日本はこうして「インド新幹線」を勝ち取った
「日印新時代の始まり。歴史的な首脳会談となった」――。安倍晋三首相は記者会見の壇上で誇らしげに語った。
インドネシア新幹線、真に敗れたのは誰か
日本とインドは12月12日の首脳会談で、インドの高速鉄道案件において日本の新幹線方式を採用することで合意した。
受注確実といわれたインドネシアの高速鉄道案件を土壇場で中国にさらわれた日本政府としても、一矢報いた格好だ。
今回、日本が受注するのは、インドに複数ある高速鉄道計画のうち、インド最大の都市ムンバイと工業都市アーメダバードを結ぶ、
約500キロメートルのルート。最高速度は時速320キロメートルで、所要時間は現在の約8時間から2時間程度へ大幅に短縮される。
鉄道網の近代化を政策に掲げるナレンドラ・モディ首相にとって、アーメダバードはかつて行政トップを務めたグジャラート州の主要都市。
今回のルートは、高速鉄道時代の幕開けを飾るのにふさわしい路線といえる。
■ 当初はフランスが先行していた
受注に至るまでの道のりは平坦ではなかった。高速鉄道の事業者選定では、事業化調査(FS)を担当するコンサルタントの発言力がモノを言う。
どのような鉄道システムがふさわしいか、線路の敷設ルートや運賃水準をどうするか、といった根幹部分がFSによって決まるからだ。
2009年に予備段階のFSを請け負ったのはフランスの鉄道コンサルタント、シストラ。そのため当初は、フランスが同路線を受注するとみられていた。
そこから日本は巻き返しに動いた。
最大の武器は資金調達スキームだ。9800億ルピー(約1兆8000億円)に及ぶ事業費の約8割を、日本は円借款による低利融資で提供することができると口説いた。
「日本ほど経済規模が大きくないフランスには、日本のような資金は準備できない。世界銀行や欧州投資銀行などの融資を組み合わせるにしても、
フランスにそこまでの発言権があるかどうか」(政府系機関の関係者)
専用軌道を走る新幹線方式の優位性についても、日本側は繰り返し説明した。
フランスの案は同国の高速鉄道TGVに倣い、都市部周辺では在来線に乗り入れ、市街地を出ると専用線で高速運行をするというものだ。
途中にある人口の多い都市に停車し、こまめに乗客を乗せたほうが利用客を増やせる。反面、途中駅の前後で在来線に乗り入れるため、専用線に比べると、
時間が余計にかかる。安全性にも不安が残った。
■ 新幹線ファンを増やす"草の根活動"
政府高官同士の外交交渉だけでなく、実務者レベルでも新幹線ファンを増やす活動を展開した。
2011年12月にはインド鉄道省の幹部12人を招き、2週間にわたって新幹線の運行指令センター、車両メーカーの工場などを見せて回った。
宮城県利府市にあるJR東日本の新幹線車両基地を訪問した際には、整備中の2階建て新幹線を目の当たりにして「おおっ」という感嘆の声が漏れた。
「1カ月に何両検査するのか」「モーターの牽引力はどれくらいか」。視察後の質疑応答では、専門家ならでは具体的な質問が矢継ぎ早に飛んだ。
こうした実務者レベルへの活動が新幹線採用の強力な地ならしとなったことは間違いない。結果として、日本は予備FSに続く本格的FSを2013年に
逆転受注することができた。実際の調査はJR東日本系の日本コンサルタンツを代表とする企業連合が担当している。
今年7月にインド政府へ提出された最終報告書には、「新幹線」とは名指しされていないものの、「専用軌道方式を前提とした路線計画」が書かれてあった。
「他国の高速鉄道を排除している内容ではないが、実質的に新幹線であることは明らか」(関係者)だった。
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