『6年前ガンと告げられて』
●半年ごとの検診にむかって
半年ごとの検診の日がやってきました。眠い目をこすりながら
地下鉄の長い階段をのぼると目の前にモダン寺が迎えてくれま
す。緑色のとんがった屋根、アーチ形をした窓枠や柱、まるで
ヨーロッパのお城のような雰囲気のお寺です。「神戸はやっぱり
ハイカラやな」と、いつも思いながら坂道をのぼります。
●病院は日進月歩で変わっていく
ここは日本でも有数の甲状腺専門病院です。今原発の影響でさ
わがれているあの「甲状腺ガン」を診る病院です。大きな白い建
物の病院なんですが、どことなく家庭的な雰囲気もあり、私とし
ては好きな病院の一つです。ここに来るようになってからもう6
年。来る度にあちこちが変わっていて、病院の日進月歩を感じま
す。
さっそく再診受付のやり方が変わっていました。ガードマンの
お兄さんの指示にしたがってボタンを押して・・・。首から呼び
出しブザーをぶらさげて待合い室で待ちます。呼び出しの方法も
「ブーブー」というポケベルから「プルルルルー」という振動
へ。「ナピツト」といって、より静かに快適に私たちが待てるよ
うに工夫がしてありました。こんなところでも日進月歩を感じま
す。
●喉にしこり感が・・何だろうこれ?
6年前初めてこの病院に来たときのことは忘れられません。以
前から喉にしこり感があっていくらたってもとれないので、
「気管支炎かな?」と思ったけど咳はでないし。「ひょっとして
食道ガン?」と一人で思いこみ、何日も眠れなかったりしていま
した。その年受けた人間ドックで「甲状腺腫瘍」と診断されまし
た。
「そうかそうだったのか、甲状腺腫瘍か。それなら治療すれば
治るからだいじょうぶや」と思ってホツとしたのを覚えていま
す。人って病名がわかると、意外にもホッとするところがありま
すよね。それでやってきたのがここ、神戸のK病院。
●「甲状腺ガンです。まちがいありません」
当時のK病院は古い壊れそうな建物でした。暗いなが一い廊下
ににたくさんの患者さんたちがごったがえしてしました。「藤原
さ一ん、5番診察室にお入りください」と、看護師さんの呼ぶ声
も大声で・・。
診察室には5~6人の患者さんが一度に入っていきます。中待
合い室とはカーテン一枚で仕切られている診察室です。血液検査
や超音波検査、それに尖刺検査。これは喉に長い注射針のような
とがった物をさして細胞を調べる検査です。恐いのなんのって!
「はい、5秒数えますからね、ガマンして下さい。12345、は
い、終わり」。
こんな恐い検査もぜんぶ終わって、いよいよ判決のときがやっ
てきました。「何て言われるんだろう・・・・もしかしてガン?
いや、まさか・・甲状腺腫瘍だもん」と、胸はドキドキ。頭のな
かはこの二つの病名がぐるぐるとまわりだし自分を支えるのが
やっとでした。「藤原さん、甲状腺ガンです。まちがいありませ
ん」という医師の短いけれどきっぱりとした声。「ガーン!」と
頭を殴られたようなショック。目の前がクラーツとなってなにも
考えられませんでした。
こんなきわどい一部始終も他の患者さんたちとカーテン一枚へ
だてて共有するような診察室だったのです。
(つづく)