満天の星空が見たい!

温泉旅がメインの生活。酒とグルメとミステリ小説、ごくたまに失恋の話。

馴染みの寿司屋のカウンターはオアシスである!

2016-02-26 22:21:10 | グルメ


俺は、「無駄遣い王」だ。お金を貯めるという認識がなかったし、
「老後を考える」という危機感もなかった。童話のアリとキリギリ
スで言えば、もちろん、キリギリスである。夏場に遊び呆けて、冬
になると家も食べ物もなく、寒さと飢えで死んで行く…。


これは幼少のころ極貧で、お金に苦労したという「反動」だと思って
いる。普通は、お金に苦労したから、お金を大事にし、お金持ちを目
指すと思いがちだが、実際はそうではない。俺の場合は、宵越しのお
金を持たず、贅沢三昧、その日、その日を思い切り楽しむ…という方
向に突き進んで行った。


小学6年の時、お盆に、祖母の親類の人が来て、駅前の食堂に連れて行っ
てもらった。、「なんでも食べてもいいよ」と言われ、そこで選んだメニ
ューが、「ざるそば」だった。ざるそば?なんでざるそば?と思うだろう
が、本当に食べたかったというのもあるが、本音を言うと、他の食べ物を
知らなかったからである。高校を卒業するまで、食堂や、レストランで食
事をした経験はほとんどなかった。


就職して初めて寿司屋に行ったが、昼間のランチで、カウンターではなく、
テーブルで盛り合わせを食べた。その美味しさたるや!「世の中には、こんな
旨いものがあるのか!」と思った。もちろん、刺身は食べたことがあるし、バ
ラ寿司、巻き寿司もお祭りや遠足、運動会などで食べたことはあつた。しかし、
握り寿司は初めてだった(40年前だから)。


さいたま市に住む友人の話は泣けた。田舎(宮城県の地方都市)の両親が東京見物に
来ることになり、なんでも希望を言ってくれと聞くと、「一度でいいから、寿司屋
のカウンターに座り、思う存分寿司を食べてみたい」ということだった。


その友人はしんみりした。「そうか、俺たち兄弟5人を育てるのに、寿司屋も行ってい
なかったのか…」と、思うと、涙が浮かんできたという。もちろん、快諾し、自分の
住まいの近くの、常連にしている寿司屋にその旨を伝えた。


「いいお話ですね。了解いたしました。精一杯、うまい寿司を握らせていただきます」と、
寿司屋の大将が言った。その時は、初めて親孝行ができる…という喜びで一杯だっと言う。

だが、予約した時間に行くと、カウンターは満員で座れなかった。「すみません、急きょ、
お得意さんの予約が入ってしまって…。一応、座敷は開けておりますので、しばらくお待ち
いただけますか?」と、大将は言ったが、「お、お前なあ、うちの両親は宮城から来ている
んだぞ!」と、声を荒げた。


それを見て、両親は、「いいんだよ。美味しそうなお店だし、この席でも構わないよ」と気を
遣ったらしい。でも、友人は我慢できなかった。「いや、これは許すことはできない。あれほ
ど念を押したのに、あれほど両親が楽しみにしていると言ったのに、この店の暖簾は二度とく
ぐらん!」と、両親を連れて外に出た。


それから他の寿司屋に行き、カウンターで一緒に寿司を食べたらしいが、旨さは半減である。
「もちろん、その店は二度と行っていない。ボクは誰にもこの話はしなかったけど、たまたま店
に友人が来ていて、その話が広まったらしい。知り合いもその店に行かなくなって、そのせいだ
けではないだろうが、寿司屋はつぶれたらしいよ」と、言った。


しかし、友人の顔は複雑な表情だった。俺たちが遊びに行くと、いつもその店に招待してくれた。
酒も寿司もうまかった。友人としては、人生のオアシスを一つ失くした気持だったのではないか?


寿司屋のカウンターで旨い酒を飲み、旨い寿司を食べる…今でも一番の贅沢であり、憧れである。




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