面白かったです。恋愛小説、って触れ込みですが、売れない舞台脚本家でヒモ的な男の日々の焦りや、こじらせ自意識、劣等感などが中心になっているお話でした。
過去に、何らかの「作る」仕事を目指した男性なら共感してしまう処が少なからずあるんじゃないかな・・・。4つ★~半
この小説にはキスシーンやベットシーン、性的な表現描写は一切ありません。そこらへんも潔くて好きでした。
そういうシーンが全く無くても、しっかり恋愛が描けていたし、本当は泣きたくないんだけど、切なくて、ぐっと来てしまうシーンもありました。でも、このカップルって、共依存っぽかったなあ・・。
ヒロインの沙希ちゃんて子がね、もうーーありえない位いい子なんですよ!!。
売れない舞台作家の永田と、青森出身で服飾系の大学生の沙希ちゃんは、たまたま同じお店のウィンドウを見ていた時に、なにげなく永田に声をかけられます。「靴同じやな」って唐突に言われて、否定されるも、「あした、遊べますか?」「今日は、もう暑いから、あした涼しい朝から遊べるかな?と思いまして」
その後も「さっきタンクトップを買ってしまったため、今は、お金はないので、おごれないので・・」とか、支離滅裂っていうか、異常者?って思われてもしょうがないような事を言うんだけど、物好きとしか思えない沙希は、結局一緒に喫茶店に行って、おごってあげるんですよ。
最初は変質者で殺されるかも?と恐怖感を持ったものの、不器用過ぎる言葉のやり取りで、永田が悪人ではなさそうだし、カフェで話していたら、永田が演劇の脚本を書いていることが解ります。
沙希ちゃんは高校で演劇部だったし、本当は女優を目指して東京に出て来ていたんだけれど、もうそれは無理だと諦めていたんですね。(最後204頁で、沙希ちゃんの気持ちが明かされます「わたしはずっと諦めるきっかけを探してたんだよ。略 永君のおかげで、みじめな気持ちじゃなくて東京を楽しい気持ちで歩けたんだよ。永君いなかったら、もっと早く帰ってた、絶対。だから、ありがとう」)
だから、一度は目指した演劇という業界で仕事をしているという男に興味を持つのも、うなずけます。
沙希ちゃんは友達も多く、まっすぐで素直で無邪気な性質。そして女優目指していたことからも解る通りルックスも絶対可愛いんですよ。そして働き者で、料理も早くて上手いし、男をたてるし、控え目だし、いつも笑顔で、永田の言うことなすことを、凄い!ってほめてくれて。
もうーーこんな女子、おるんですか?って位のいい子なんです。
かたや永田は・・・。でもこういう人、芸術家とかアーティストには、沢山いるんだろうなあ・・・と思いました。
そういった人の側に、こういう健気な彼女さんが、いらっしゃるんだろうなあ・・・って。
又吉もかつて、こういう彼女がいたんでしょうね。
よくお笑い芸能人の人が、売れなかった頃自分を支えてくれた昔の彼女は今?・・みたいなTVの企画で、やっぱりそれらの尽くしてくれた彼女さんたち、みんな良い子っぽかったもの。
でもね、長年苦楽を共にした後、売れっ子になって、やっと彼女に色々してあげられるようになった頃、若い新しい女性が・・・ってパターンも結構ありますよね。そういうの、悲しすぎます・・。
さて、小説に戻り
2人が同棲してからは、一緒に舞台衣装を作ったり、永君の書きあげた脚本を読んで感想を言ったり、永田の持って来た音楽のCDを自然と沙希ちゃんが好きになって一人の時にも聞いていたり、知らないうちに2人の音楽の好みが同じになっていたとか、とても良い時代もあったわけなんです。ただ、たまに理不尽に永田は不機嫌になったり、沙希は何も悪くないんだけど、彼女の無邪気さに救われる時もある反面、イラつかせられたり、自分に嫌悪感を抱かせられたりするのでした。
あるとき、沙希は学校の同級生からバイクを譲り受けるんですね。それをはしゃいで永田に見せるんだけど、永田はそのバイクをくれた男に対して捻じれた嫉妬心があって、喜べず、結局バイクを自らわざと壊してしまうんですよ。
後に、そのバイクの元持ち主の男性が、「学校を卒業して故郷の実家に帰った後も、思い出の原付には、東京の街を走っていてもらいたかったと、落ち込んでいた」ってのが、哀しくてね・・・。
永田がほぼフリーターで、沙希ちゃんちにヒモ状態で居座っていても、沙希ちゃんは嫌な顔一つせず、それどころか、風呂上りには麦茶と梨のむいたやつを出してくれるんですわ!!
やがて、高円寺に部屋を借りた永田は、気が向いたときに、ふらっと沙希ちゃんの家にやってくるようになります。飲んだ帰り等、気持ちが大きくなった時に、ぷらっと。それでも沙希は、ひたすらいい彼女のままです。
132頁、飲み会の帰り、夜中に寝ている沙希ちゃんのところにやってきた永田に「疲れたでしょう?梨買ってあるよ」「ここが一番安全です」「梨のあるところが一番安全です」って言うんです。
沙希ちゃんがアルバイトしていた居酒屋さんには、永田も認め、嫉妬心も湧くほど才能ある演劇軍団と小峰、元同じ劇団員でライターをしている青山も出入りしていた。
それも良くなかったかなあ・・・。
沙希ちゃんを好きになった男も数人いたようで、店長とも一時くっつきそうになったのだけれど、普段ぞんざいに扱っているクセに、いざ沙希ちゃんを失いそうになると、永田は店長の住むマンションまで突き止め、沙希の自転車のベルを鳴らし続け、外に出させ、後ろに乗せて、凄く優しい言葉を吐き続け、結局沙希とよりを戻すのでした。
出会ってから、何年が経ったのか・・・、後半の方で27歳ってところがあったので、大学生の頃知り合ったわけだから、その時4年生だったとしても、すでに5年以上は経ってたのかな・・。
いい加減、疲れて来た沙希ちゃん、昼間はブティックで、夜は居酒屋で働く(これ、無理よー。立ち仕事をずっと一日中するのは、ほんとにキツイ)のを辞めてしまいます。
メンタルに来ちゃった様子で、結局故郷にちょっと戻ってみます。
実家にしばらくいたら、ずいぶん元気になって、故郷で仕事につき、本格的に東京を離れる決意をします。
最後、東京で住んでいた部屋を引き払うに当たって、ちょこっと上京し、永田と部屋の片づけなどをしながら
そこで、また永田は、凄く優しい言葉を・・・
将来お金が一杯入ったら2人で、あれして、これして、あそこに行って・・・って夢物語を語るのでした。
とても面白かったし、純文学的な表現やフレーズもたくさんあって、又吉さすが、って思いました。
でも、前作も本作も、彼が経験した事や現在おかれている状況からの内容なので、彼とは全く関係のない職業の登場人物の小説、みたいのもぜひ読んでみたいです。
「劇場」 2017/5/11 又吉 直樹
又吉直樹
劇場
火花
島本理生さんの「夏の裁断」は、未読なのです。
芥川賞を、火花と争った作品なのですね。
今度読んでみようかなー。
島本さんといえば、ナラタージュが今度映画化されるそうですね。
火花も面白かったのですが、劇場も、なかなか良かったですよ!
私は、又吉さんと相性が良いのかもしれません。
はまかぜさんの感想も、ぜひ読ませていただきたいです!!
回りで読んだ人がだれもいないので、ぜひぜひ!
「劇場」、面白そうですね
私は「火花」を読んだ時に文章が予想以上にしっかりしていて面白いのに驚きました。
島本理生さんの「夏の裁断」を直接対決で破って芥川賞を受賞したのも不思議はないかもと思いました。
ただ後に「夏の裁断」を読んだ時に、やはり文章力は島本理生さんのほうが優れていると思いました。
「火花」を読んでから2年経ち、又吉さんの文章がどうなったのか凄く興味を持ちました。
latifaさんの感想を読んで作品もかなり面白いのではと思いました。
私もいずれ読んでみたいと思います