「バー蓄音機」なんです

浪花の蓄音機隊・隊長のバーなんです
近鉄奈良線・八戸ノ里(06ー4307ー0080) 火曜定休19時〜23時

2013年03月26日 21時48分31秒 | 日記


ー東京はええじゃろうなあ。

浩は優しく純子に声を掛けた。白い歯が少し覗いている浩の横顔が、純子は大好きだ。
浩の表情に寂しさを感じとった純子は、とっさに言葉を重ねた。
ー新幹線があるけん、近い近い。

小さな漁船を舫ったロープが、浜にいく筋も見える。話し込んでいるうちに、辺りはすっかり薄暗くなった。
古い港の対岸の輪郭が霞んでいく。

ー純ちゃん・・・

浩は港へ戻る漁船から視線をそらさずに呟いた。言葉が続かない自分が、もどかしかった。

ーわたし浩君の事、好きじゃけんね。

足の下で小石が鳴った。浩は純子の甘い香りを感じながら、腕に力を込めた。甘い香りが目の前まで近づき、冷たい夜風が彼女の髪を揺らせた。

東京へ出た純子とは急速に疎遠になり、地元で就職した浩は車に夢中になった。

最後の春休みに見た鞆の夕暮れは、浩の瞼に今も焼き付いている。