学生の頃通ったジャズ喫茶は、何年も前に店をたたんでいた。
お世話になった、学生に人気の中華屋さんは今も健在だ。
久しぶりに食べたラーメンは、古い絨毯の匂いがした。
親父さんも奥さんも、老けたなー。
好天に誘われて、懐かしい場所を歩いてみた。
あ、この香り。
こじんまりとしているが、落ち着いた雰囲気の住宅は健在だった。
庭から香る金木犀の甘い香りは、淡い恋の記憶に重なった。
焦燥と失望、期待と夢が、心をマリオネットのように操っていた青春という名の、残酷で気恥ずかしい時代。
毅然と自分史と対峙し、わたしは戸惑いながらも『君』という迷路を抜け出せないでいる。