なかなか重みのある内容で、夢中で読ませてもらいました。4つ★半
ジャーナリストとはどうあるべきか、報道する者のジレンマ、責任、周りに与える影響、等々について書かれていて、読み応えが有りました。
米澤さんって、かつて記者だったのだろうか?と思う程。
予備知識無く読んだので、もっとフィクションの推理小説だと思っていたのですけれども(いや、そういう部分もあるのですが)そういった部分よりも、強いメッセージを含んだ上記の部分が印象的でしたねー。
中盤、太刀洗マチと、ラジェスワルの対面シーンがあります。
ラジェスワルは、「自分に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ。この国をサーカス(見世物)にするつもりはないのだ。もう二度と」と言い、ジャーナリズムについて思っていることを、マチに対して直球で話すのでした。
タイトルは、ここから来てるのか・・・と、しんみり・・。
この「人は安全な場所で残酷なニュースを聞きたがるものだ」というのは、自分も含めて、ズバリ言われると、ショックなものですね・・。
それと、91年の雲仙普賢岳噴火の時、43人の死者・行方不明者を出していた・・・。取材のために乗ったタクシーの運転手さん等も巻き込まれていたんですね・・・。その時の教訓から、「安全第一」をかかげる取材がなされるようになったのですね・・。
物語の舞台がカトマンズだったのですが、私は今から30余年前より、ネパールに行きたくて、計画も立て、ガイドブックまで買った位でした。なので、この王宮で大勢人が亡くなった事件も、当時リアルタイムで聞いてショックを受けたものでした。
昔は、大阪からカトマンズに直行便が飛んでいたものの、2008年以後はそれもなくなってしまいましたし、2015年には大規模地震まで起き、多くの寺院や歴史的建造物や、古く風情のあった街も大半が崩壊してしまったんですよね・・。あれから2年がたっても、なかなか復旧されないままみたいで、悲しいです。
かたや、30年前、やはり凄く行ってみたかったけれども、遠い国だったベトナムが、今や直行便含め、沢山の飛行機が飛ぶようになり、安い値段でたくさんのツアーが有り、気軽に行ける観光地になるとは・・まったく想像もついてませんでした。
★以下ネタバレ★
ラジェスワルと王家事件は無関係でした。ラジェスワルを殺したのは、なんと日本人の八津田坊さんでした!
坊さんと彼は薬物の仕事をしていましたが、ラジェスワルがこの仕事からそろそろ足を洗いたくなり・・・。ホテルに泊まっていたアメリカ人の旅行者ロブからピストルを盗み、それを使って殺したのでした。
殺した場所は、マチとラジェスワルが密かに会った薄暗い場所のクラブ・ジャスミンでしたが、少年サガルは目撃していました。
サガルは、死体の背中に「密告者インフォーマー」の細工をし、リヤカーに積んで運んで行って、車の陰になるようにかくしておいて、マチが目に留まるような時を見計らって置いたのでした。
それは、マチにスクープ(お金になるようなネタ)を提供してあげようという気持ちと、その刺激的な写真や、彼女の記事報道によって、一時は話題になるかもしれないが、後に本当の事実(王の事件とはまるで無関係な死体だった)が発覚した時に、マチが叩かれることになれば良い、みたいな黒い気持ちがあってのことだったのでした・・。
逞しく生きる少年サガル、中盤までは、なんだかんだで、ちょっとした知り合いというか・・金目当てではあるものの、少し仲良くなったのかな・・・なんて、甘っちょろい風に思っていただけに、ショックでした・・。以上
サガルは、カメラマンやジャーナリスト等を憎んでいました。絨毯工場で働いていた彼の兄は、その労働状態がひどいという報道がなされたため、工場が閉鎖、慣れない雑品集めの仕事中、けがをして、そこから黴菌が入って、あっけなく亡くなったし、
ネパールの子供たちが医療状況が悪いため、幼くして亡くなる率が高いことが報道されてから、援助がなされたりして、確かに亡くなる率は下がった。でもそのせいで、子供の人口が増え、それに併せた職もないわけで、結果生活が厳しくなったと言うのでした。
興味本位で話題になるからと、不確かなニュースを流すのは、辞めてもらいたいですね。
でも、良かれと思って報道した事が、よこしまな気持ちではなく撮った写真が、後に思わぬ方向に・・・って事もあるのは、予測できないだけに難しいですね。
王とサーカス 2015/7/29
米澤 穂信
内容(「BOOK」データベースより)
二〇〇一年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり…。「この男は、わたしのために殺されたのか?あるいは―」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?『さよなら妖精』の出来事から十年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生をも左右するような大事件に遭遇する。
太刀洗シリーズを、初出順に並べると、
正義漢
恋累心中
名を刻む死
ナイフを失われた思い出の中に
真実の10メートル手前
王とサーカス
綱渡りの成功例
という風になるらしいです。
米澤穂信さんの他の本の感想
「真実の10メートル手前」
「満願」
王とサーカス、読み応えがありましたよね。
この作品でキーとなっていた事件は全く知りませんでした。テレビで当時あまり放送されていなかった気がします。
太刀洗と少年の関わりが良いなと思っていたのに、見事に裏切られましたね。
自分はぬくぬくと生きているんだなと思いました^^;
ライブドアではトラックバック機能が廃止となったようです。今まであったものが無くなってしまうと何だか違和感があって何だか寂しいです。latifaさんもいつもしてくださっていたのに。
これからもごひいきにお願いいたします^^;
札幌や北海道の方が、関東よりも暑いみたいで、急な温度上昇、まいりますね・・・。
ネパール王家の事件は、あんまりTVとかで報道していませんでした。ワイドショーとかでも全然取り上げなかった。スキャンダラスで、みんなが飛びつきそうな事件なのにね。私は第一報は、いつも聞いているFMラジオのニュースで聞いて、その後も、ちょこっとしか報道してなかったです。
古典部の面々、そうなのねー、苗坊さんと同年代なのですね?(彼らは小説の中で若いままだけど) それは嬉しいというか、親近感増しますよね。なんでだろうか・・・小説もアニメも途中で挫折しちゃったんですよ。今度確か映画にもなるとか。
>ライブドアのブログでトラックバックが廃止
そうなんですか。でも、過去のTBは残っているみたいで、根こそぎ消えてないのは、まだ良心的かも・・・。
どこだったか忘れましたが、すべてが消えてしまった処もあったはずです。
これからも今までと変わらず、お邪魔しますよー、よろしくお願いします