蛍のひとりごと

徒然に、心に浮かんでくる地唄のお話を、気ままに綴ってみるのも楽しそう、、、

地唄三味線って?

2005年05月07日 | 地唄箏曲よもやま
地唄箏曲は、弾き歌いです・・・。

と申しますと、「え?歌うんですか?」とよく驚かれます。
お三味線と申しますと、
やはり歌舞伎座などでご覧になる印象がお強いのでしょうね。


人形浄瑠璃や歌舞伎の下座音楽に使われますのが、
義太夫や長唄、清元、常磐津、
これらはどちらも、もともと舞台音楽として作られておりますので、
お唄は太夫さん、お三味線を弾くのは別の人と決まっております。
あれだけのお声で、長時間の浄瑠璃を語られたり、
お歌いになったりするのですもの。
とても伴奏までご自分でという訳にはまいりませんでしょう。

また、あくまで興行でございますから、
お客様に受けてナンボの世界でございましょ。
泣いたり笑ったりの中に、必ず見せ場を拵えての拍手喝采・・・。
派手でかっこよくて、気分がスカッと致しますね。



最近は津軽三味線が大はやりで、大変結構なことでございます。

ウチなどにも、津軽三味線を教えて下さいというお問合せがございまして、
「申し訳ございませんが・・・」と丁重にお詫び申しあげることが度々。

ところで、津軽三味線は、本来「門付け」の音楽でございます。
転々と家々を廻り、お包みなりお米なりを頂戴できなければ、
その日の食べ物にも困ります。
それは文字通りの命懸けの演奏でございました。
寒い雪の降る戸外に立って長時間弾いていても手がかじかんでしまわないよう、
モーレツな速さで手を動かしてお弾きになるようになったと伺っております。

力強さの中に物哀しさを秘め、叫ぶような切なさに、心がじぃ~んといたします。



そこへまいりますと、地唄は何でございましょ。



良家のお嬢様が教養のひとつとして地唄をお習いになっておりました。

   「昔のしきたりは、わりにむつかしおわしたな。
    あたしらから考えたら。
    お稽古に見えましてもみんな行儀がよろしゅうわりましたしな。
    習いやるお方は、お行儀ようしたりやしたな。」

船場で代々地唄やお箏を教える家元でいらした菊原初子先生が
このように美しい船場言葉でお話になっていらっしゃるのを、
襖の陰で、谷崎潤一郎さんがお聞きになり、そのイメージで
『細雪』をご執筆なさったというのが有名なお話でございます。

裕福なご家庭の中とお座敷だけで演奏されてきた音楽です。
寒いワケでもお腹がすいているワケでもございませんし、
ここで何やら頂戴物をしたいような考えなど、まして毛頭ございません。

また、歌舞伎やお芝居のような興行でもございませんので、
お客様に受けなくて木戸銭が入らなかったらどうしましょう
なんて心配をする人もおりません。
大声を張り上げて、ビックリさせなくても結構なのです。


こんな調子でございますから、
「地唄って、なんだか退屈なアレでしょ。」
なんてことになってしまうのも道理でございますわね。





それでも、私は大好きなのです。
たまらなく良いなぁと、はんなり心深くにしみ入って、
ホロリと涙がこぼれるのです。


地唄は結局、自分のために弾く音楽・・・


知っている人達の間だけで腕を磨きあう・・・
ただそれだけのことに人生をかけるのが地唄箏曲演奏家でございます。



好き放題のよしなしごと、異論をお持ちの方にはお腹立ちでもございましょうが、
どうぞお許し下さいませ。のち

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菊棚月清大検校  『生き生きて地唄旅』

2005年05月01日 | 地唄箏曲よもやま
『生き生きて地唄旅~大検校が語る伝承の世界~』(なにわ塾叢書)
というご本を今、読み終えさせていただきました。
地唄箏曲演奏家の菊棚月清大検校さまの聞書きをまとめたご本でございます。



     菊棚月清大検校。信じられない存在である。
     誰も知らない古曲や秘曲を含め、地唄を何百曲伝承しているのか。
     ご本人にも、お弟子さんにも、誰にも分らない。・・・・・(略)


     菊棚月清大検校。 
     曲数、正統性、貴重さ、その認識はお持ちのようである。
     それなのに、これを誇ろうとか、これで有名になろうとか、
     これを金にしようとか、そういう意識が一切ないのである。・・・・・(略)
 

     菊棚月清大検校。本当に地唄がお好きだったのだ。
     教えられたままを覚えられ、それ以上のことは考える余地も
     暇も何もなかったようだ。・・・・・(略)




この本のコーディネーターをなさった高木浩志氏のまえがきにはこのように書かれてございます。

素敵なお言葉ばかりが散りばめられ、どこを取り上げてどう申し上げたらよろしいものやら私には分りません。平成九年に90歳のお誕生日を迎えられた大検校さまの語られるさりげないお言葉のひとつひとつに、プッと吹き出したり、ハッとしたり、頷いたり、ジーンとしたりさせていただきながら、何とも気持ちが良くて爽やかで、そして最後に、しみじみと熱い想いが残りました。



     「父がよく言いました。
     『あんたなぁ、一生懸命やるのはええけど、
     ええ気になったりしたらあかんで』とね。
     私もそう思うて生きてきました。
     芸は人となり。威張ったらいかん。
     芸でその人の人柄が分りますからなあ。」



     「失明して良かった、ずっと幸せであった。
     今も青春、来世でも地唄をやる・・・。」



とても良い本でございます。
どうぞ皆さま、お手に取って是非一度お読み下さいな。
お稽古場の文机にも一冊おいてございます。
コメント (3)
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