2024年の聖金曜日にタケミツ・メモリアルホールで開催されたBCJによるJ.S.バッハ作曲マタイ受難曲の演奏会である。指揮は主席指揮者の鈴木優人。エヴァンゲリストはベンヤミン・ブルンス、ソプラノはハナ・ブラシコヴァと松井亜季、アルトはアレクサンダー・チャンスと久保法之、テノールは櫻田亮、バスは加耒徹とマティアス・ヘルムという声楽陣だ。私はキリスト教者ではないけれど、やはりこの曲を聞くとなれば襟を正して聞かざるを得ない。前回は2015年のラ・フォル・ジュルネだったと思う。プログラムによるとその時が今回の指揮者鈴木優人のマタイ初振りだったということだ。まあそれはともかくとして、キリスト受難の3時間を超える大曲の中に身を置くことは決して楽なことではないので、これが生涯最後の生マタイになるのかなと思いつつ席についた。生き生きとしていて俊烈な響き、しかし決して禁欲的でなく心地よく自然な音楽は、一瞬にして私の心を鷲掴みにし、3時間はアッ言う間に大きな感動のうちに過ぎ去った。それはもちろん声楽のパートにも器楽のパートにも最高の演奏者を揃えたBCJの成せる技ではあるのだが、それにしても鈴木が各コラールに与えた表現の多彩さは何ということだろう。この曲に於いてコラールは民衆の心を代弁する役割を果たすが、このように歌われると聞く者は否応なしに受難のストーリーに引き込まれるのである。これまで聞いてきたコラールとは異次元の音響世界で、こんなに心に染み入るコラールは受難曲で聞いたことがない。そしてブルンズの語り部としての秀でた歌唱も極めて大きな牽引力となった。こうした全体的な感動の中でははなはだ微視的なことになるが、第42曲のバスのアリアに寄り添った若松夏美のオブリガード・バイオリンの鮮やかさは、この厳粛な時間の流れの中で一服の清涼剤として深く印象に残った。いや〜言葉にし難い実に貴重な、そして有り難い時間だった。
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