古事記 上つ巻 現代語訳 四十四
古事記 上つ巻
国譲り
天照大御神の命
書き下し文
天照大御神の命以ち、「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国は、我が御子正勝吾勝勝速日天忍穂耳命知らす国」と、言因さし賜ひて、天降したまふ。是に天忍穂耳命、天の浮橋に多多志て詔りたまはく、「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国は、伊多久佐夜芸弖有那理」と告りたまひて、更に還り上り、天照大神に請したまひき。尓して高御産巣日神・天照大御神の命以ち、天安河の河原に八百万の神を神集へに集へて、思金神に思はしめて詔りたまはく、「此の葦原中国は、我が御子の知らす国と、言依さし賜へる国なり。故此の国に道速振る荒振る国つ神等の多に在りと以為ほす。是れ何れの神を使はしてか言趣けむ」とのりたまふ。尓して思金神と八百万の神議りて白さく、「天菩比神、是れ遣はすべし」とまをす。故天菩比神を遣はしつれば、大国主神に媚び附き、三年に至るまで復奏さず。
現代語訳
天照大御神(あまてらすおおみかみ)の命をもちて、「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国(とよあしはらのちあきながいほあきのみずほのくに)は、我が御子・正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)知らす国」と、言因さし賜いて、天降りさせました。ここに、天忍穂耳命は、天の浮橋にたたれて、仰せになられ、「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国は、伊多久佐夜芸弖有那理(いたくさやぎてありなり)」とおっしゃられ、更に還り上り、天照大神に申しました。しかして、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)・天照大御神の命をもち、天安河 (あまのやすのかわ ) の河原に、八百万(やおよろず)の神を神集えに集えて、思金神(おもいかねのかみ)に思はしめて仰せになられ、「かの葦原中国は、我が御子の知らす国と、言依さし賜へる国である。故に、かの国に道速振(ちはやぶ)る荒振る国つ神らが、多く在り。これ、何れの神を使わして言趣(ことむ)けむ」とおっしゃられました。しかして、思金神と八百万の神議りて(かむはかる)もうすには、「天菩比神(あめのほひのかみ)、これを遣わすべきです」といいました。故に、天菩比神を遣わしましたが、大国主神に媚び附き、三年に至るまで復奏(ふくそう)しませんでした。
・豊葦原之千秋長五百秋之水穂国
(とよあしはらのちあきながいほあきのみずほのくに)
葦が生い茂って、千年も万年も穀物が豊かにみのる国の意。日本国の美称
・知らす
「知る」の尊敬語。お治めになる。統治なさる。ご支配になる
・言因さし
ことよせる・委ねる。事を行なう口実にする。つける
・天安河 (あまのやすのかわ)
高天原にあるとされた川の名
・八百万(やおよろず)
非常に多くの。無数の
・道速振(ちはやぶ)
勢いのある、強暴な、荒々しいの意
・神議りて(かむはかる)
多くの神が集まって相談する
・復奏(ふくそう)
繰り返し調べて、天子に申し上げる事
現代語訳(ゆる~っと訳)
天照大御神は、命じて、
「葦が生い茂り、
千年も万年も穀物が豊かにみのる国
日本は、
我が御子・正勝吾勝勝速日天忍穂耳命が
統治すべき国です」と、
委任なされ、
天忍穂耳命を
高天原より葦原中国へと
天降りさせました。
そこで、
天忍穂耳命は、
天の浮橋に立ち、
「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂国は、
ひどく騒めいている」
といい、
また、
高天原に引き返して、
天照大神に相談されました。
そこで、
高御産巣日神と天照大御神は、
命じて、
天安河の河原に、
多くの神々を集めて、
思金神に思い計らせて、
「かの葦原中国は、
我が御子が統治する国であると、
委任し与えた国です。
しかし、
かの国は、
強暴にして、荒ぶる国つ神らが、
多くいます。
これには、
いずれの神を派遣して
平定したらよいでしょうか」
といいました。
そこで、
思金神と多くの神が集まって相談して、
「天菩比神、
これを派遣するべきです」
といいました。
こういうわけで、
天菩比神を派遣しましたが、
大国主神に媚びへつらい、
三年経っても報告をしませんでした。
続きます。
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ありがとうございました。