8年前の話です…。
何だか身体の調子が悪いので、ドクター・シューベルトに相談に行った。
おじいちゃんなので気兼ねが無い。予約などしなくても、待合室に座っていれば順番に診てくれる。
ロサンゼルスには珍しい町医者の鏡だ。耳鳴りがするとか肩が痛いとか言うと、自分も痛いけど年だから仕方が無いと答える。
はっ?(あんたの事はどうでもいいんだよ。私の耳鳴り、治しなさいよ!)と、心の中で叫ぶけど、
どんな時でも騒がないので、(まだ死なないんだな… )と安心できる。
子宮筋腫で入院した時は、手術の後血圧が下がらないのでICUから出してもらえなかったけれど、
ドクター・シューベルトがやって来て大病院の医者達を説得した。
私の血圧は一般病棟に移せば下がると言ったらしい。実際普通の病室に入ったらすぐに下がって、食欲もモリモリ出た。
そのドクター・シューベルトが汗をドッとかいて慌てた。
血糖値を調べたら尋常じゃなく高かったのだ。目が疲れて霞む。急に視力が落ちた。つま先が痺れて時々痛い。
などなどなどと話している内に、ドクター・シューベルトは頭を抱え込んだ。
私のカルテを読み返しウンウン唸っている。
家族に不幸があったかとか、破産したかとか、会社を首になったかとか、的外れの質問をして来る。
(いったいなんなのよぉ~)と思っていると、
今度は妙に優しい声で、もし視力がなくなっても手術で簡単に治るなどと言い出すではないか。
これを聞いて私の血圧はギューンと上昇し、顔と両手が赤くなった。
ドクター・シューベルトが言うには、何もショックな事がないのに血糖値が急に高くなるのはけっこう危険な状態らしい。
私は最近何かショックな事があったか一生懸命考えた。
血糖値に影響するほどショックな事があったのに忘れてしまうなんて。
けれど、いくら考えても思いつかない。悲しいことも気が滅入るようなことも、何にも無い。
私の人生はこれまでずっと54年間平々凡々とハッピーだ。
(あっ!)そうだ。一つだけ … ありました。ちょっと苦労していることが …。
私は2008年の10月から学校に通っている。
大学院で教育学の勉強をしているのだ。
軽い気持ちで始めた週末だけの日本語学校の教師の仕事をきちんと正式なものにするために色々と学んでいる。
その勉強自体も大変だが、カリフォルニア州の教員試験が私には難しくて、
論文の試験に三回落ちてしまった。
(そうそう)、一回目に落ちた時は、読解問題と数学に受かったので全然気にしなかった。
けれど、二回、三回と落ちて、大学院の授業には受からなければ出られないし、
どうすれば受かるのか解らないしで、切羽詰まっていた。
自分ではショックな出来事という認識ではなかったが、
54歳の身体には相当応えたらしい。これ以外の原因は考えられない。
ドクター・シューベルトは糖尿病予防クラスに予約を取った。
私よりショックを受けてあれやこれやと手を打ってくれた。
糖尿病予防クラスの先生はマリリンさんという可愛らしい名前ながら、
身長は私とかわらないのに(158cm)体重は少なくとも1.5倍くらいありそうな巨漢で、
話す時もゼイゼイしている。けれど血糖値には問題無しらしい。
マリリンさんは自分で血糖値を測る方法や身体に良い事悪い事を教えてくれた。
私の目の前でドクター・シューベルトに電話をかけガーガーガーと怒鳴りまくった。
私はその日帰宅して、(あと一回だけ論文の試験を受けよう …
それで落ちたら諦めて、大学院を止めよう …)と、心に決めた。
そして最後の論文試験を悔いなく受けるために猛勉強の計画を立てた。
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何だか身体の調子が悪いので、ドクター・シューベルトに相談に行った。
おじいちゃんなので気兼ねが無い。予約などしなくても、待合室に座っていれば順番に診てくれる。
ロサンゼルスには珍しい町医者の鏡だ。耳鳴りがするとか肩が痛いとか言うと、自分も痛いけど年だから仕方が無いと答える。
はっ?(あんたの事はどうでもいいんだよ。私の耳鳴り、治しなさいよ!)と、心の中で叫ぶけど、
どんな時でも騒がないので、(まだ死なないんだな… )と安心できる。
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子宮筋腫で入院した時は、手術の後血圧が下がらないのでICUから出してもらえなかったけれど、
ドクター・シューベルトがやって来て大病院の医者達を説得した。
私の血圧は一般病棟に移せば下がると言ったらしい。実際普通の病室に入ったらすぐに下がって、食欲もモリモリ出た。
そのドクター・シューベルトが汗をドッとかいて慌てた。
血糖値を調べたら尋常じゃなく高かったのだ。目が疲れて霞む。急に視力が落ちた。つま先が痺れて時々痛い。
などなどなどと話している内に、ドクター・シューベルトは頭を抱え込んだ。
私のカルテを読み返しウンウン唸っている。
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家族に不幸があったかとか、破産したかとか、会社を首になったかとか、的外れの質問をして来る。
(いったいなんなのよぉ~)と思っていると、
今度は妙に優しい声で、もし視力がなくなっても手術で簡単に治るなどと言い出すではないか。
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これを聞いて私の血圧はギューンと上昇し、顔と両手が赤くなった。
ドクター・シューベルトが言うには、何もショックな事がないのに血糖値が急に高くなるのはけっこう危険な状態らしい。
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私は最近何かショックな事があったか一生懸命考えた。
血糖値に影響するほどショックな事があったのに忘れてしまうなんて。
けれど、いくら考えても思いつかない。悲しいことも気が滅入るようなことも、何にも無い。
私の人生はこれまでずっと54年間平々凡々とハッピーだ。
(あっ!)そうだ。一つだけ … ありました。ちょっと苦労していることが …。
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私は2008年の10月から学校に通っている。
大学院で教育学の勉強をしているのだ。
軽い気持ちで始めた週末だけの日本語学校の教師の仕事をきちんと正式なものにするために色々と学んでいる。
その勉強自体も大変だが、カリフォルニア州の教員試験が私には難しくて、
論文の試験に三回落ちてしまった。
(そうそう)、一回目に落ちた時は、読解問題と数学に受かったので全然気にしなかった。
けれど、二回、三回と落ちて、大学院の授業には受からなければ出られないし、
どうすれば受かるのか解らないしで、切羽詰まっていた。
自分ではショックな出来事という認識ではなかったが、
54歳の身体には相当応えたらしい。これ以外の原因は考えられない。
ドクター・シューベルトは糖尿病予防クラスに予約を取った。
私よりショックを受けてあれやこれやと手を打ってくれた。
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糖尿病予防クラスの先生はマリリンさんという可愛らしい名前ながら、
身長は私とかわらないのに(158cm)体重は少なくとも1.5倍くらいありそうな巨漢で、
話す時もゼイゼイしている。けれど血糖値には問題無しらしい。
マリリンさんは自分で血糖値を測る方法や身体に良い事悪い事を教えてくれた。
私の目の前でドクター・シューベルトに電話をかけガーガーガーと怒鳴りまくった。
私はその日帰宅して、(あと一回だけ論文の試験を受けよう …
それで落ちたら諦めて、大学院を止めよう …)と、心に決めた。
そして最後の論文試験を悔いなく受けるために猛勉強の計画を立てた。
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