれを垂らさんばかりにおもちゃ売り場で人形を購入するなど、刷り込まれた罪の意識が許さなかった。
 保は全く興味を覚えない結婚を考えたこともあった。子供が出来たら堂々と人形を購入できる。だがリスクもある。生まれた子が男の子だったら? 欲しくもない妻に欲しくもない男の子――独身でいたほうがまだマシだ。
 やがて保はネットオークションの存在を知り、そこで人形を手に入れれば誰にもわからないと考えた。
 インターネットを始めよう、そう決心した矢先、保は本物の少女人形を路上で見つけた。


こどもひゃくとおばんの車 第二話

2019-10-08 11:35:58 | こどもひゃくとおばんの車



              *

「大人しくしていろよ。でないと本当のお人形さんにするからな」
 そう言って男の顔が近付いてきた――

 数時間前、男に拉致され連れてこられた場所は広いガレージの中だった。シャッターが閉められた内部は真っ暗だったが、すぐにライトが点けられ明るくなった。
 奥の壁には棚が設えており、少女がまだ名前も知らないいろいろな道具が並べられている。その中で異彩を放っているのがハンガーにかけられたきらびやかなピンクのドレスだった。
 男は明らかに異常だった。ガムテープで口を塞がれた少女を床に転がすと全裸になり「お人形さん、お人形さん」と連呼しながら、少女の着ている服も全部引き剥がした。
 口のテープ以外拘束はされていなかったが、ここに連れて来られるまで何度も頬を殴られ、逃げたら殺すと脅されていたので少女に逃げる気力はなかった。
 全裸にされるとテープをはがされ、スマホを持った男に写真をいくつか撮られた。その後、椅子に座らされ、再び写真を撮られた。一応、体を捩って抵抗してみたが、男が殴るそぶりを見せたので怖くてじっとするしかなかった。
 棚にかかっていたドレスを着せられまた写真を撮られた。肩をはだけさせ、ドレスの裾を大きくめくり上げられ下半身を晒される。男の性癖を感じ、我慢していた泣き声をついに上げてしまった。
「うるせぇっ」
 男の一声で少女はぐっと声を押し殺し、心の中でパパとママに何度も助けを求めた。
 目の前に迫る男の一部が少女にとっては異常過ぎて、恐怖のあまり目をつぶった。
「目を開けろ」
 男に頬を張られ、痛さと怖さに少女は失禁し、気を失った。
 目が覚めると小さな穴をたくさん開けたプラスチックの箱の中に手足を縛られ寝かされていた。口にテープを張られ、また全裸にされていたが、タオルケットが敷かれていて冷たくは感じなかった。
 ぶつぶつと男の愚痴がどこからか聞こえてくる。
「しょんべんなんかちびりやがって。大事なドレスが染みになっちまうだろうが」
 ドレスを拭いているのか、しゅっしゅっと衣擦れの音も聞こえてくる。
 少女は縛られた手足が痛くて身悶えした。
 衣擦れが止み、縁から男の顔が覗く。
「お漏らしなんかして恥ずかしいねぇ」
 にやにや笑っていたが「お人形さんはお漏らしなんてしませんよ」とスッと真顔になる。
 その変貌が怖くて少女は目をつぶった。
「大人しくしていろよ。でないと本当のお人形さんにするからな」
 男の顔が近付いて熱くて生臭い息を吐きながら頬をべろりとなめた。
 少女は頷くしかなかった。
 音を立ててふたが閉まる。たくさんの穴から小さな光が入っていたが、照明が消えると真っ暗闇になった
 絶望と一緒に閉じ込められた少女の目にもう枯れたと思っていた涙が再び浮かび流れ始めた。