リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 三十三 根の堅州国 須勢理毘売との結婚


古事記 上つ巻 現代語訳 三十三


古事記 上つ巻

根の堅州国
須勢理毘売との結婚


書き下し文


 是に八十神見、また欺き、山に率入りて、大樹を切り伏せ、茹矢を其の木に打ち立て、其の中に入らしむる即ち、其の氷目矢を打ち離ちて、拷ち殺しつ。尓して亦、其の御祖、哭きつつ求げば、見得つ。其の木を折きて、取り出だし活け、其の子に告りて言はく、「汝は此間に有らば、遂に八十神の為に滅ぼさえむ」といひ、木国の大屋毘古神の御所に違へ遣りつ。尓して八十神覓ぎ追ひ臻りて、矢刺し乞ふ時に、木の俣より漏き逃がして云はく、「須佐之男命の坐せる根堅州国に参向かふべし。必ず其の大神、議らむ」といふ。故、詔命のまにまにして、須佐之男命の御所に参到れば、其の女須勢理毘売出で見、目合為て、相婚はむと還り入り、其の父に白して言さく、「甚麗しき神来たり」とまをす。尓して其の大神出で見て、告りたまはく、「此は葦原色許男と謂ふぞ」とのりたまふ。喚び入れて、其の蛇の室に寝しめたまふ。是に其の妻須勢理毘売命、蛇の比礼を以ち、其の夫に授けて云はく、「其の蛇咋はむには、此の比礼を以ち三たび挙り打ち撥ひたまへ」といふ。故、教への如くせしかば、蛇自づから静まりむ。故、平く寝ね出でましつ。亦来るつ日の夜は、呉公と蜂との室に入れたまふ。且呉公蜂の比礼を授け、教えふること先の如し。故、平く出でましつ。亦鳴鏑を大野の中に射入れ、其の矢を採らしめたまふ。故、其の野に入ります時に、火を以ち其の野を廻し焼く。是に出でむ所を知らさぬ間に、鼠来て云はく、「内は富良富良、外は須夫須夫」と、かく言ふ。故、其処を蹈めば、落ち隠り入りし間に、火は焼け過ぎぬ。尓して其の鼠、其の鳴鏑を咋ひ持ち、出で来て奉る。其の矢の羽は、其の鼠の子等皆喫ひつ。


現代語訳


 ここに八十神(やそかみ)は見て、また欺いて、山に率いて入り、大樹を切り伏せ、茹矢(ひめや)を、その木に打ち立てて、その中に入らせました。すなわち、その氷目矢(ひめや)を、打ち離なして、拷(う)ち殺しました。しかしてまた、その御祖(おや)、嘆きつつ求めると、見つけることができました。その木を折って、取り出だし活かして、その子に、「お前は、ここにいたなら、遂に八十神に滅ぼされてしまう」といい、木国(きのくに)の大屋毘古神(おおやびこのかみ)のところに違い遣(や)りました。しかして、八十神は、求め追いいたって、弓に矢をさし構えた時に、木の俣の間をくぐり抜けて逃して、「須佐之男命(すさのおのみこと)がいらっしゃる根堅州国(かたすくに)へ出向きなさい。必ずや、その大神が、議ってくださるだろう」といいました。故に、詔命(みこと)に従い、須佐之男命の御所に参り到れば、その女(むすめ)の須勢理毘売(すせりびめ)が出できて見て、目合(めあわせ)して、結婚して還り入って、その父に、「甚だしく麗しい神がきました」といいました。しかして、その大神が出で見て、「お前は、葦原色許男(あしはらしこおのかみ)というぞ」といいました。喚び入れて、その蛇の室に寝かせました。ここに、その妻・須勢理毘売命が、蛇の比礼(ひれ)をもって、その夫に授けて、「その蛇が噛みつこうとしたなら、この比礼をもって三度ふり、打ちはらってください」といいました。故に、教への如くしたところ、蛇は自づから静まりました。故に、やすく寝て、出できました。また来るつ日の夜には、呉公(むかで)と蜂との室に入れました。また、呉公と蜂の比礼を授け、教えることは、先の如し。故に、平く出できました。また鳴鏑(なぶりかぶら)を大野の中に射入れ、その矢を採ってくるようにいいました。故に、その野に入った時に、火をその野を廻し焼きました。ここに、出られる所を知らさぬ間に、鼠が来て、「内は富良富良(ほらほら)、外は須夫須夫(すぶすぶ)」といいました。故に、その処を蹈めば、落ちて隠れ入っている間に、火は焼け過ぎました。しかして、その鼠は、その鳴鏑を咥え持ち、出で来て献上しました。その矢の羽は、その鼠の子等が、皆、食べていました。



・茹矢(ひめや)
木を割るとき、その割れ目にはさむ楔(くさび)として用いた補助用具?
・氷目矢(ひめや)
木を割るとき、その割れ目にはさむ楔(くさび)として用いた補助用具?
・木国(きのくに)
紀伊国(きいのくに)は、かつて日本の地方行政区分だった令制国の一つ
・目合(めあわせ)
=まぐわい・1・目を見合わせて愛情を通わせること2・男女が契りを結ぶこと。 みとのまぐわい
・比礼(ひれ)
古代に女子が首にかけ,左右に垂らして用いた一条の布
・鳴鏑(なぶりかぶら)
先のほうに鏑をつけ、先端に鏃(やじり)をつけた矢。飛ぶときに鏑の穴から空気が入って大きな音響を発する
・すぶすぶ
すぼまって狭いさまを表す語



続きます。

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