2023年度最後の定期は、常任指揮者高関健の指揮でシベリウスとマーラーの二曲。この二人は5歳違いのほぼ同年齢だが、その作風は雲泥の差だ。プレトークによると作曲についての考え方も全く相入れなかったらしい。最初に置かれたシベリウスの交響詩「タピオラ」作品112は彼の作曲キャリアの最後期の作品で、自然と対話するような内相的な作品だ。高関によると作曲技法も大変にシンプルだという。高関の緻密でありながら広い視野を感じさせる指揮と透明感のあるシティ・フィルの音色は、そうした作品の特色を神々しいまでに描き切った。休憩後はマーラーの交響曲第5番嬰ハ短調。今回はハープ2台使用の他ダイナミックスやアーティキュレーションにいくつかの変更が施された国際マーラー協会の「ラインホルト・クビーク校訂2002年版」が使用された。演奏の方は大変に見事なものだった。版の違いに起因するのか指揮者の解釈に起因するか素人には定かではないが、これほど声部が混濁せずに様々な音の絡みが明確に聞き取れるこの曲の演奏を私はこれまで実演では聞いたことがない。それがきちんと整理されているので純音楽的説得力は絶大だ。その一方で「アダージェット」の陶酔感は奥に引っ込んだ感じだったが、ダブルハープの音色の妙がその穴埋めを果たした。そのように基本的には2022年3月に演奏された同じくマーラーの9番と同様、マーラーの演奏にありがちな独特な思い入れは排除され、この作曲家の音楽の立派さだけが聳え立ち、聞くものはそれに圧倒される。それをバックアップしたのは、もちろんこの9年間に高関自身が鍛え上げた現在のシティ・フィルの実力だ。とりわけトランペット主席の松本亜希とホルンの谷あかねの好演は今回の演奏会の華となった。松本も谷も最初はいささか緊張気味で些細なキズもあったが、その後の彼女らの技の前にはそれらは帳消しになろう。谷の美音を基調とした音量コントロールの妙には胸すくものがあったし、松本のシャープな音色やピアニッシモの美しさの効果は絶大だった。もちろん他の金管の力感や木管の表現力も一時代前とは比較の仕様のないものだったし、キレキレの弦楽群、シャープな打楽器群をも賞賛したい。満場の絶大な拍手に指揮者のソロアンコールと思いきや、高関は谷と松本を引き連れて登場し会場は大きな声援に包まれた。このように高関9年目のシーズンは有終の美を飾ったわけであるが、来年度は更にどんな進化を聞かせてくれるか、今からとても楽しみである。
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