都響とは初顔合わせになる80歳の老匠レナート・スラットキンを迎えた新春初の定期演奏会だ。一曲目は彼の奥方で作曲家のシンディ・マクティの「弦楽のためのアダージョ」。あの9.11をきかっけとして作られた曲だそうで、深い悲しみを音で表現するというよりも内省的な穏やかさが勝った美しい作品。メロディは常に下降して続くことなく途切れてゆく様が当時のアメリカ国民の心象を巧みに表しているように受け止めた。この方が悲劇を声高に語るよりもづっと説得力があるものだ。続いてはバイオリン独奏に金川真弓を迎えてウオルトンのバイオリン協奏曲である。滅多に聞かれることのない30分を要する大曲だ。ウオルトンというと個人的には大げさで賑々しい印象があったが、此の曲は深く内省的で情緒豊かな佳作だ。金川の独奏はじっくり深い叙情に根ざしていて曲想にベストマッチしており、完璧なバランスの伴奏に支えられてこの佳作の良さを最大限に開花させたと言って良いだろう。最後はラフマニノフの交響曲第2番ホ短調作品27。これは賛否両論ある演奏だったと思う。それは仄暗いロシア・ロマンティシズムを咽び泣くように謳い上げるのではなく、美しい旋律やハーモニーをスキッリとスタイリッシュに纏め上げた品格漂うある意味アメリカ的な演奏だった。さりとて60年代のアメリカのようなゴージャス感は綺麗に拭い取られているので、結果として内声部が透けて聞こえてくるから美しい旋律に酔いつつも新たな発見も多い実りある楽しい一時間だった。こういう演奏で聞くと一般的に長く感じられがちなカット無しの長尺版もあっと言う間だった。現在の都響の持つ機能性を十二分に開花させたスラットキンの指揮にこの楽団との相性の良さを感じた。
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