文藝春秋に、第158回芥川賞受賞作が2つ載っていたのを読みました。
内容あらすじ、ネタバレで書いていますので注意です。
「百年泥」
インドで日本語教師をする女性と、過去に色々あった生徒、大洪水の街の様子、そういったお話に、なぜかファンタジー的なお話が混ざっている小説でした。
インドの会社で、日本語教師を数年することで、借金返済をしている主人公。
生徒たちは、国内でエリートぞろいではあるものの、授業を受ける態度は幼く、中でもデーヴァラージという美形で、抜きんでて優秀な生徒は、日々彼女にカチンとさせる発言や行動をするのでした。
ここチェンナイは、100年に一回の洪水と言われる状態で、市内は浸水し、100年溜まった泥がむき出しになり、その中には、ゴミに混ざって、かつていなくなった人間や、ボトルのお酒山崎や、無くなった物など、様々な物が入っている。
ファンタジー部分は、自家用の翼を持った一部の特権階級の人が空を飛んで通勤するとか、泥の中に入っていた、行方不明になっていた若い時分のままの人と久しぶりに再会する人達とか、自分の母は「人魚」だと思っていたりとか、その無口な母の日常の有りえないような様子とか・・。
それと同時に、フィクションではないインドでの現実。
駆け落ちをした人間の家族が名誉殺人するとか、女の子が生まれるのを嫌って行われた数々の事とか、それらの事と、いっしょくたんに語られる。別に悪くはないんだけれど・・・
そして、デーヴァラージの幼い頃の出来事が、結構ぐっと来ました。
大阪万博のコインにまつわるエピソード。
そもそもは、盗賊が、自分の宝物にしていたコインを、子供によく効く薬を渡した彼に、くれたものでした。
その後、亡くなった母を、ベナレスで火葬したくてもお金が無くて、父親から、観光客からお金を盗むように言われるのだけれど、逆になりゆきでやった行動を日本人の観光客に感謝され、その際、日本人は少年のコインに目が留まり、色々語ることになります。
日本人観光客が幼い頃、早くに亡くなった母と最後に一緒に行ったのが、その万博で、思い出深い特別なものでした。
そして、少年の母の火葬にお金を出すこと、それは母への「供養」にもなる、とのことでした。
百年泥 石井遊佳
内容(「BOOK」データベースより)
チェンナイで百年に一度の洪水!アダイヤール川氾濫、市内ほぼ全域浸水か。橋の下には猛烈な勢いで逆巻く川、橋の上にはそれを見物しに雲集したとてつもない人びとの群れ…こうなにもかも泥まみれでは、どれが私の記憶、どれが誰の記憶かなど知りようがないではないか?洪水の泥から百年の記憶が蘇る。
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おらおらでひとりいぐも
岩手弁なのかな? とっても読みにくくて、挫折しそうになったものの、面白くないわけじゃないので、若干方言の部分は、若干飛ばし読み(すいません!)しながら読みました。
最愛の夫を亡くした主人公の74才の桃子さん。一人暮らしをしています。
寂しさから激しく一人で踊ってみたり、誰かと話したくて病院に行ってみたり・・
疎遠になっていた娘が最近電話をくれたり、孫を連れてやってきたり、近くにあったスーパーが閉店してしまって買い物に困ってるだろうと、10日に一回買い物に連れて行ってくれることになったりと、とても嬉しく思っていたのだけれど・・・
孫が絵の教室に通うのに、ちょっとお金を貸してもらえないか?と言われる。突然言われて、桃子さんが、一瞬躊躇したら、「お兄ちゃんにはお金すぐ出したのに!」と、怒って電話を切られてしまうのでした。桃子さんは、かつてオレオレ詐欺に引っかかった過去があるのでした。
桃子さんは、子供たちに、自分の望む事をさせてしまった、という負い目と後悔があるのでした。
それは自分も母親にされた事だったのに。
自分がやりたいことは自分がやる。子供に仮託してはいけない。仮託して、期待という名で縛ってはいけない。
と、自らをい戒めるのでした。
桃子さんも若い時、親の干渉にウンザリしており、故郷から一人都会に出て行った過去があるのです。
そこで、夫と知り合い、結婚することになるのです。カッコイイのに、同じ故郷の方言を使っているのを知って、好きになるんですよねー。その後も仲睦まじく良い夫婦だったことが、この小説から感じられて、凄く桃子さん幸せ者ですねー。
最後は、孫とお喋りをしている時に、孫から聞いた「お母さん興奮すると方言になるんだよ」という言葉。
そして、ママ、いつも、おじいちゃん(死んだ夫が、孫2人の事を)まぶっているよ(見守ってくれてるよ)って言ってる事を聞くのでした。(娘が生まれ育ったのは田舎ではなく、都会で暮らしていたのですが、ちゃんと引き継がれていた)
印象に残ったところ
広い家に母ちゃんひとりが取り残された。一回りも二回りも小さくなって、もう何の役にも立たないと嘆いていたが、なんの、桃子さんにしてみれば、あの頃の母に一番力づけられる。 あの後、あの家で一人で23年生きた。
桃子さん、自分の老いはさんざ見慣れている。だども娘の老いは見たくない。(仏壇に手を合わせる娘の姿を見て、娘に初めて老いを感じるシーン)
おらおらでひとりいぐも (2017/11/16) 若竹千佐子
「おらおらでひとりいぐも」は題名が印象的で気になっていました。
私は、私で、一人行くという意味のようですね。
主人公が74才というのも年齢が高く、若い世代とは時間の流れが違うのか興味深いです。
若い作家が注目されることはよくありますが、高齢の作家が注目されるのも面白いと思います。
今年は、桜の開花が早いですねー。
来週半ばには満開になるのかなー?
はまかぜさんも、タイトルが印象に残っていましたかー。
作家さんは、まだ60代の可愛らしい女性の様です。
高齢の女性のお話ですが、力強いというか、東北の女性の芯の強さみたいのを感じる小説でした。
60過ぎて小説家デビュー、芥川賞受賞っていうのは、なんだか嬉しくなります。
コメントありがとうございました。
タイトルがとても印象的ですよね。
宮沢賢治が好きな身としては嬉しかったです。
と言っても出たばかりの時はタイトルだけ嬉しくて読んではいなかったのですが芥川賞を受賞したことで手に取ったミーハーな奴です^m^
桃子さんは色々あったと思いますが、それでも幸せなんだと思います。大好きな人と添い遂げることが出来るなんて幸せです。
疎遠と言いつつも孫が来てくれるなら疎遠ではないですよね。
ラストが素敵で良かったです。
私も、芥川賞受賞ということで、手に取った人間ですよー^^
桃子さんは、かなり幸せな人生だった(まだ過去形じゃないけどね)と私も思いました。
宮沢賢治は、年を取ってから、良さが解る様になりました。
若い頃は、彼の良さが、まだ解らなかったんですよ。
今年は、直木賞も宮沢賢治関連ですもんね。
リクエスト待ち中で、楽しみにしてるところです。