染色家である志村ふくみさんが
「紫のゆかり」というごく短い文章で
紫根染および源氏物語について触れている。
紫式部は紫根を染めたことがあるのではないかと、ときどき考えるそうである。
源氏物語にも触れて、
物語の真髄が「紫」という一つの色彩で組み立てられ、進行し、運命づけられるという。
その紫色を得る方法だが、
まず紫根(しこん・ムラサキの根)をもみ出して染液をとる。
そしてその液で染めたものを、椿の灰汁(あく)で媒染する。
媒染とはいわゆる色止めのことで、色を定着させること。
このときに、六〇度以上に液を熱すると
たちまち紫が失われる。
鈍い灰色に変化したその色
「滅紫(めっし)」、けしむらさきに
志村は決して大団円とはいえない源氏物語の行方を重ね合わせる。
そして、色としての紫の成り行きと
物語の終焉を重ね合わせた
紫式部の天才に感慨を深めて文を結んでいる。
生意気だが、
これほど短く美しい源氏への誘いの言葉を私は読んだことがない。
志村だけでなく
芸術家や職人というひとたちの言い回しには
ユニークなものがあって、
そこには
必ず美が存在する。
そんなことを思わせてくれた本です。