今年度で開館25周年を迎えたびわ湖ホールの活動を支える専属の声楽アンサンブルの東京公演である。前日には本拠地びわ湖ホールでの初日公演があったので、この日が二日目ということになる。今回は初代音楽監督若杉弘氏へのオマージュということで「The オペラ!」と題され、若杉が愛し「青少年オペラ劇場」として幾度も上演を重ねたブリテン作曲の歌劇「小さな煙突掃除屋さん」のセミ舞台上演がメインであった。この45分ほどの小オペラは、「オペラを作ろう」という3幕仕立ての舞台作品の一部で、最初の二つの幕では背景がドラマとして語られ、この作品はその第3幕という位置付けになる。そして今回それに先立って演奏されたのは、何と演奏時間90分を要するヴェルディ作曲の「レクイエム」なのだ。これは世界的にもほとんど顧みられることのないヴェルディの初期オペラ八作品の舞台を、オール日本人ダブル・キャストで立て続けに上演し成功に導いた若杉の快挙に敬意を表した選曲なのだろうと想像するが、それにしても何とも驚きを禁じ得ない、無謀とも言える選曲ではないか。しかしその企画の破天荒な自由さは、このアンサンブルならでは、あるいはびわ湖ホールならではと言って良いのではないか。さて演奏の方は、この劇場とは座付きの演出家のごとく関係の深い中村敬一の要領の良い構成・演出が功を奏した後半が圧倒的に面白かった。アンサンブルの一人一人の生き生きした歌と芝居が作品を大いに盛り立て楽しませてくれた。そうした特質はびわ湖ホールでの大オペラとの共演や中ホールでの自主オペラ、更には70回を超える定期公演や地域を中心とした幅広い活動で培われたものだろう。聴きながら、1960年代初めの若き日々から日本のオペラ界を影で支え、ついには牽引し続けた初代音楽監督若杉弘のオペラへの強い愛と心意気が、現在のびわ湖ホールにしっかりと根付いていることを強く感じ胸が熱くなった。一方前半のヴェルディは17名のメンバーと河原忠之の指揮・ピアノ伴奏だけという小編成の演奏。(誰の編曲なのかは明らかにされていない)こちらは小編成なので声楽的には各声部が良く聞き取れてとても興味深いものだった。ただし本来オーケストラが圧倒的に物を言う作品だけに、ピアノ一台の寂しさを克服することができなかったというのが正直な感想なのだが、それは今回のセッティングの限界であろう。
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