リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 六十八 豊玉毘売命の出産



古事記 上つ巻 現代語訳 六十八


古事記 上つ巻

豊玉毘売命の出産


書き下し文


 是に海神の女、豊玉毘売命、自ら参出て白さく、「妾已に妊身めり。今産む時に臨りぬ。此を念ふに、天つ神の御子は、海原に生みまつるべくあらず。故参出で到りつ」とまをす。尓して即ち其の海辺の波限に、鵜の羽を以ち葺草と為し、産殿を造る。是に其の産殿、未だ葺き合へぬに、御腹の急きに忍へず。故、産殿に入り坐しつ。尓してまさに産まむとする時に、其の日子に白して言さく、「おほよそ他し国の人は、産む時に臨み、本つ国の形を以ち産生む。故、妾今本の身を以ち産まむとす。願はくは、妾をな見たまひそ」とまをす。是に其の言を奇しと思ほし、其の方に産む窃かに伺ひたまへば、八尋和邇に化りて、匍匐ひ委蛇へり。見驚き畏みて、遁げ退きましき。


現代語訳


 ここに海神の女、豊玉毘売命(とよたまびめのみこと)が、自ら参出(まいず)ていうことには、「妾は已(すで)に妊身(にんしん)しています。今から産む時に臨みます。これをおもうに、天つ神の御子(みこ)は、海原(うなはら)にて生むべきではありません。故に、参出到ました」と申しました。尓して、即ち、その海辺の波限(なぎさ)に、鵜の羽をもちい葺草(ふきぐさ)とし、産殿(さんでん)を造りました。ここにその産殿、いまだに葺きおえる前に、御腹がさしせまり忍ぶことができず。故に、産殿にお入りになりました。尓してまさに産もうとする時に、その日子(ひこ)に申していうことには、「おほよそ、他し国の人は、産む時に臨み、本の国の形をもち産みます。故に、妾は今、本の身をもち産みます。願はくは、妾を見ないでください」と申しました。ここにその言を奇(あや)しと思い、その方(みざかり)に産むを窃(ひそ)かに伺ってみると、八尋(やひろ)和邇(わに)に化(な)って、匍匐(ほふく)し委蛇(いだ)していました。見て驚き畏(おそれ)みて、遁(に)げ退きました。



・参出(まいず)
参上する
・波限(なぎさ)
波打ちぎわ。渚
・葺草(ふきぐさ)
屋根を葺く茅(かや)などの草
・産殿(さんでん)
お産をするための御殿。御産所。うぶや
・日子(ひこ)
日の神の子孫。皇族
・方(みざかり)
ちょうどさかりであること。まっさかり
・八尋(やひろ)
いくひろもあること。非常に長いこと。また、非常に大きいこと
・和邇(わに
記紀の日本神話や風土記等に登場する海の怪物
・匍匐(ほふく)
腕や足を使いながら腹ばいで前進すること
・委蛇(いだ)
まがりくねった様


現代語訳(ゆる~っと訳)


 ところで、海神の娘・豊玉毘売命が、自ら参上して、「私はすでに妊娠しています。今から出産にのぞみます。

思いますに、天津神の御子は、海原で生むべきではありません。それで、参出いたしました」といいました。

そこで、すぐさま、その海辺の波打ちぎわに、鵜の羽を屋根を葺く草の代わりとして、お産をするための御殿を造りました。

ここでその産屋の屋根が完成する前に、御腹の痛みがさしせまり耐え忍ぶことができず、産屋にお入りになりました。

まさに産もうとする時に、その火遠理命に、「おほよそ、他国の人は、産む時に臨むと、本国の姿で産みます。そこで、私も今、本来の姿になって産みます。どうか、私を見ないでください」といいました。

ところが、火遠理命はその言葉を不思議に思い、そのまさに出産する時を、密かにのぞいてみると、豊玉毘売命は、非常に大きいワニになって、腹ばいになって、身をくねらせていました。

火遠理命は、見て驚き恐ろしくなって、逃げ出されました。



続きます。

読んでいただき
ありがとうございました。



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