470『自然と人間の歴史・日本篇』アイヌ新法(1997)
1997年(平成9年)5月に成立し公布され、同年7月に施行されたものに、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(アイヌ文化振興法、アイヌ文化法、アイヌ新法)がある。この法律の附則2条により、北海道旧土人保護法(明治32年法律第27号)および旭川市旧土人保護地処分法(昭和9年法律第9号)は廃止された。
その目的については、1条にこうある。
「この法律は、アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化が置かれている状況にかんがみ、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する国民に対する知識の普及及び啓発を図るための施策を推進することにより、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的とする。」
なぜ「アイヌ民族」といわないのかが不明であるものの、おそらくは世界の先住民族の先住権を認める流れに、日本政府が抗しえなくなった、何らかの対策を講じない訳にはいかなくなったものとみえる。その特徴は、あくまで国としてアイヌ文化の発展に向けて努力したいという目標を掲げるに留まっている。
その後の展開だが、2016年5~6月の各紙による報道で、「政府、アイヌ新法に先住民族明記検討 理念先行に懸念も」などの見出しが連なった。そこでの最大の眼目は、政府が2020年までの制定を検討するアイヌ民族に関する新法の中に、「先住民族」を明記する方向での検討はあるものの、アイヌ民族への生活・教育支援については「盛り込むことは難しい」となっていることだ。
これに対して、北海道アイヌ協会協会幹部らは「新法は理念をうたうだけで骨抜きの内容になりかねない」と怒りを露わにしたと伝わる。反発した。そもそも、同協会は昨年3月、生活・教育支援を政府に要請した。この時、菅義偉官房長官が「法的措置の必要性を総合的に検討する」と表明。昨年7月からアイヌ政策関係省庁連絡会議で、「生活の安定・向上」や「幼児教育の充実」など6項目の検討に着手していたものである。
(続く)
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